神化の名
『それで、イルミデンテとネクロートが裏切ったのね』
『そうじゃな・・・リッチはどうやらイルミデンテの口車に乗せられてその行動が正しいものだと思っていたらしいがな』
トトは神化の名の先駆けとなる話を続ける・・・そして物語は悲しい結末と共に終演へと向かっていった。
『しかし良かったのヴィゼイアスは撤退しろって言っていたのに』
『だったら何でついてきたんの?リッチだって本当は興味があったんでしょ』
『そりゃそうですよ。あの機械侵食者化した生物を見れば科学者として当然です』
隕石の落下地点に到着したイルミデンテ、ネクロート、リッチは目の前に拡がる光景を見て息をのむ。
大気圏で多少燃え尽きてしまったとはいえ、目の前の隕石は子供の大きさだ。周りは落下の衝撃で建物が軒並み瓦礫と化しているだけではなく、機械侵食者因子によって大気が汚染されてしまっている。
『まぁ。ヴィゼイアスにはお土産としてプレゼントしますよ』
『しかし、汚染濃度が濃いねー』
『仕方ありません。さっさと隕石の回収に移りますよ』
そう言うとリッチは見張り、イルミデンテ達は隕石の回収に移る。
と言っていこの隕石を回収する為にはネクロートの侵食細胞によって生み出される収納カプセルは、作り出す為には少しばかり時間が必要なのだが。
『ネクロートそろそろ出来ましたか?』
『後少しですね。周りには何か・・・』
『イルミデンテ、ちょっと来て』
『失礼。ネクロート少し席を外しますよ』
イルミデンテがリッチに呼び出されて離れていく。
『どうしてたのですか?』
『イルミデンテこれって不味くはないですかね?
あれ・・・ヴィゼイアス達じゃないですか?』
『ちょっと借してください』
イルミデンテはリッチから借りた双眼鏡でリッチが指差しをしている方向を覗き込む。
肉眼では確認は出来ないがこちらに近づいてくる3つの人影。このアークコード内において人が確認されてはいない、つまり必然的にその3人の人影はヴィゼイアス、イクサ、トトの3人と考えられる。
『なるほど・・・』
『やっぱり黙って来たのは不味かったですよねーどうしますか?』
『そうですね・・・すみませんねリッチ』
リッチの意識が途絶える・・・
イルミデンテは気絶したリッチを抱き抱えてネクロートの方に向かっていく。どのようにしてリッチを気絶させたのかは不明なのだが、リッチは気を失っていて当分は目が覚めなさそうだ。
『申し訳ないリッチ・・・私はこの隕石を持ち替えらなければならないのだよ。
君もネクロートの様に協力してくれれば良かったのにね』
イルミデンテがネクロートの元に戻ると、そこには完成した収納カプセルが出来上がっていてネクロートが少しぐったりとしている。
どうやら侵食細胞を使いすぎたようだ。
『お疲れ様ですネクロート。どうやらヴィゼイアス達がこちらに近づいて来ています。私が奴らの気を引き付けるので撤退してください』
『ちょっと待ってよ。私はこれを作り出すのに結構な量の侵食細胞を使用してふらふらなの。
それなのにこのカプセルとリッチを担いで撤退しろって言うの!?
無理なんだけど』
ネクロートはぶつぶつと文句を言いながらもカプセルに隕石の欠片を拾い集める。
イルミデンテはヴィゼイアス達に気がつかれ無いように狙撃ポイントへと移動する。狙撃と言ってもイルミデンテの武器の射程は短い、ヴィゼイアス達に気がつかれず狙撃するのは不可能なのだ。
なのでイルミデンテはヴィゼイアス達にも知らせていないもう1つの武器、遠距離型武器であるスナイパーライフルを構える。
このスナイパーライフルはレールガン程の威力はないがひとひとりを殺すには十分な威力がある。しかしながらスナイパーライフルという物は一撃必殺、連射力には優れてはいない。
『さて、ネクロートは上手く隕石の欠片を回収出来ているでしょうか?』
そう言いながらイルミデンテは銃口をヴィゼイアスに向けて・・・撃つ!
