その参
「だが、それだけでは決定的とは云えまい?」
ふっと笑い、クラウスは挑発的な眼差しで慶一郎を睨み返す。
「まあねえ。家の口伝に伝わっている情報と照らし合わせて最初から怪しいとは思っていたから、見えてきたことだしなあ。今の鎌をかけた台詞で引き出した言葉で追い詰める気はねえよ。そんなの無しでも、あんたが猊下である証拠は既に掴んでいるわけだからなあ」
真面目な顔付きで、慶一郎はクラウスの佩剣を見る。「宝剣フレアブレード。西中原の三種の神器の一つにして、皇位継承の証。それをあんたは聖皇パルジヴァルより授けられた。以降、あんたが宝剣フレアブレードの代わりに皇位継承の承認を行う様になった。それが何よりの証拠だ」
「素晴らしい。素晴らしいよ。ただし、僕が君の前でこれを抜いていたら、の話だがねえ」
一見すると唯の幅広剣にしか見えない得物をポンと叩いてからクラウスは言った。
「抜いていたじゃねえか、【奥之院】で」
その一言を受け、流石のクラウスも顔色が変わる。「お陰で、あの吟遊詩人が魔王アルヴィースであることに思いが至ったよ。全く、あれだけ示唆になる情報が鏤められていたのに、気が付かないとは、上忍失格だな」
深々と溜息を付き、慶一郎はクラウスを見た。
クラウスは額に手を当て、思わず天を仰いだ。
「そんな辺りが主な理由ですがね。細かいところも指摘していきますかい?」
如何にも楽しそうに慶一郎は笑った。
「いや、もう良いよ。【奥之院】で見られたなら仕方が無い」
イアカーンは指を鳴らし、結界を張った。
「随分と器用なもんですな」
突如変わった辺りの雰囲気を察知し、慶一郎は思わず呻った。