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回想

 夢を見た。

 遠い昔のことだ。

 今から十年ばかし前の、あの日の夢を。


 俺の運命が変わったあの日の夢を。


 父親は戦場カメラマンだった。

 母親は戦争ジャーナリストだった。

 戦争の悲しさや虚しさを世界中の人に伝えるのが、父さんと母さんの仕事だった。

 そんな二人が惹かれあったのはごく自然なことだったのだろう。

 母さんに聞いた話によれば、二人はとある紛争地区でたまたま出くわして意気投合し、その半月後には結婚したらしい。

 いわゆる電撃結婚というヤツだ。

 時には危険な仕事もした。

 テロリストへのインタビュー。

 いつ銃弾が飛んでくるかもわからない紛争地帯での撮影。

 家族が三人揃うのはごく稀なことだった。

 いつもどちらかがいなかったし、両方ともいないことも少なくなかった。

 授業参観の日はそのことでよくからかわれ、とても悔しい思いをした。

 けれでも俺は父さんと母さんを恨んだことは一度もなかった。

 二人のやっていることはすごいことだと、小さいながらも理解していたし、そんな二人を誇りにさえ思っていたのだ。

 

 だからこそ。


 あんなことを言うべきではなかった。

 



 小学校五年生の夏休み。

 俺は始めて両親にわがままを言った。

 『僕も連れて行って』

 駄々をこねて、泣き喚いた。

 友達が家族と旅行に行くという自慢話をしていたのだ。

 それを羨ましく思って、俺は駄々をこねた。

 

 同時に、『あぁこれは夢なんだ』と思う。

 だってこれはあの日の、どうあっても覆せない夏休み初日の風景なのだ。

 

 散々駄々をこねた俺に、両親も渋々納得してくれたようで、ずっとホテルで大人しくしていることを条件に連れて行ってもらえる事になった。

 

 次の瞬間には情景が変わる。

 

 ダダダダダダダッ!! 

 ドガガガガガガガガガッ!!

 ッガァアアアアアン!!

 と、そこら中で鋭くて、鈍い音が連続する。

 辺りは瓦礫の山、埃と鉄の臭い。

 吐き出しそうになる感覚に、しかし俺は動けなかった。

 瓦礫の間にうずくまる様にして隠れていた俺の前に、「うぐぁああああッ!! 」とうめき声が響いた。

 次いで、ズシャッ!! という濡れた音とともに、目の前に血塗れになった軍服の男が倒れてきた。

 その人の手から滑り落ちた拳銃が僕の膝元まで血で滑って来る。

 「ひぅっ!? 」

 と、俺は情けない声を上げた。

 血だまりの中で沈んだ男の人の目が。

 充血したまま見開かれていたその目が、しっかりと俺の姿を見たままに死んでいたのだ。


 そうだ。

 俺はあの日両親の言いつけを破って、こっそり後をついてきたんだ。

 ばれないようにこっそりと。

 車のトランクの中に隠れていた。

 実際に見てみたかったのだ。二人がどんな仕事をしているのか。

 そうすれば学校の皆にも言い返してやることができる。

 そんな幼稚なことを考えていた。

 

 やっとのことで目をそらし、今度は膝元に転がっている拳銃を見つめた。

 恐る恐る手を伸ばしてみる。

 ちでべちょべちょになっていて気持ち悪かった。

 震える手で二,三箇所つつくとカシャっと小さく音を立てて弾装カートリッジが出てきた。よくわからないが、どうやら弾はまだ残っているらしい。

 無いよりはマシだろうと、ソレを握りしめて外に出てみる。

 車はなくなってしまっていた。

 父さんと母さんが乗っていったのか、それとも盗まれたのかはわからない。

 ただ、一つわかることは自分はこの場で。

 この地獄でたった一人で取り残されてしまったということだけだ。

 迷子センターなんて無い。

 気かつけば死んでしまっている。

 そんな世界に。


 俺はただ一人取り残された。

 