スナイパーライフルの一撃を受けてヴィゼイアスは倒れる・・・筈だった。
イルミデンテの放った弾丸はイクサの盾によって防がれてしまった。
『あらら・・・不味いですね。イクサは今の攻撃を防ぐのか』
『今のは・・・イルミデンテか!?』
『私がいく!』
『おい!イクサちょっと待っ・・・行ってしまった』
『・・・仕方ありません。
トト先を急ぎましょう。なんだか嫌な予感がします』
ヴィゼイアスを狙撃された事に激怒したイクサはトトの話を聞かずに飛び出して行った。行き場所はもちろんイルミデンテが狙撃してきた方向だ。
ヴィゼイアスとトトは隕石落下地点に向かって走っていく。
『イルミデンテ貴様!』
『イクサ悪いですが少し黙っていてもらえますかね』
イクサが翼を使いイルミデンテの居るところに向かって飛び、右手の槍で攻撃を仕掛ける。
対するイルミデンテは持っていたスナイパーライフルを投げ捨てると、レールガンを構えて撃つ。
イクサはその攻撃を左手の盾で防ぐのだが、衝撃で後方に吹っ飛ばされてしまった。
しかしイクサは直撃する前に翼を拡げて空気抵抗を増やして遠くに吹き飛ばされるのを防ぐ。残念ながらレールガンによって防いだ筈の盾がひしゃげただけではなくその衝撃で左手が使い物にならなくなってしまった。
『流石の反応速度ですね』
『自惚れるなよイルミデンテ。左手が使えずとも貴様を再起不能にすることは出来るのだぞ』
『知っていますよ。その槍は脅威ですからね』
イクサは右手の槍で接近戦を仕掛ける。イクサはヴィゼイアスのレールガンが連射不可であることを知っているので、左手の止血もせずに特攻を仕掛けてしまった事を後悔する・・・
『悪いですねイクサ。時間が惜しいので』
その場に佇むイルミデンテとその場に倒れこみイクサ・・・イルミデンテが仕掛けた罠によって気絶させられてしまった。
『やはりネクロートに頼んで罠を作ってもらって正解でした。
しかし・・・不味いですね。ネクロートの方にヴィゼイアスとトトが向かいましたか』
ヴィゼイアスとトトはネクロートと遭遇し、ネクロートが持ち去ろうとしていた隕石の破片が入っていたカプセルの破壊に成功した。
『ネクロート悪いですが裏切り者には死んでもらいますよ』
『全く今日はついてないですね』
トトはネクロートに向かって刃を突きつける。
ネクロートはトトによって破壊にされたカプセルを放り投げると、右手のガントレットに嵌め込められている歯車を動かして組み込まれている短剣で応戦しようとしている。
『トトこの場を頼みます。私は隕石の回収に向かいますので』
『御武運を・・・』
ヴィゼイアスは隕石の回収に向かって歩きだす。
少し休憩したとはいえ一度使用した侵食細胞は戻らないヴィゼイアスにとっては致命的で、もう一度侵食細胞を発動した場合自力で戻る事が可能なのか考えていた・・・
『見逃してくれないかなトト?』
『ふざけた事を・・・規則を破ったのですからそれなりの覚悟があったのじゃないのかのぉ』
『ちょっとした好奇心だよ』
『そうですよ。ちょっとした好奇心なのですよ。私もネクロートも』
トトが驚いて後ろを振り向くとそこにはイルミデンテが戻って来ていた。
先程ヴィゼイアスを狙撃したスナイパーライフルを背中に背負って、レールガンを右手に持ち、左手にはネクロートが破棄した筈のカプセルを持っている。
『イルミデンテ・・・』
『それとトト。彼方にイクサを放置して来ました回収するなら向かっても結構ですよ』
突然現れたイルミデンテに気を取られている隙にネクロートが、再び右手のガントレットの歯車を動かしてグレネード弾らしき物を精製してトトに向かって撃つ。
しかし、トトは向かってくるグレネード弾を一刀両断する事に成功する。
『流石トトだねぇ・・・だけどその行動は失敗だよ』
『謀ったなネクロート!』
トトの持っている剣に灰色の粘液がまとわりつき急速に硬化していく。
先程ネクロートが撃ったグレネード弾の中身は着弾地点に身動きがとりにくい粘液をばらまく物で、その粘液は侵食細胞に反応して急速に硬化していく作用が物だ。
そうとも知らずにトトは斬ってしまった為に自身の刀と持っている右手が身動き不能になってしまった。
『どうしますトト?イクサを助けに行った方が得だと思いますよ』
『イルミデンテ!ヴィゼイアスが隕石の回収に向かった』
『・・・それを早く言って欲しかったですね』
『くそ!イルミデンテ、ネクロート貴様ら後で覚えてろよ』
イルミデンテはネクロートの元に、トトはイクサの元へと戻っていく。
『イルミデンテ私は残念だけど隕石の元へは行けないね。もうさっきので侵食細胞がもう残り僅かなんだよね』
『そうですか・・・しかしトトめやってくれましたね。これでは充分に成分を採取出来ないですね』
『ごめんね。流石に私じゃトトとは渡り合えないからカプセルに細工して壊れやすいようにしていたんだ』
『仕方ありません・・・私はヴィゼイアスを追って行きます。ネクロートはリッチを回収してトト達に見つからない様に隠れていてください』
ネクロートと今後について話した後でイルミデンテはヴィゼイアスが向かったと思われる隕石の本体へと向かっていく。
イルミデンテの侵食細胞も最早残り僅かとなっており、レールガンの残りの弾丸は2個ほど精製可能な状態だ。ちなみにスナイパーライフルは必要ないと判断したのかネクロートの預けてきているので狙撃は不可能である。
そもそもヴィゼイアスに通じるとは思えないが・・・
『・・・なんということだ』
イルミデンテは絶句する。
回収しようとした隕石が既にヴィゼイアスの手によって無力化されてしまっていた。
『ヴィゼイアス貴女はそれほど迄に進化を嫌うのですか・・・あの実験は人類を新たなる種へと進化させるものだというのに。
貴女は何故・・・』
イルミデンテの目の前には隕石を無力化させる為、自ら命と引き換えにヴィゼイアスが結晶化しており巨大な水晶の様になっている。
隕石全てを覆い尽くしているヴィゼイアスの侵食結晶によって今後周囲のの汚染が進む事はないだけではなく、この侵食結晶によって機械侵食者、偽りの名の攻撃では傷つく事はなくなってしまった。
この巨大な水晶を壊す成す術がないイルミデンテはこの場を後にする。
巨大な水晶の中にいるヴィゼイアスはもう既に死んではいるが結晶化した事によって人形の様に美しいままである・・・この水晶が壊れることはあるのだろうか。




