侵食結晶
姫子はオメガ達と戦った事を書いた報告書を持って、イクサの秘書兼参謀である四季葵に会うために帝の軍勢中央本部へと来ていた。
何度か葵に報告書を出している姫子なのだが、今回ばかりは少しばかり緊張をしているようだ。
それもその筈、今回の作戦には帝の軍勢最高司令のイクサも姫子の報告を聞く為に同席すると言っているからである。
姫子は司令室に入る前に深呼吸をして気持ちを落ちつかせる。
『失礼します。報告書をお持ちしました』
そう言うと姫子は扉をノックして室内へと入っていった。
帝の軍勢総本部・司令室
『報告書に書かれていることはこれで全てなのですね?』
『はい。以上がオメガ様、パルパト様、トト様が特別強襲作戦においての敵、神化の名N ネクロートと名乗る人物と、偽装機械侵食者R リッチと戦闘を開始。
ネクロートは戦闘不能、リッチに関しては討伐なさったとのことです』
葵は姫子からの報告書に書かれていることを再確認しながら、報告書に不備がないか姫子と事実確認している最中だ。
『わかりました。夢見少尉下がって結構です』
『失礼しました』
姫子は敬礼後この場を去る
『なるほど・・・トト達も神化の名と偽装機械侵食者との戦闘があったと言ううことか』
『はい。報告書にも書かれいます。これは朗報ですねイクサ様』
『そのようだな。後でトト達には何かプレゼントをしなければ』
イクサは葵から渡された資料を見ている。
姫子からあがった資料を要約すると、オメガ、パルパト両名は神化の名N ネクロートと戦闘を初め、ネクロートの所持している団子虫型の機械侵食者を撃破。ネクロートは撤退しオメガ達はネクロートを追って逃げ込んだ廃病にて偽装機械侵食者となったリッチと遭遇、撃破したという事になっている。
『しかしこの報告書を見る限りネクロートを取り逃がしているようですね』
『仕方ないさ、彼らも満身創痍だったらしいではないか。それにあの偽装機械侵食者を仕留めたということは、少なくとも奴らの戦力を削いだことには変わらないのだから』
『そうですね。しかし私が気になる事がもう1つあります』
『神化の名がレベル3への到達したという事実か・・・やはり他の偽りの名に知らせるべきなのか?』
イクサは報告書を机に置くと葵から受け取った珈琲を飲みながら葵に問いかける。
レベル3のことを他の偽りの名に知らせるべきなのか、それとも知らせないべきなのか。
イクサ達は頭を悩ませていた。
『葵。あの宝石を』
『わかりました』
そういうと葵は自身の首にかけていることにロケットをイクサに手渡す。
ロケットとは本来写真を入れておく物なのだが、葵のロケットは普通のロケットより分厚くなっている。
その理由は・・・
『偽りの名Q クインティアの侵食結晶・・・しかし奴らはエンラ、リッチを偽装機械侵食者と変えていると言うことは、奴らと共に抜け出したユセの侵食結晶と考えた方だとは思うのだが・・・問題は』
『侵食結晶が2つ存在するということですね』
『そうだ!』
葵のロケットから取り出したのは純白の宝石。その純白な宝石はイクサが偽りの名Q クインティアから造られた侵食結晶である。
侵食結晶とは偽りの名の中に存在する侵食細胞を純化させ、血液と共に凝結させた物である。
本来、侵食細胞は偽りの名の体内に存在し能力を使う事に消費される。しかも能力を使い過ぎると自身の細胞事態が変化を起こし、機械侵食者になると言われている。なのでその侵食細胞を抑える薬を、偽りの名の連中は常に2つ以上所持をする決まりがあるのだ。
そしてもう1つ・・・偽りの名が生きている間に侵食細胞を抜き取り、血液と共に凝結させた場合・・・侵食結晶を作る事が可能である。
しかし侵食細胞を抜き取られた場合、偽りの名としての能力だけではなく、人として存在することはできない。つまり自身の死と引き換えでなければ生み出すことが出来ない物質なのである。
こうして生み出された侵食結晶は侵食細胞を増幅させるだけではなく、侵食細胞を抑えることも今まで以上に可能にし、本来到達できない筈のレベル3へと到達することが可能であると言われている。
『しかしそれだけではない。奴らは侵食結晶を生み出す方法を知っていると言うことも重要なことだ。侵食結晶を生み出す方法は今は私しか知り得ない筈だ・・・』
『ですが、奴らは侵食結晶を生み出すだけではなく、それを兵器として運用していると報告書にも書かれておりますし、何よりもイエス様がこの目で確かめられましたよね?』
『その通りなのだよ葵。奴らは侵食結晶を使用した。この私が証言する。
だが、少し不思議なのだがイルミデンテが使用した侵食結晶なのだが・・・どうにも私の持っているクインティアの侵食結晶より出力が低い。多分あれが本気なのだとすると、クインティアの侵食結晶の3分の1程度だと思うのだよ?』
『それはイクサ様が最強の偽りの名だからではないのですか?
