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トラベルレポート  作者: 葛沼純
本編
10/11

ある男の半生。

 日誌。


 ついに、私の野望を実行に移す時が来た。全ての無駄を排除した。完璧なサイクル。


 生まれ。男は闘い。女は性奴隷となる。そして、死んだものは肉を調理され、それを生きている物が食べる。残った骨は捨てる。これの繰り返し。生まれた瞬間に、その者の運命が決まっている。なんと素晴らしい世界だ。


 長年の夢。十年以上もかかったが、まあいい。


 夢が叶えられるのだから、あの隕石事故は悪いものではなかった。


 三年前だろうか。地球に大型の隕石が落ちた。海に森。地上にある物は消えた。残ったのは屑ばかり。


地球は一瞬で死の星と成り変った。


 けれど、私は生きている。私だけではない、地球に住んでいた人間のおよそ三分の一の人間が生き残った。


 地下シェルター。世界の主要都市四つに極秘に作られていた。

それがなんの為に作られたのか、いつ作られたのかなどは知らない。知らないが、それに命を救われたのは事実だ。


 それから数日。人は絶望し、復興なんて出来たものではなかった。だが、私は違う。

何も無いと言うのは、逆に好都合だった。空になった人間を洗脳するのは簡単だった。

ただ――――物を詰めればいいのだ。


 それから三年。ついに完成。私の国、私の王国。まさか、三年で出来るとは思わなかった。

ま、そのせいで作業をしていた人間はほとんどが死んでしまったが、どうでもいい。あんなのは使い捨ての駒だ。使えるだけ使って、後は捨てるだけ。こいつらには初めての塵として捨ててやろう。光栄だと地獄で感謝するに違いない。

 

 私の五つの国。その名前が決った。


 殺戮の国。凌辱の国。喰の国。塵の国。そして、子供の国。


殺戮の国で殺し合い。凌辱の国で犯す。喰の国で食べ、塵の国に捨てられる。

このサイクル。この循環こそ私の望み。無駄のない、生から死まで決った事をし続けるだけの人生。なんと美しく、なんと狂おしい。


 この輪を完璧にする。そのためには新鮮で、無垢な生まれたての命が必要。

出来あがった人間を洗脳するのも悪くはない。だが、面白くない。何も知らない、そんな子供を洗脳する喜び。


洗脳して、男は殺し合い。女は性欲処理として一生を終える。


幸せなど与えない、吐こうが血を出そうが知らない。

輪を形成する一部となってもらう。


そのための子供の国。生まれたことこそ間違い。そう思える程に使ってやれば。本望と言うやつだ。

 

 輪は極めて順調に回りつづけている。


 これを書くのも久々だ。ざっと十数年振り。は、今では何故このようなものを書いていたの

かすら思い出せない。歳を喰うのはあまり良いものではない。私の輪は完璧だ。なんの狂いもない。だから、ここに書くこともない。


 問題なし。


 私の輪に。初めての問題が起きた。子供の国で洗脳中の子供四人が逃げ出した。


……面白い。このようなイレギュラーがあるとは。輪はまだ完璧では無い――――か。


 子供は逃げ出したが、早々に力尽き、外の国の者に拾われたようだ。四人ともバラバラに。ここでは仲良し子良しをしていたようだが……ふ、どうでもいい話か。


 子供は放っとくことにする。わざわざ戻したところで面倒だし、面白くない。

いずれ、戻ってくるさ――――必ず。



 また十数年振りか。この存在すら忘れかけていたが、今は書かなくてはいけない。書かなくてはいけない事が起きた。


 あの時の子供が戻ってきた。四人とも新しく名を貰ったらしい。


ザン・キルム

セツロ・ラーシー

ピタ・ロイ

クスザラ・ベルマ


 だが、面白い事は続けて起こる物だ。この四人、逃げてからは全く接点も無く、互いの記憶すら残っているのか分からないのに、同じタイミングで戻ってきた。は、実に愉快だ。

流石、この国を逃げ出しただけある。あいつらには何か、特別なものがあるのかもしれないな。


 セツロ・ラーシーは喰の国で腹を満たす。

 ピタ・ロイは凌辱の国で自らの欲を吐きだす。

 クスザラ・ベルマは塵の国で恐怖し。

 ザン・キルムは――――ふ、殺戮の国で死にかける……か。


そのまま死ねば、辛いこともなく逝けただろうに。いや、それを助けてしまった私が言えることではないか。


 何故助けたのか? 分からない。それに、私に良心が残っていたことに驚きを隠せない。


 良心など、この国を作った時点で失われていた筈だ。


 あの時に――――私の感情という者は失われてしまったのかもしれない。


 喜びも悲しみも怒りも憎しみも。今では何も感じない。それこそ、機械みたいなものだ。


輪を完成に近づけるためだけの機械。そうだと、思っていた。


 四人は子供の国に行ったようだ。

 もう、生きて帰ることは出来ないだろう。

あそこで知るだろう。この国の原点を。そして恐怖し、狂気し、絶望し――――死ぬ。


 予想通り……か。子供の国の中央。洗脳部屋で、血の溜まりに溺れる四人の少年少女の死体が転がっていた。


全身は刃で裂かれたように傷だらけ。顔面は潰れ、脳みそははみ出、腕と足はもげていた。

肉片が飛び散り。死体と言うより肉塊だ。これでは喰う事も出来ん。


 これで、イレギュラーは消滅した。この時点で、私の輪は完成した。全てを超越した。

人間の本来の形。


 これで、私は満足した。あとはもう死ぬだけ――――




『塵の国。骨と腐った肉の山の上で、老人は、静かに息を引き取った』



 これで終わり。少年と少女は真実を知り命を絶った。


 そして――――己の野望に人生を懸け。己の野望に人生を狂わされた。一人の科学者。


 ワコール・ギルワは、その長い人生に終わりを告げた。



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