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もう一つの仕事

 「んでんでんで♪ その後どうなったの?」


 ずいっと、会長が自分の席から身を乗り出して、アニメのオープニングの歌詞のごとく聞いてきた。

 場所は生徒会室。

 俺とヴィネッサは特に記述することも無いほどにスルスルと目的のブツを回収し終え、その翌日には、日本は我等が生徒会室へと帰還を果たしていた。

 いやまぁ、記述するところは無い――とは言ったが、実際には動揺したヴィネッサが赤外線センサーに引っかかったりして、そこそこ波乱万丈ではあったのだが。

 俺は生徒会室で、机の上にでろーんと突っ伏していた。

 そんな俺の顔をキラキラとした瞳で眺めながら、会長は俺の話を待っている。

 さながら、おとぎ話の冒険譚を聞く子供のように純粋な目だ。

 俺のはそんな格好のいいものではなく、こそ泥の潜入譚なのだが。

 こっちは連日の仕事で疲れてるんですがねぇ。

 休ませてもらえませんかねぇ。

 頭、ベレッタでふっ飛ばしますよ会長。

 視線でそんな言葉を送ってみるが、残念ながら会長には届かなかったらしい。

 めんどくさくなって、生徒会室に集まっている面々に視線を向ける。

 俺と同じく連日仕事続きで俺の隣でヘタっている吸血鬼、ヴィネッサ・スカーレット。

 正面の席でお気に入りのヘッドホンをつけパソコンを弄っている『法外価格の淑女バイヤー』、ロカ=クラリアス。

 俺達の席の一番奥。

 全員の席を見渡せる場所で瞳をキラキラさせている第二十一代生徒会長改めマリモ、如月ユイ。

 そして。

 俺はつい先日まで空席だった机に視線を向ける。

 そう。

 今日は凪野なのがいるのだ。

 見ため十歳前後の明らかな小学生中学年。

 緑と蒼の双色眼オッドアイ

 肩書き、『死奏者ネクロマンサー』。

 ロカさんの隣に座っているあの幼女こそが我等が生徒会副会長である。

 彼女は楽しそうに机の上に置いてあった、愛用の髑髏を雑巾で拭いていた。

 のだが……。

 「んでんでんで♪」

 どうやら会長のこのフレーズが気に入ったらしい。

 子供らしい超絶ハイテンションで、会長の真似をして身を乗り出してきた。

 まるで悪影響を受けていた。

 「会長、ナノに変な事教えないでくださいよ」

 「え~、なにも変なことは教えてないよ~。ねぇ~」

 「ねぇ~」 

 まるで仲のいい姉妹のように、二人してそんな事を言いあっている。

 これが高校生の会話だというのだから日本の将来が不安になる。アホの会長はもう取り返しがつかないから諦めるとして、ナノの精神的成長に影響を及ぼすのはマジでやめて欲しい。

