ある男の半生。
日誌。
ついに、私の野望を実行に移す時が来た。全ての無駄を排除した。完璧なサイクル。
生まれ。男は闘い。女は性奴隷となる。そして、死んだものは肉を調理され、それを生きている物が食べる。残った骨は捨てる。これの繰り返し。生まれた瞬間に、その者の運命が決まっている。なんと素晴らしい世界だ。
長年の夢。十年以上もかかったが、まあいい。
夢が叶えられるのだから、あの隕石事故は悪いものではなかった。
三年前だろうか。地球に大型の隕石が落ちた。海に森。地上にある物は消えた。残ったのは屑ばかり。
地球は一瞬で死の星と成り変った。
けれど、私は生きている。私だけではない、地球に住んでいた人間のおよそ三分の一の人間が生き残った。
地下シェルター。世界の主要都市四つに極秘に作られていた。
それがなんの為に作られたのか、いつ作られたのかなどは知らない。知らないが、それに命を救われたのは事実だ。
それから数日。人は絶望し、復興なんて出来たものではなかった。だが、私は違う。
何も無いと言うのは、逆に好都合だった。空になった人間を洗脳するのは簡単だった。
ただ――――物を詰めればいいのだ。
それから三年。ついに完成。私の国、私の王国。まさか、三年で出来るとは思わなかった。
ま、そのせいで作業をしていた人間はほとんどが死んでしまったが、どうでもいい。あんなのは使い捨ての駒だ。使えるだけ使って、後は捨てるだけ。こいつらには初めての塵として捨ててやろう。光栄だと地獄で感謝するに違いない。
私の五つの国。その名前が決った。
殺戮の国。凌辱の国。喰の国。塵の国。そして、子供の国。
殺戮の国で殺し合い。凌辱の国で犯す。喰の国で食べ、塵の国に捨てられる。
このサイクル。この循環こそ私の望み。無駄のない、生から死まで決った事をし続けるだけの人生。なんと美しく、なんと狂おしい。
この輪を完璧にする。そのためには新鮮で、無垢な生まれたての命が必要。
出来あがった人間を洗脳するのも悪くはない。だが、面白くない。何も知らない、そんな子供を洗脳する喜び。
洗脳して、男は殺し合い。女は性欲処理として一生を終える。
幸せなど与えない、吐こうが血を出そうが知らない。
輪を形成する一部となってもらう。
そのための子供の国。生まれたことこそ間違い。そう思える程に使ってやれば。本望と言うやつだ。
輪は極めて順調に回りつづけている。
これを書くのも久々だ。ざっと十数年振り。は、今では何故このようなものを書いていたの
かすら思い出せない。歳を喰うのはあまり良いものではない。私の輪は完璧だ。なんの狂いもない。だから、ここに書くこともない。
問題なし。
私の輪に。初めての問題が起きた。子供の国で洗脳中の子供四人が逃げ出した。
……面白い。このようなイレギュラーがあるとは。輪はまだ完璧では無い――――か。
子供は逃げ出したが、早々に力尽き、外の国の者に拾われたようだ。四人ともバラバラに。ここでは仲良し子良しをしていたようだが……ふ、どうでもいい話か。
子供は放っとくことにする。わざわざ戻したところで面倒だし、面白くない。
いずれ、戻ってくるさ――――必ず。
また十数年振りか。この存在すら忘れかけていたが、今は書かなくてはいけない。書かなくてはいけない事が起きた。
あの時の子供が戻ってきた。四人とも新しく名を貰ったらしい。
ザン・キルム
セツロ・ラーシー
ピタ・ロイ
クスザラ・ベルマ
だが、面白い事は続けて起こる物だ。この四人、逃げてからは全く接点も無く、互いの記憶すら残っているのか分からないのに、同じタイミングで戻ってきた。は、実に愉快だ。
流石、この国を逃げ出しただけある。あいつらには何か、特別なものがあるのかもしれないな。
セツロ・ラーシーは喰の国で腹を満たす。
ピタ・ロイは凌辱の国で自らの欲を吐きだす。
クスザラ・ベルマは塵の国で恐怖し。
ザン・キルムは――――ふ、殺戮の国で死にかける……か。
そのまま死ねば、辛いこともなく逝けただろうに。いや、それを助けてしまった私が言えることではないか。
何故助けたのか? 分からない。それに、私に良心が残っていたことに驚きを隠せない。
良心など、この国を作った時点で失われていた筈だ。
あの時に――――私の感情という者は失われてしまったのかもしれない。
喜びも悲しみも怒りも憎しみも。今では何も感じない。それこそ、機械みたいなものだ。
輪を完成に近づけるためだけの機械。そうだと、思っていた。
四人は子供の国に行ったようだ。
もう、生きて帰ることは出来ないだろう。
あそこで知るだろう。この国の原点を。そして恐怖し、狂気し、絶望し――――死ぬ。
予想通り……か。子供の国の中央。洗脳部屋で、血の溜まりに溺れる四人の少年少女の死体が転がっていた。
全身は刃で裂かれたように傷だらけ。顔面は潰れ、脳みそははみ出、腕と足はもげていた。
肉片が飛び散り。死体と言うより肉塊だ。これでは喰う事も出来ん。
これで、イレギュラーは消滅した。この時点で、私の輪は完成した。全てを超越した。
人間の本来の形。
これで、私は満足した。あとはもう死ぬだけ――――
『塵の国。骨と腐った肉の山の上で、老人は、静かに息を引き取った』
これで終わり。少年と少女は真実を知り命を絶った。
そして――――己の野望に人生を懸け。己の野望に人生を狂わされた。一人の科学者。
ワコール・ギルワは、その長い人生に終わりを告げた。




