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もう一つの仕事 2

 2


 それは瞬きの一つの瞬間だった。

 ――ッ、閃光弾か!?

 生徒会室が閃光に支配される。

 まぶしいなんて考える暇もない。視界が真っ白に塗り潰されていた。

 認識がコンマ一秒遅れて、その情報を脳に伝える。


 「……ぐぁッ!? 」


 油断したッ。

 ダメだ。

 目が開けられねえ。ベレッタを取り落としてないのが奇跡だ。

 「クッソがッ!! 」

 半ば怒鳴るように声を荒げる。

 どっちがどの方向だ。

 ランプはどこに行きあがった。

 他のヤツらは。

 濁流のように押し寄せてくる疑問。それらを無理やり認識の外に押し出す。

 とりあえずあのランプの攻撃をくらった。それだけは確かだ。

 「――ッ、」

 クールになれ。感覚を研ぎ済ませろ。

 闇雲に撃っても被害が増えるだけだ。

 最悪、兆弾した弾が自分の脳天をぶっとばす可能性もある。

 つまりは何をどうやっても、圧倒的に不利な状況は変わらないってことだ。敵の正体も皆目検討がつかない……、となると。

 逃げるか。

 たしかヴィネッサが脱走してから扉が開きっぱなしだったはずだ。

 となれば、風の流れをたどってとりあえずは外に――。

 思考が終わるか行動が先か。

 まるで俺が動き出すのを待っていたかのようなタイミングだった。ブォ!! っという轟音とともに烈風が巻き上がる。

 「~~ッてえ!! 」

 体が浮き上がるほどの風を受けて、椅子やら机やらが生徒会室中を暴れまわっているのだろう。

 鈍い衝撃が俺の肩をかすめていく。

 まずいな、今この部屋にはアセンブル・ハートがある。いつ串刺しになってもおかしくないぞ。

 ガシャァン!! という鋭い音がした。

 きっと何かが窓ガラスを粉砕した音だろう。

 考えてる間にさらにまずい事になったぞ。後数秒もしないうちにガラスの破片が俺の体をスライスしにやってくる。

 ミキサーの中にでもぶち込まれた気分だ。

 一体どうする……。

 視界は完全に奪われてしまっている。無闇に動き回るのはまずい。

 かといって――。

 スパッという鋭い痛みが頬を切り裂いた。

 遅れて熱を伴った痛みがやってくる。予想通りガラスの破片が俺の頬を掠めて言ったのだろう。

 久しく忘れていた痛みだ。

 懐かしい戦場の感覚。

 ここまで緊迫した状況は正規軍相手にテロリストをしていたとき以来か。

 動くも動かざるも同じく死地、か。

 さてどうする。

 様々な考えが一瞬で脳裏を通り過ぎていく。

 と。 


 生徒会室をまるで生き物かのように暴れまくった突風は、やがて急速に凪いだ。


 ゴォオオォ!! といううなりを上げる突風の音が急速に離れていく。

 ガシャガシャン!! という音は恐らく宙をまっていたモノが落下している音だろう。

 どうやら向こうの方から扉の外に――ッ!? いや、それはまずいっ! 

 安堵の息を吐く間もなく、俺は己の思考の浅さに舌打ちをする。 

  

 「まずった~」


 珍しくも会長の悔しげな声が聞えてくる。

 「目がチカチカするです」

 「まるで台風ですわね」

 凪野もロカさんも無事だったか。

 どうやら奇跡的に全員生きてるみたいだな。さすがに全員無傷とはいかないだろうけど、声を聞く感じ重傷を負った者はいないようだった。

 思わず安堵の息を吐き出す。

 徐々に回復していく視界に薄目を開けて、凄惨たる生徒会室の様子を確認していく。

 まるでRPG07《ロケットランチャー》でもぶち込まれたかのような惨状だな……。後片付けの事を考えると今から頭が痛くなる。

 いや、それよりもだ。

 「トモッ!! 」

 憔悴した会長の声が俺の耳を叱咤する。

 わかってるさ。

 さっきの突風は廊下に出て行った。

 ってことは一般生徒がまきぞえをくらうかもしれないってことだろ!

 最後に見た時計を思い出す。

 確か時刻は二十一時を回っていはずだ。だとすれば一般の生徒や先生たちが残っている可能性は低い。

 低いが……、ゼロじゃない。

 万が一の可能性は十分にある。

 「ナノ、回復してから俺を追って来い。先に行くぞ! 」

 「う~、了解ですっ」

 返事を背中に受けながら俺はさっきの突風を追って駆け出していく。

 過去に戦場でスタングレネードをくらっていた事に感謝だな。

 ある程度回復が早い。

 ナノはまだしばらく時間がかかりそうだ。

 俺だってまだ視界がボヤけて見える。

 が、完全な回復を待っている余裕は無い。


 「ッ、チぃ! 」


 愛用のベレッタを片手で構えて、もう片手で携帯電話を操作する。

 短縮に入れといてよかったぜ。

 この視界で携帯の細かい操作なんて冗談じゃないからな。

 そいつは数回のコールで電話に出てきた。

 

 「ヴィネッサか。厄介な事になった」

 『丁度確認したところよ。なにあのミニ台風』

 「ナノの盗って来たランプから出てきたんだよ。いきなりブラッシュボムをかまして逃げ出しあがった」

 『なーる。じゃあ例のアレってわけだ』

 「そういうことだ。お前今どこにいる? 」

 

 俺は走りながら彼女の位置を確認した。

 ヴィネッサもあの『風』を追っている可能性が高い。


 『C棟二階の北側――ッわ!? アイツ攻撃して――ヤバッ!? 』


 電話の向こうでは大分苦戦しているようだった。

 早く応援に行ったほうがよさそうだ。

 ようやく視界も全回復した。全力で走っても障害物に邪魔されることはないだろう。

 幸いC棟はすぐ横に併設されている校舎だ。

 すぐそこの渡り廊下を渡っていけばそこまで遠くは無い。

 ただ果たして、風の塊みたいなヤツに銃がきくのか?

 

 その瞬間だった。

 

 『逃げられ――ッ』


 パリンッ!! という鋭い音が耳元とすぐ横で響いた。

 慌てて横に視線を向けるがもう遅い。

 隣の校舎から窓ガラスを突き破った『風』が俺めがけて突っ込んできていた。


 『避けて智久ッ』


 と、電話越しに声が響くが、間に合わない。

 ヤバイ、直撃コースだ。

 

 次の瞬間、ゴォ!! という突風に一瞬で体を持っていかれる。 

 いきなり洗濯機の中にでも放り込まれたように容赦なく空中でもみくちゃにされると、次の瞬間には激しく壁に打ち付けられた。

 ゴッッ!! !! という鈍い音が廊下に響く。

 肺の中の酸素が一気に吐き出される。 

 「ッ――がっっ!? 」

 やべ……。

 完全に後頭部を痛打したわ。

 ギリで受身を取らなかったら、完全に死んでた。――、しかもこりゃ左手、骨折してんな。

 体中の痛覚が麻痺しているおかげで痛みがないのが救いだな。

 おいヴィネッサ……、なんて顔してあがる。俺の事なんかより早くあの風を追えよ。

 なに言ってんのかわかんねえ。

 悪いな、しばらく任せる。

 こりゃしばらく――、意識が……戻ら、ね――。


『勇者と魔王の第三勢力』という話も書いていますのでそちらも宜しくお願いします。

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