 他の連中と比べてピュアなんだから。

 まかり間違って会長のようなマリモになってしまったらと考えると…………、だめだ。

 そうなったらもう殺すしか救済手段が無い。

 しかも、まともに挑んだ場合、間違いなく返り討ちにあうだろう。

 試しに頭の中でシミュレートしてみるが……、やっぱりというか、当然のように勝てる未来が浮かばない。

 この未来を現実にしないためにもナノの情操教育は俺がしっかりとしなければ。 

 俺はごほんと一つ咳払いをして、 

 「いつも通りですよ。ベレッタで一発ズガンと混乱をおこして、その隙に乗じて獲物を強奪」 

 親指と人差し指で拳銃を作って、架空の銃弾を打ち出す真似をする。

 それに「えぅっ」と撃たれた真似をする会長を無視して、

 「それでこれが例のブツです」

 ゴトリと、かなりの重量を伴った剣を机の上に置く。

 ビクゥ!! と、俺の隣に座っていたヴィネッサが過剰に跳び上がり、

 「ひぅ!?」

 小さく悲鳴を上げた。

 もうヴィネッサの反応にも慣れたものだ。

 いちいち反応するのもめんどくさい。

 その剣を見たロカさんの瞳が輝いた。 

 「まぁ!」

 まるで沈没船から脱走するネズミよろしく、吸血鬼の身体能力フル活用で生徒会室から全力脱走するヴィネッサ。

 一言も喋らずに出て行きあがった。

 何しに来たんだあいつは……。

 呆れていた俺の視界の隅をロカさんの腕がすり抜けた。

 「この肌触り、重量、輝き。まさしく本物の『悪魔殺し《アセンブル・ハート》』ですわぁ! 」

 珍しくテンション高めのロカさんがアセンブル・ハートをかっさらっていく。

 じっくりと検分するように、シンクの手袋をはめたロカさんが指先を這わせていく。

 相変わらず繊細な手つきだ。

 壊れ物でも扱うようにじっくりと慎重に具合を確かめていく。

 これは少し時間がかかりそうだな。

 ヴィネッサもどこかへ行ったし、完全に手持ち無沙汰になってしまった。

 鑑定が終わるまでさてどうするかと、視線をさまよわせる。

 すると磨き終わった大きな髑髏をまるで仮面のように被ろうとしているナノと視線が合った。

 「そういえばナノ。お前が盗ってきたものはどうしたんだ? 」 

 「ん~と、これです? 」

 一旦、髑髏を横に置くとがさごそと制服の内側から一つランプを取り出した。

 ランプといっても光を発するほうじゃなく、擦ると魔人が出てきたり、願いをかなえてくれたりする方のアレだ。

 一見するとカレールーでも入っていそうな気がする。

 思い出したように席を立つと、 

 「ロカ姉ちゃん、これも鑑定よろしくです」

 「了解ですわ」

 ロカさんはそう言って、それまで鑑定していた『悪魔殺し《アセンブル・ハート》』を机に下ろすと、ナノからランプを受け取る。

 次の瞬間。

 ロカさんの目が再び輝いた。

 瞳に星でも映っているのではないだろうかというレベルで。

 「純金! まさしく純金ですわ! 凪野さん、おいくらお望みですの!? 言い値で結構ですわよ」

 違った。

 どうやら目に映っていたのは$のようだ。

 「ふえぇ。お、お兄ちゃん……。ロカお姉ちゃん、なんか、こわいですぅ……」

 がくぶるしながらこちらに助けを求めてくるナノ。

 まるで小動物を見ているようだ。なんというか、癒される。

 なぜか『お兄ちゃん』呼びされるが、違和感がまったく無いのが困りものだ。

 一応言っておくが彼女の方が上級生である。

 まぁ実際に妹みたいなもんだし、嫌じゃないから放ってるんだが。

 「気にするな。やたらめったら国宝級の品物を見すぎて興奮してるだけだ」

 「そうなのですか……。にゃーっ、な、なんかハァハァしてるですぅ! 」

 脱兎のごとく駆け出したナノが俺の背後に回りこんだ。

 ロカさん……。 

 あなた今、完全に不審者ですよ。あと、なんかよだれ垂れてます。

 あの会長ですらドン引いてますから。 

 「ロカさーん。戻ってきてくださーい」

 「うへへへ。お金、お金――はっ!? 私一体何を」

 どうやら正気に戻ったらしい。

 「完全に守銭奴になってましたよ。なんか夢の国まで旅立ってました」

 「はうぅ。私としたことがお恥ずかしいところを

 「俺はいいですけどね。気持ちはかなり分かりますし。……ただ、ナノが完全に怯えちゃってます」