 また数年の月日が流れ、様々な情景が通り過ぎていく。

 そこにはボロボロの布切れを身につけた俺がいた。

 思い出したくも無い、クソ貯めみたいな光景だ。

 大人は昼間からそこらじゅうで薬に溺れ、子供は奴隷。

 男も女も無くゴミ漁りをし、血眼になって金に換わるものを探す毎日。

 何も見つけられなかった日は最悪だ。

 男は顔面がはれ上がるまで殴られ、女は無理やりに犯される。自分の子供だろうがそんなのは関係なしだ。

 地面には当たり前のように死体が転がっていた。

 餓死か殺人か。

 この頃になると、その二つにはさほど違いがないと気づいた。

 いっそ死んだ方が楽なんじゃないか。

 あの日からお守りみたいに持っていた拳銃を幾度と無く自分に向けては、引き金を引く勇気も無くそのまま腕を下ろす。

 

 結局、生きている人間はどうあっても生きるしかないのだ。

 

 その事に気づくのには結構な時間を要したと思う。

 それからだ。

 生き残るためにはなんでもした。

 盗みもした。

 殺しもした。

 銃と弾薬を確保するために警察を敵に回すようなこともやった。

 腕は生き抜いているうちに自然と上達した。


 父と母が戦場で死んだことを知ったのはそれから五年後だった。

 いなくなった息子を探していて流れ弾に当たったらしい。


 神を恨んだ。

 人を恨んだ。

 自分を恨んだ。

 何もかもを。

 世界をぶち壊したくてテロリストになった。

 あの日、あんなわがままを言わなければ、父も母も死ぬことは無かったのかもしれないのだ。

 そんな自分を誰が許せようか。

 許せるはずが無い。

 何もかもが憎い。

 だから俺は破壊した。

 何もかもを、自分すら破壊した。


 俺がその地獄から抜け出したのは更にその三年後。

 忘れもしない。

 まだ肌寒い風に長いコートをたなびかせて現れた二人の少女によって、俺の地獄はいとも容易く打ち破られたのだ。

 「ずっとそんなことしてて、疲れない~? コタツに入ってのんびり過ごそうよ~」

 「すごそうよ~。あははっ。おにいちゃんつまんない顔です。なんかゾンビみたいです」

 向かってくる相手を笑顔で皆殺しにする少女達。

 一般人だろうが、軍人だろうが、テロリストだろうが関係ない。そこにあるのはただ明確な弱肉強食の世界だけだった。

 震えたね。

 死神が舞い降りたのかと思った。

 そして思った。

 上等だよ。まったくにもって上等だ。

 死神だろうが天使だろうが、弾にあたればそれまでだ。

 押し寄せてくる高揚感に思わず口元が歪む。

 さぁ、かかって来い。

 だが、彼女の反応は俺の想定とは違うものだった。

 「ふぅん――、なかなかどうして。おもしろいね~、君」

 新しい玩具を見つけたように、ポニーテイルの少女は笑った。

 なにがそんなにおかしいのか。よくわからないがとにかく腹立たしい。

 「ねぇ、私達と一緒にこない? 」 

 「なんで」

 「君が~、おもしろいからっ! 」

 「俺が? 」

 「そそ。なんかね~、人生退屈そうじゃん? つまんないでしょ」

 「おもしろいと思った事なんて一度も無い」

 世界は残酷なんだ。

 一時の幸福は後の不幸を生み出す。俺はこの数年でそれを嫌というほど見てきたんだ。

 そんな俺の考えを見透かしたように、彼女は言う。

 「そうなんだよね~。友達とか家族とか仲間とか、ぜ~~~~~~~んぶくだらない。人がゴミのようだ、という名言があるけど正にその通りなんだよ。見てよ、この足元の死体の山」

 そう言って彼女は大きく両腕を広げた。

 「この生ゴミの山と私たち一体何が違うと思う? 」

 「……、そんなのは」

 決まっている。

 それこそもう何百回も繰り返してきた疑問だ。

 答えなど遠の昔に知っていた。

 

 正解は、

 

