その弐拾
「その心境は分かりますが、受け入れて下さい。数年の内に本格的に目覚めますよ。あれからしてみれば、極上の御馳走が用意されているのを自分の目で確認したわけですからねえ」
同情しながらも、面白くなってきた現状を楽しんでいる様を隠そうともせずにイアカーンは笑う。
「何て疫病神だ! 洒落になっていない!」
既に滅んだ魔王に対し、慶一郎は悪態を吐いた。
「まあ、然ういう意味もあって、君たちに何かを上げないといけないなあ、と」
イアカーンは申し訳なさそうに言う。「正直、君たちを失うわけにはいかないのですよ。この御時世に」
「どういう意味です?」
イアカーンの態度を多少不審に思った慶一郎は問い返した。
「先程までの発言と同じですよ、根本はね。乱世である以上、何らかの介入があれば西中原は容易に落ちます。それは人類種にとっての敗北となり得る。それを防ぐ為の力は常に必要とされているのです。その力の供給元がどこかと云えば……」
無念そうな表情を浮かべ、イアカーンは言葉を濁す。
「東大公家と南大公家、ですか。南大公家だけでは無理なんですか?」
慶一郎は素直に疑問をぶつける。
「残念ながら、うちは最終戦争でも無い限り、全力を出すわけにはいかないんですよね。むしろ、僕が本気を出したのを気付かれた時点で最終戦争が始まります。そこは、父上と母上が本気を出さない理由と同じなんですよ。法の陣営も混沌の陣営も父上の動きを注視していますし、父上と母上に敵対している神々だって隙あらば滅ぼしに来ますからねえ。危うい均衡の上に成り立っている繁栄なんですよ。そう考えると、均衡崩し屋に成る訳いきませんからね。現状維持を望む以上」
何とも言えない表情を浮かべて、イアカーンは言った。




