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井戸端に角  作者: 穴沢喇叭
一話
9/15

 居間に行くと、妹がテレビをつけっぱなしで寝ていた。だいぶ小音量で今まで聴こえなかった。

 巫女姿でちゃぶ台に突っ伏している。「療養中なのはわかってる、でも私もできることならするから」と私が仕事にいってるときも巫女姿で待機してくれている。私の妹は、そういう妹だ。いつも、かどうかはわからないけれど、みんなのことを考えてくれる。自己犠牲、それに近いものなのかもしれない。

 妹が犠牲なんて、そんなのは間違っている。この子がギルティを感じる必要なんてない。

 悪いのは私だ。

 ......なんて、いつものように拳を握りしめる。


 スースー寝息をたてて、腕枕をして寝ているのは、テストが早く終わった生徒のようだった。すごく気持ち良さそうな顔をしている。ポケーッとしていて、なんだかすっかり気の抜けた顔だった。それなら私もこんな顔して寝ているのだろうか。

 放ってはおけないので起こそうと試みる。とりあえず気持ち良さそうな妹の睡眠を阻害するために肩を揺らす。

「おーい」

 ゆさゆさ。なにも反応はなかった。引き続きスースー寝息をたてていまだにポケーッとしていて、髪の毛がはらはらと頬にかかっただけだった。よくみると、口もとが少々光っている。

 よだれ。

 よだれなんか垂らして寝ている女子高生はここ最近みていなかった。新鮮な気持ち。まあ今日私がしていたことなんだけど、自分でやってしまうのと人のを見るのでは違う。ちゃぶ台までいかず、巫女姿の袖にシミをつくっている。

 なんだか、こうして寝顔を見ていると妹がほんとに高校生なのか疑問になってきた。私とおんなじような顔で、おんなじような表情になると思うのに、全然違う。いや、他の人が、私たちをよく知らない人とか、あとは通りすがりの人が見たら、何一つ変わっているように思えないのかもしれないけれど。私だからわかるのかもしれないけれど、でもやっぱり、妹は中学生とか、そういう年齢に見える。幼いといったら失礼だけど、そういうはかないものにみえる。


 肩をもっと強く揺らす。体がゆらゆらしているのに、いまだに起きようとしない。

「おーいっ」

 ちょっと大きめに声を出す。耳元でいってみたけれど、気持ち良さそうに寝ている妹を途中で起こしてしまうのは、やっぱりかわいそうに思えてきた。

 たぶん、なにか美味しい夢でもみているのだろうか、口をもにょもにょさせていた。口を広げてなにかパクつくと、空気をもにょもにょやって飲み込んだ。しばらくしてお腹がぎゅるると鳴る。満足そうに微笑んで、また動きが停止した。何を食べているんだろう。あ、レインボーかな。

 別段レインボーはおかしくなかったことを思い出した。いや、明らかにおかしい食材がひとつ入っていたけど、この世には青い肉もあるのだろうと思って、その場では余計な詮索はやめておいた。後でこっそり冷蔵庫を探ってみたが、別にそういうものは入ってなかった。使いきってしまったんだろうか。確かに、よく考えれば青色のふりかけなんてのも売っていたし、青い食材なんてそれほどおかしくないのかもしれない。もっとも、あれはダイエットのために、食欲減退作用を高めるものらしいけど。

 じゃあブルーハワイはどうなんだって思った。


 頬をつついてみる。顔をさわれば、以外と反応するかなと思った。むにぃと腕に圧迫された頬が餅のような感触を人差し指に伝える。面白いのでそのままつつく。ほどよい弾力が心地いい。頭を撫でる。さらさらした髪。何をしても起きそうにない。

 ちょっと、いたずらをしてみようかしら。

 唇に人差し指を当てる。あまりお手入れしていないのか、かさかさしていた。ヒビが入りかけている。夏だからそこまでてはないけれど、秋や冬なんて乾燥していく一方なのだから。今のうちにお手入れをしておかないと。弾力はさすが女子高生、プルプルとまでは行かないけどなかなか柔らかくて気持ちがいい。

 ほんの少し、ほんの少しだけ、隙間の空いた唇と唇の間に、少しだけ滑り込ませてみた。尺取り虫みたいにモソモソと突っ込むと、妹の眉がぴくと動いた。やりすぎたか、と思って離れようと、

「あむ」

 食われた。人差し指の第一関節から先が、口腔内につかまった。続いて吸い付かれた。何を食べてるんだろう、おおかたストローでも吸ってる気分なんだろうか。なんて冷静に観察していられるわけはなく、想像以上の吸い付きに驚愕する。血液を寄せ集められている。そんな感じだった。歯と歯の間にはさまれて、舌でいじくり回された。けっこう痛い。

