その五
「流石に、百年前は生きていないんですが……」
イアカーンの問いに冷や汗を流しながら、慶一郎は答える。
「あー、そうだっけ? もうそんなに経っているのか。そりゃ兄さん、一度戻れと本気で怒るわなあ」
ゲラゲラと笑い出し、「手短に話すとするか」と、急に真面目な表情をした。
それに釣られ、慶一郎も居住まいを正す。
「迷宮都市、リングラスハイムのことは知っているね?」
確認を取るかの様にイアカーンは言った。
「まあ、一応あそこには潜っていた時期がありますからね」
慶一郎は相槌を打つ。
リングラスハイム。
冒険者互助組合が作られることとなった原因の一つであり、無限の富と名誉を生む金の卵とまで言われている特殊な迷宮である。
区画ごとが【門】によって繋がっており、満月の度に繋がっている先が変更される。その時、その区画が何らかの基準から見て怪物なり、宝物や罠が一定量以下になっている場合、怪物の再召喚や宝物と罠の再充填など見かけ上の再構築が成されるのである。その為に、宝物目的で潜り続ける冒険者が多い。
「死番も慣れれば楽しいもんでしたし」
慶一郎はそう言って笑い飛ばす。
「それは流石にどうだろうと、この僕でも悩む話だが」
イアカーンも流石に苦笑し、肩を竦める。
満月毎に【門】の行き先が変わる性質上、最初の階層からいきなり高難易度の階層に繋がることもある為、何の対策も練っていない頃は満月前後で事故が多発していた。