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井戸端に角  作者: 穴沢喇叭
一話
8/15

 玄関で靴を脱ぎ捨て、そのまま脱ぎ散らかしながら脱衣所に向かった。服は全部洗濯機に投げ入れて、洗剤を入れてすぐに洗濯機にかけた。専用の洗濯機、普段着とは分けている。水道代はなるべく節約したいけれど、これだけは別にしないと大変なことになる。一度普段着を一緒に洗ったが、それ以来生臭いにおいはこびりついたままとれなくなった。

 あの巫女の服は、3着あるうちどれも悲惨なにおいがする。悲惨と言うか、胃酸と言うか、鉄臭いような生臭いような、気分の悪いにおいが染み込んでいる。芳香剤を使っても表面だけバラの香りだったりで、よくよく嗅ぐとあんまりな目に遭う。


 お湯はなかなかぬるい。まだ夏だからいい。秋冬はもう入るのをためらわれる。社務所のシャワーを使えばいいんだけれど、あそこは長年のにおいがこもっていて話にならない。掃除をしてもなぜだかにおいがたまるのだ。そのぶんうちのお風呂は使っても後でごしごし擦ればなんとかなる。

 仮面はさすがに洗濯機では洗えないので、お風呂で洗う。湿気を吸ってやばいとかそういうのは考えたことない。だいたいこのお面が湿気を吸ってカビたのは見たことがないし、お風呂で洗って放置して劣化したこともない。髭と(タテガミ)はずっとこんな感じだし、彩色も衰えない。何で塗ってあるかはわからないけれど、ひび割れたこともない。

 やっぱりおかしいんだとおもう。

 仮面を洗い終えて、物干し竿にベルトを引っかけた。鬼がぐわっと私を見張っている。粗末に扱っているのがたぶんご不満なのだろう。デコピンでも食らわしてやれと思ったけれど、さすがに罰当たりなのでやめた。


「本日は私が1体、全体で20体ぐらい、だったかな」

 鬼は私の問いかけに応じなかった。当然だけど。でもちょっとは返してくれてもいいんじゃないかって思う。

 20って、あっという間だ。すぐに消えてった。私は1つ殺しかけたけど、ほかのやつらはみんな一発でやられていた。もうちょっと、確実にやれるようにならなきゃかも知れない。

 お湯をかけつつ、首もとをさする。掴まれたところが凹んでいた。ちょっと痛い。痛み止が効力を失ってきたのだろう。帰るのに夢中で、回復させるのを忘れていた。貧血はなんとか、バイクに乗りながら。あのままだと、転倒事故を起こしかねなかったなあ。バカをやったと、今更ながらに反省した。


 次はやっぱり、首をねじ切ってしまえばいい。鎖を巻き付けて吊るすのは時間がかかるし、胴体を絞め切ってもたぶん致命傷にならない。再生はさすがに、普通はできない。けれど、あれだけ頭を破壊したのに戻ったんだから、もしかしたらプラナリアみたいに増殖したりするんだろうか。ぶしゅ、にゅにゅにゅって。最近はなんだか理不尽な再生の仕方をしてくれて困る。

 だったら一気に首に巻き付けて、頭と胴体を切り離す。それか弓矢は一気に頭の組織を爆発させる勢いで貫通するから、私も杭つきの鎖を勢いよく放てばいいんだろうか。力次第で爆発四散するだろう。それか心臓をえぐってしまえばいい。正確に狙って貫通破壊すれば、それか内部でのたうち回らせれば効果的かもしれない。

私は殺人鬼か。冗談で言ったつもりだけれど、やっぱりそうなのだろうか。


妹だったら、もっと簡単に殺してしまえるんだろうなと思った。こんどきいてみることにしよう、なにかいいアドバイスがもらえるかもしれない。

少しでも早く、妹の代わりもできるように。


 それにしても、女子高生の考えることじゃないなあって思った。


 体を念入りに洗って、裸のまま風呂掃除をして、お風呂を出る。すぐに洗わないとやっぱり臭さが目立つって言うか、私はたぶんお風呂を出たら洗う気がなくなってしまうので、それを考えての行動。露出したい訳じゃない。

 しっかり体を拭いて、髪を乾かす。ショートカットはあまり時間がかからなくていい。ドライヤーは極力使わないでタオルを最後までたっぷり使う。妹と兼用。まあいろんなところを拭くから衛生的ではないけれど、お父さんと一緒とかじゃないから生理的にはまだ良かった。

 なんだか子供がみそうな名前だな。お父さんと一緒。

 パジャマに着替えて歯を磨きながら、首を鏡で確認した。やっぱり治しておこうか、明日はまだプールがあるし、たぶんいろいろ聞かれてしまうだろう。見学という手段もあるけれど、それ以前にばれそうな気がした。花恵とか。クリーム状になった唾を吐き出して口をしっかりすすぐ。仕方なく着物を全部脱いで、干してあった仮面を装着する。鬣がびしょびしょだった。


 別に露出がしたいわけではない。変身、であっているのだろう、これをすると、身体的にだいぶ変化が起こる。筋肉が盛り上がってしまうのだ。ボディービルダーみたいにはならないけれど、女子陸上選手並みにはなる。体操選手かな。いやそれ以上かもしれない。そうすると下着はおろかパジャマを破りかねない。どっかの格闘漫画みたいになりかねないのだ。さすがにあんなに勢いはないけれど、びりって。衣服ももったいないし、破れなくても伸びたら嫌だし、なによりもやっぱり絵面が、ちょっと、ねえ。恥ずかしい。

 体がゾクゾクして、髪の毛が伸びて、変身が完了する。首に集中して意識を向けると、皮膚が再生してもとのかたちに戻った。それだけ終えると、仮面を脱いでまた干しておく。また明日、学校に持っていかなくてはならないので、早く乾燥してもらえると助かる。水を拭き取っておいた。

 ちなみに仮面にドライヤーは使わない。ボサボサ髪が変に寝癖みたいになるのと、櫛まで使ったとき逆にいい感じのストレートになってしまって雰囲気がなくって爆笑ものだったからだ。

そのうち私は仮面に呪われるかもしれない。


 洗濯機はまだ止まらなかった。私は居間でテレビでもみることにした。12時を回ったくらいだった。

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