 なんだろこれ。すごくいけないきがする。

 というか妹に指をしゃぶられてる姉って、いやもともと私から与えたようなものじゃないか。ものすごい構図だぞ、これ。私だからあんまり気にしてないだけだぞ。

 当の妹は依然として柔らかい表情で、一生懸命に指をしゃぶっていた。

 ......なんだろ、これおもしろい。

 頬に垂れた髪をまとめて、手櫛でとかす。頭を撫でながら、しばしだらしない妹の表情を眺めることにした。



 ものすごい背徳感を味わいつつ、いやそもそも妹にそういう感情を向けるのは大分進んでしまった感じがするけど、10分程度やっていても起きる気配がなかったので、仕方なく実力行使に出ることにした。

 脇の下から腕を入れて、ちょっと持ち上げる。そのままバックしてちゃぶ台から引き剥がし、ひざの下に手を入れて持ち上げる。妹の頭がかくんと私の胸に落ちる。むにゃむにゃ言いつつ眉を動かす妹は、全然気づいてないようだった。引き続き口をパクパクさせ、何かを咀嚼している。ドーナツかな、レインボーよりはそんな感じの動き。しっかり支えてお姫様だっこをして、部屋に向かった。

 ちなみに指しゃぶりはなかなか気持ちよいものだなと脳みそが満足していた。我ながら変態であると思う。胸とか花恵にさわられたり妹に触られたりしているからか、感覚が麻痺しているのだろう。平均より少し大きいのだろうか、私はよく胸を触られる。よく触られるってなんだ。どういう状況下にあるんだよ私。

 筋肉で盛っているせいもあるのだろうが、意外と大きい、のだろう。とりあえず寝るとき、妹が枕にしているぐらいにはある。まあ自慢ではある。さっきはそんなに大きくないとかいってみたけど、やっぱり大きいんだと思う。私だって自慢させてほしい。どうだ、そこそこ大きいぞ、女子高生の胸だぞー、マシュマロだぞーなんて。

「痴女かってぇの」

女としての自慢はあるのだが、仕事をこなすにはやっぱり邪魔だ。妹ぐらい小さい方がいい。機敏な動きをしたりすると大分皮膚が引っ張られるし、ちぎれるんじゃないかって思うこともある。


 さて、持ち上げる前に指はしっかり拭いておいた。妹にそのまま不用意にさわってべちゃべちゃしたら申し訳なかった。

 一応、布団はしいてあるようだった。寝かせる。巫女の姿のままなのでは寝づらいだろうから、着物をひっぺがした。私よりちょっと細い。パジャマを着せて、布団を被せた。

「おやすみ」

 ぎゅっと抱き締めてから、奥の部屋に向かった。


 今日はエンジンを回しすぎた。もともと親切な人にお下がりでもらったバイクだけど、高回転型の極みみたいなバイクで、ものすごい音が出る。一応ノーマルの状態でもらったのだがそれにしても爆音である。回せば回るだけ回ってしまうので、ついついやってしまう。今日はちょっと感情的になりすぎた。燃費はまたリッター22キロとか、もしかしたらもっとかもしれない、そうすると今月も大変かななんて考えつつ、部屋にはいる。


 薄暗い部屋に電気をつけて、奥の箱に向かう。箱と言うかコンテナ。5つあるうちのひとつのかぎを開け、中身を確認する。残りは10メートルくらいか。箱の天井のモヤモヤした黒い霧をまさぐって、鎖を引っ張り出す。右手がモゾモゾした。

 先端をそばの万力で固定し、ペンチで隙間を広げる。買ってきた鎖を繋げ、もう一度強く締める。引っ張って接合を確認して、円筒形に巻き付いた鎖の固まりに巻き付ける。まだ緊急用で買っておいただけだったので、明後日辺り休日の日に手伝ってもらって買いに行かないといけない。鎖の交換は一度に使ってしまうので、ためにためておかないと大変だ。最後に先端を霧のなかに押し込んで、右手がモゾモゾしたのを確認して、コンテナを閉じる。


 電気を消して部屋を出る。妹のいる部屋に戻り、背伸びをしてから布団に潜り込んだ。早く寝ないと明日のプールが大変だ。ほどよく、妹を......鎖手詩織を演じなくてはいけない。

 隣で寝る妹を見る。気持ち良さそうに寝ている。距離を詰めて、頭を撫でる。

 にこにこ笑う詩織の表情を、表情筋の動きをトレースして、しっかりと目に焼き付けて、それから寝た。

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