私にはイルミデンテの実力は良く知らないので分からないのですが、侵食結晶にも個体さもあるのでしょうか?』
『それは私にも分からない・・・我々が所持している侵食結晶はクインティアの物のみ。
葵、私は他の偽りの名をクインティアと同じように結晶化はさせたくは無いのだよ』
当然である侵食結晶は造り出すにはクインティアの命と引き換えにしなければならなかったのだから。いくら機械侵食者に勝つ為とはいえ自身の部下を命と引き換えにするのは酷である。
クインティアの場合はこの地の流行り病にかかってしまい、仕方なく結晶化を進めざる終えなかったからであり、今でもイクサはクインティアの事を忘れない為に葵に預けている。
『それは理解しています。
それとイクサ様、私は他の偽りの名には知らさない方がよろしいかと』
『私も知らせない方がいいと思うのだよ。
それと1つ忘れていた事なのだが、我々の側にも着いていなく、奴らにも着いていない者がいた筈だ』
『裏切り者・・・フリーですか?』
『そうだ!フリーはあの事件いらい偽りの名を出ていき、神化の名とも距離を置いていると我々は推測していた。
しかし、オメガ達と戦闘をした後、奴らに捕らえられて結晶化したと考えると納得がいく』
『しかしイクサ様。それではただの空論ですよ』
イクサと葵は忘れていた裏切り者のフリーの事を思い出す。
フリーはどちらの組織にも属さずにただ真実を追い求めていると言っていた。フリーからの証言とイルミデンテから証言なのだが、どちらも物的証拠がない為ただの空論と言われても仕方ないのだ。
『確かにそうだな・・・?』
イクサが考える込んでいると司令室にノックの音が響く。
葵がイクサに一礼した後、ドアの向こうで待つ人物を確認しに行く。
『イクサ様。ジェスパー様と検死医のレイゲン・ブレイワークが話があるそうです』
『そうか。では入れてくれ』
葵がイクサから許可をとるとジェスパーを中へと入れる。
ジェスパーは前の強襲作戦では別動隊として、空からくるであろう機械侵食者の排除にあたっていた。報告書によると鳥型の機械侵食者を排除した後に何者かに狙撃され、右腕を負傷したと記入されている。
検死医であるレイゲンとこの場に直接来たと言うことは、どうやら何か気になることがあるようだ。
『失礼すますイクサ様!』
『失礼するよ』
レイゲンは規律通りの敬礼を、ジェスパーも形たけではあるが敬礼をしている。
『イクサ様、私が検死を担当しておりますグリーゼス様についてなのですが・・・検死の結果。グリーゼス様の死因は頭部を粉砕された事による即死だと判断いたししました。
そしてグリーゼス様と先行した部隊の内数名を検死したところ、全ての死亡が頭部に打撃を受けて即死。
しかし奇妙な事に先行部隊の大半の死亡時刻が同時と判断いたします』
『なるほど・・・つまり結論から言うと先行部隊の大半は同時に死亡したと』
『イクサ気がついていると思うが、あのグリーゼスと同等に戦い、そして倒しただけではなく、数名を同時殺すことだできるのは彼奴しかいないと思う』
『確かそうだな・・・それに頭部への打撃という事を考えると、裏切り者 フリーが妥当か?』
『そう私は思うよ』
グリーゼスとその先行部隊の検死を担当したレイゲンから言われた事実を整理すると、グリーゼスを殺したのは十中八九フリーであると考えた方が妥当である。
元グリーゼスの部下であるフリーであるのならばグリーゼスの侵食能力を知っているので対処は可能である。そして偽りの名最速であるフリーであれば、帝の軍勢を同時に殺すことも可能である。
『しかしそれだけなら何故ジェスパーも司令室に来たのだ?』