 「「違いなんてない! 」」


 俺と彼女の言葉が重なった。

 「ふっ、くははははははははは。ああ、そうだ。この世界はくだらない。神が創ったゲームだとしたらまるでクソゲーだ。センスがまるっきりゼロだ」  

 「あはははは。だよね、だよね~。君ならわかってくれるんじゃないかと思ってたよ~」

 いつぶりにここまで笑っただろう。

 腹立たしくて、清清しかった。

 「ぶぅ~、なんか二人してたのしそうですぅ!! 」

 ぷんすかと怒りながらちびっ子が髑髏を振り回している。

 あっちもだいぶ愉快なヤツらしい。

 「……、せっかくの誘いだが、悪いな。断らせてもらうわ」

 俺は肩をすくめると、もう使う気の無くなった銃をホルスターに戻す。

 「え~、なんでなんで~!? 」

 「ぶーぶー! 」

 「……、お前らの足元に転がってるそいつらな。俺はそいつらに拾ってもらった恩がある。さすがにあだで返すわけにはいかねえよ」

 そう言うと、俺は彼女たちに背を向けた。

 これでまた居場所がなくなっちなったが、まぁ、何とかするさ。

 今までだってそうやって生きてこれたんだ。

 あ、そうだ。せっかく銃も使えるし、テロで培った知識もある。なら傭兵なんていいんじゃないだろうか。

 とりあえずは食いっぱぐれないようになにかしらの――、

 

 「ちょっとストップ! 」

 

 「あん? 」

 思わず振り返ってしまった。

 そして、それがこの先の俺の運命を決定づけた。

 「やっぱりあんた、おもしろいね。私と一緒にきなさい」

 「……、俺の話きいてなかった? 無理だ。ばいばい、さようなら」

 再び立ち去ろうとする俺を、だが、彼女はそれを許さなかった。

 「義理が立たないって言うんならこれでどう? 」

 言って。

 彼女は。

 

 自身の右目に人差し指と中指を突き刺した。

  

 「なっ!? 」

 「――ッ!! 」

 「お姉ちゃん!? 」


 さすがに慌て出すちびっ子を片手で制して、あろう事かその女は、ズブズブと第二関節まで指をつっこんだ。

 どうかしてる。

 一本どころじゃない、頭のネジが全部トんであがる。

 油汗を浮かべ、血を噴出しながら、彼女はさらに驚くべき行動にでた。

 ブチブチッという何かが引きちぎられるような嫌な効果音を出しながら、彼女はぐりっと指を回した。

 「ぎィッ!? !! !! !!」

 おかしい。

 なんだこいつは。

 少なくとも、俺の知っている『人間』という生物ではない。それだけは保障する。

 化物だ。

 間違いない、こいつこそが死神だ。

 ブチンッと彼女はとうとう目玉をくりぬくとその辺に投げ捨てた。

 グシャっという音を立てて壁に当たったそれは、まるで水風船をそうするかのように辺りに飛び散った。

 「お、おい……、お前、なに……を――」

 思うように口が動かなかった。

 震えていた。

 さっきまでの高揚感などもうどこかへ消え去っていた。

 恐怖。

 ただそれだけが俺の中で渦巻いていた。

 肩で息をしながら、血まみれの目を左手で覆い、彼女は笑みをうかべる。

 血まみれの右手を差し出しながら。


 「はい、これでチャラ……、ね。きなよ。世界は広いんだ。私が見せてあげるから」


 きなよ……、だと?

 あの女は何を言ってる?

 こんなキチガイじみた光景を見せられて俺がホイホイついて行くと、本気で思ってるのか?

 だというのに、なんだその確信を持っているような目は。

 「くっそ――ッ、」

 思わず悪態をついて、顔を覆った。

 ああ、気づいちまった。

 この女がいったい何をしでかすのか、わくわくしてる俺がいる。

 そして、それすらも、きっと彼女はお見通しなのだろう。

 なんて女だ。

 いかれてるにも程がある。

 「早くしてくれないと、私失血死しちゃうよ~? 」

 「~~ッ、ああッ、クソが!! 分かったよ!! いいからさっさと止血してくれ!! 」

 半ば叩くように、俺は彼女の手を握った。

 ソレこそが。

 生徒会長、如月ユイと副会長、凪野との。

 そして如月学園生徒会との出会いだった。

 

 「ようこそ。我が生徒会へ。歓迎するよ♪ 」

ようやく最新話更新です。

以前のものも大幅改稿しているのでよければどうぞ。

多少なりとも読みやすくなっていれば幸いです。

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