塵の国。
塵の国 クスザラ・ベルマ
最初に言いたい。何故私はここにいるのでしょう?
ここを選んだのは誰でもない私だ。それでも、疑問を持ってしまう。
いや、私が選んだと言ったが、それも曖昧な気がしてきた。
……。いや、もう止めておきましょう。来てしまったものはしょうがないのです。
ここは塵の国。今私は国の入口にいますが、どこからか腐敗臭が漂い、原型が分からぬ程に腐りきった汚物が転がっている。
込み上げてくる吐き気を押さえつつ国へ入る。中は入口よりも悲惨だ。腐乱死体と白骨で足の踏み場もない。そんな中、動いている物を遠くに確認出来た。ブチブチと歩くたびに嫌な音をさせながら動くものへと歩みを進めました。
動いている物は人間でした。と言っても、今にも死にそうな痩せこけた乞食の老人でした。衣服と呼ぶには耐えがたい布切れを着て、死体と骨の山から何かを探しているようでした。
話しかけるのは嫌だが情報は多い方が良い。眉間に皺を寄せつつ、私は老人に声をかけた。
「御機嫌よう。少しいいかしら?」
「……。」
乞食爺は、まるで私の存在すら気付かのように漁りつづけている。
込み上げる苛立ちを押さえる必要性を感じつつ、私は再び乞食に声をかけた。
「乞食さん? お話し良いかしら?」
「こ、こは……。」
「はい?」
「こ、こは。全てを、終えた者が来る場所。お譲さんみたいな者は、来てはいけない」
この乞食の爺様。中々話が通じるのね。にしても、全てを終えた者が来る場所……。
その言葉にはあまり良い意味とは取れない。
「それじゃあ、お爺様も全てを終えたのかしら?」
「私は、全てを、得た。だが、それはとてももろく、壊れやすいものだ。一時の幸せなど、無いに等しいもの。残ったのは、結果のみ。それは、私の理想だ。けれど、そこに私はいない。私は全てを失い。全てを終えたのだ」
いきなり哲学的な事を言われても困る。
「さあ、ここを、去れ、お譲さん。さすれば、行先は自ずと分かるだろう」
「……。お爺様の言葉に従うわね。それじゃ、御機嫌よう」
吐き気のする死体を踏み、白骨を蹴飛ばし、私は入口へと向かう。
爺様は再び漁りを再開したようだ。それに何の意味があるのかなど、私には関係ない事。
外へ出た。ふと足元へ目を向けると、靴に腐った死体が……。私は、全てを吐きだした。