『そのことなんだけど。私を狙撃した奴の検討がついたの』
『神化の名U ユセか?』
『正解!流石だね』
ジェスパーを狙撃した人物は残りの神化の名の関係上ユセだと特定した。
現在存在している偽りの名、神化の名の中で、ジェスパーの警戒網の中で狙撃できるのはユセだけなのだ。
そして今回の強襲作戦に対して神化の名の連中は3人全員が出てきたということだ。
だが、そうだと考えるとイクサと戦闘したイルミデンテが使用した侵食結晶が誰の物なのか・・・
『イクサ様・・・』
葵の困惑した様子の問いかけにイクサは目線を向ける。
その意味は〔まだ、言うべきではない〕ということ。
侵食結晶を使用してのレベル3への到達の事を知っている人物は少ない方がいい。またあの時と同じように誰が裏切るかも分からないのだから。
『後他に報告すべき事は?』
『私からはありません』
『ジェスパーは?』
報告はないと断言するレイゲンに対してジェスパーは何やら考えている。何やらイクサに聞くべきかどうか迷っているようだ。
『どうしたジェスパー?何か気になることでも?』
『いや・・・特にないかな?
ただ・・・1つお願いが』
『ユセをこの手で潰したいと?』
『そう。私の美しい羽根が傷つけられたの倒してもいいよね』
『駄目に決まっておりますジェスパー様!現状、結界棟の守護者であるジェスパー様には原則持ち場にいてもらわなければなりません』
葵がイクサとジェスパーとの会話に割ってはいる。
今回の強襲作戦で2名の偽りの名が失われたのだ、未だに不確定事項が多い中での結界棟の守護者の単独行動は危険である。
いくらジェスパーが空中移動というアドバンテージを持っていたとしても、前回のように飛行可能な機械侵食者に襲撃され、動きが制限されている時に強襲されたのでは被弾してしまう可能性が高いからだ。
『いや。葵その事なのだがジェスパー、君には特別な任務をしてもらいたいこだが』
『なに?特別な任務って?』
『少々危険だが君には我々の眼となってもらいたい』
『眼?・・・なるほど次の作戦には私も最初っから出撃できるわけね。
でもそうなると私の結界棟を守護するのは誰にやらせるつもりなの?』
『その事なのだが・・・君の結界棟には守護者を付けないつもりだ』
『イクサ!?』
イクサが提案した次の作戦内容を簡潔にまとめると・・・
偽りの名H ハンター
偽りの名D ディザイアス
偽りの名K カイゲン3名をアークコードでの自由殲滅という名目で解放し、自由に機械侵食者と戦闘させることが第一の作戦内容。それに伴い監査役としてジェスパーを採用させ、空から機械侵食者、神化の名、偽装機械侵食者がそれに対してどう動くか等の観察・報告を行うこと。
第二作戦はいなくなったジェスパーの結界棟を使用した囮作戦。
こちらの方は引っ掛かるとは分からないが、ジェスパーのいなくなった結界棟の穴埋めにはイクサ自身が守護するという作戦になっている。
『なるほど・・・でもそれじゃ私も囮ということ?』
『まぁ。そういうことになる。
しかしジェスパー、君もそれでは不満であろう。なのでユセを君が見つけ次第の捕獲作戦に移行してくれ。
捕獲作戦には第三の聖徒と協力してくれ。
くれぐれもユセを殺さないでくれよ』
『了解・・・』
『奴への聞き取りが完了次第好きにしてかまわないから、捕獲作戦は慎重に頼むよ』
『聞き取りが完了したら好きにしていいの?』
『多少のことは眼を瞑るつもりさ』
『了解!作戦が成功することを願ってるよ』
そういうとレイゲン、ジェスパーは共に退室していく。
その場に残った葵とイクサは共に次の作戦に移行する為の必要物資、人員を確保するべく各帝の軍勢へと連絡をいれる。