 背後から俺の制服をギュッと握りしめて、びくびくとロカさんの様子を伺っている。

 てか爪まで立てて握りしめられてるから地味に痛い。

 「ふえぇぇ……」

 小動物のような愛らしい鳴き声(? )をあげて、心なしか目の端には涙まで浮かんでいる。

 どうやらトラウマになってしまったらしい。

 「こ、怖くないですわよー……? 」

 野良猫にそうするように、引きつった作り笑顔をうかべて、じりじりとにじり寄ってくるロカさん。

 それにビクゥ!! と震え上がって、

 「ひぅぅっ」

 巣穴に引っ込むように完全に俺の背中に隠れてしまった。

 ショックを隠しきれないロカさんがガックリと肩を落として自分の作業に戻っていく。

 「ほれ、お前もさっさと自分の席に戻れ」

 涙目のナノの頭をポンポンと撫でてやる。

 ……、保母さんか俺は。

 せめて兄ポジションで収まっていたい。

 俺が促すと、うぅぅぅと警戒の声をあげつつ、渋々と自分の席に戻っていく。

 「……で、」

 と。

 ひとまず事態に収集がついたのを見計らって、会長が声をあげた。

 その表情はいつもの気だるげな物ではなく僅かな剣をはらんでいた。

 稀に見るシリアスモードだ。

 「ええ――、ビンゴですわ」

 ロカさんが口元に不適な笑みをうかべてそう言った。

 だがその表情はいつもの、お宝を鑑定する時の楽しそうなものではない。

 まるで爆発物でも扱うかのような、そんな緊張感を漂わせている。

 さっき剣を触っていた時よりも心なしか、さらに慎重そうに見えた。

 「おぉ! やっぱり正解だったか~。さすが凪野ちゃん! 」

 「ふふん。もっと褒めるです! 」

 ふんす! と満面の笑みをうかべて小さな胸を張るナノ。

 「偉い! 偉いよーナノちゃん。さすがだよ~。最高だよ~。マーヴェラスだよ~! 」

 隣の会長に頭を撫でられながら、えへへへへと無邪気に笑う。

 はたから見れば実に微笑ましい光景だ。

 俺は視線をずらす。

 ――笑顔のナノの右手には、彼女愛用の髑髏が掴まれていた。

 それを確認すると同時に俺も懐にしまわれていたベレッタを引き抜き、安全装置を引き上げてカバーをスライドさせる。

 俺のリロードを合図に生徒会室に緊張が走る。

 ナノと会長の表情も一瞬で切り替わる。

 どいつもこいつも、裏社会の住人らしい好い面してあがる。

 ふと窓ガラスに視線を向けると、完全に人殺しの目をしたテロリストがそこにいた。

 死神の冷笑を浮かべて、腐ったどぶ川みたいな目をしてあがる。

 ピリピリと急速に研ぎ澄まされていく凍てつく空気に小さく息を吸い込んで、会長が沈黙をぶちやぶった。

 「じゃ、はじめよっか♪」

 ソレを合図に、ロカさんはパソコンを閉じた。

 机の上に『悪魔殺し《アセンブル・ハート》』とランプを置いて三歩ほど後ろに下がる。

 さてさて、久々の大当たりだ。

 「トモ、とりあえずなんかやってみて」

 お前が動け。 

 ちっ、と俺は隠しもせずに舌打ちをすると、ロカさんの机まで足を進めた。

 ランプを丁寧に手に取ると、とりあえずじっくりと眺めてみる。

 なんか擦ったら魔人でも出てきそうだな。

 ――、試してみるか。

 「……、」

 俺はナノの机の上においてあった雑巾を手に取ると、ランプをごしごしと擦ってみた。

 数秒まってみたが何も起きる様子はない。

 ただピカピカになっただじゃねえか。

 いっそ二、三発ぶち込んでやろうか。いや、純金なら兆弾してくるしな。

 コンコンとノックをするようにたたいてみる。音が内部で反響しているところをみると中は空みたいだな。

 蓋は完全に固定されているようだ。

 「どうしろってんだよ」

 思わず悪態をつく。

 今度は投げてみるか。

 少し強めに握りしめると会長の頭部に向かって振りかぶる。いつもいつも人を奴隷のように使いあがって。

 少々仕返しさせてもらおう。

 なぁにぶつかってもタンコブが少々できれ程度さ。

 心の中で邪悪な笑みを浮かべつつ、表情は微塵も動かさない。


 その時だった。

 

 ランプが発光した。

 そう認識した瞬間には生徒会室は黄金の閃光に包まれていた。

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