その九
「半分当たりで、半分外れ。当時はまだ一統派という概念は無かった。むしろ、一統派の端緒となった事件という意味では正解だけど」
イアカーンは静かに笑う。「当時、東大公家の待遇に不満だった者がいてね。折り悪く、そういった連中がリングラスハイム付きの仕事に何故か纏まって就いてしまったんだ」
「……歴代東大公は質が悪いですねえ、やっぱり」
瞬時に何があったのかを見通した慶一郎は思わず溜息を付いた。
「どちらかと云えば、その件は僕が絡んでいてね。南大公家にもちょっかい出してきてさ、鬱陶しくなったから、纏めて処分しようという話になったんだ」
「どちらにしろ質が悪いですな」
何事もなかったかの様にあっさりと言い放ったイアカーンに対し、慶一郎は素直な感想を返した。
「否定はしない。僕は僕で、この世界を守ることしか興味が無いからね。南大公家にしろ、東大公家にしろ、今を生きる連中が決めることだ。僕が口出しすることじゃあ無い」
厳然とした態度でイアカーンは言い切った。
「……矛盾してません?」
慶一郎は思った事をそのまま口にする。
「うん、世界を守ることにしか興味が無いんだ」
イアカーンは爽やかに笑ってみせる。「だから、あの件に関しては僕が介入する事がほぼ確実な話だった」
「あー、なんだか見えてきました」
額に手を当て、慶一郎は溜息を付く。「魔王に踊らされていた連中もいたって事ですね?」
「乱暴に云うとそんな感じかな? あの時は、最下層にある力を欲しがっていたんだよ、君たちが追い詰めた奴が」
からからと笑い、抹茶を口にする。