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井戸端に角  作者: 穴沢喇叭
一話
6/15

 井戸。大分草におおわれてしまって、それに井戸屋形もだいぶ朽ちているのでただの廃墟にしか見えない。屋形と言うか井戸をすっぽり囲っているためただの小屋にしか見えない。中にある井戸は石で組まれ固められた立派なもので、そこだけは他の井戸とあんまり区別はない。だけれどひとたび近くに身を置くとなると、辺りの雰囲気は比べ物にならないほど重たいものであった。厳かとか荘厳とか、あとは神秘的とか言うようなものじゃない。心霊スポット的な、重厚的な気持ち悪さがそこらに満ち溢れている。髪の長い女幽霊が這って出てきそうな井戸だ。いや、やっぱりそれ以上なのかもしれない。


 ここに近づいてはならない。昔から言われていることだけれど、そんな言い伝えを聞いていなくてもそれを暗示しているように、立ち入り禁止の柵からすでに十分ほど歩いた境内の中央に位置する。神社自体はそこそこの大きさだし、社殿も付属建築物もそこそこ立派なものだが、かといって有名なお稲荷さんや海に大鳥居がある島の神社とは比べ物にならない華奢なものだ。

そんな建築物とは対照的に、ここの境内は恐ろしく広い。この町の中央に位置するこの神社の土地は、町のほとんど5分の1を占めている。その中央に、というか町の中央にここは位置するわけである。区画整理の問題とかそういうのではなく、ワケ有りなのは言うまでもないのだ、この井戸は。


 回りをぎろぎろと見回して確認したあと、バッグから鎌を取り出して除草作業にはいる。草の尋常じゃない背丈は夏の高い気温のせいか私の首まであったりするが、おそらく井戸水の潤沢な栄養分のせいでもあるのだろう。本当はそんなに栄養分ばかりだったら、微生物が繁殖しまくって飲み水に適さないだろうが、この井戸はそもそも飲み水にしたくない雰囲気だった。

腰を屈めて、ザクザクと刈り進めていく。じゃらじゃらと右手の鎖が邪魔をする。痛み止がだいぶ効いてきて、そこまで痛みはなくなった。毎回この薬はちょっと危ないやつなんじゃないかって思う。1錠で手首の裂傷が痛くなくなるとか、もうダメなレベルだと思う。痛覚がないのに、引っ掛かる感覚ばかりあってきもちわるい。

こんなことならしまっておけば良かったと思ったが、さて何があるのかわからないのでそのままにしておく。


「だいぶ茂ってるね」

 小面の一人が言う。背中には弓を背負っていて、(えびら)に何十本か矢を携帯している。どこかのアニメじゃないけれど、巫女の姿に弓矢というのはもとからそのためのセットなのではないかというほどマッチしていると思う。

アニメとか漫画とかの影響かもしれないけれど。でも、構えた姿は凛としていてかっこいい。私の鎖に比べて、何十倍も良い。右手から血まみれの鎖が出ている巫女って、なんなんだろう。

「意外と大変だよね、草を刈るのって」

「草刈り機でも持ってくれば良かったです」

「そうだねぇ、鎮さんにたのんでひとつ貸してもらおうか」

「そのほうがいいみたいですね」

 次はそうしようねぇ、と彼女は甘ったるい声でこたえた。


 一通り草刈りは終わる。井戸の周辺だけやけに生えていただけだったので、ほんの15分ほどだった。続いて鎖を掛け換える。猿面が小屋を囲むようにぐるぐると巻かれた鎖を撤去しているうちに、私は右手の鎖に杭をつけておいた。ぐるぐる巻き付けてから杭で地面に固定するだけの簡単なお仕事。最後に鎖を途中で切断して、もう一方にも杭をつけて地面に打ち込めばおしまい。

内容は至極簡単だが、意外と力がいる上に途中途中邪魔が入ったりしてめんどくさい。特に夏はいろんな事情でまためんどくさかったりする。とりあえず左にも鎖を出して急に備える。


 猿面が合図をして、私に準備を伝える。小屋はガタガタとだいぶ音を出し始めていた。鎖が残り2周ともなるとやっぱりもろいんだなって思う。たぶん小屋を吹き飛ばすまでじゃないと思うけれど、所々空いた穴から出てきそうなことは間違いなかった。そう考えると、意外と自分の掛けた鎖も役に立っているんだなと思う。

 狐面が笛を吹くなか、もう1人の狐面が猿面たちと協力して鎖を引っ張る。力がかかって一気に鎖が引きちぎられた。小面2人は弓を用意する。私は、全員の準備が終わった頃合いをはかって右手から一気に鎖を放つ。

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