その弐
「何が云いたいんだい?」
悪戯っぽい笑みを浮かべた慶一郎をクラウスは静かに見詰める。
「あんたの正体を見極めた理由を、さ」
慶一郎は苦笑しながら相手の目を見て言う。「第一に、モノを知りすぎている。うちの御先祖がイアカーン猊下の元で戦ったことを知る者は、その時代を生きてた存在か、それを伝え知ることができる者だけだ。確かに、あんたの自己紹介による設定に寄れば、それも不可能じゃ無いだろうが、それでも不自然な点が残る。原の一族は四柱家に入っていないとは云え、東大公家では名の知れた武門の家だ。ただし、東大公家をよく知らなければ知り得ない情報でもある。冒険者互助組合に出向するヴァシュタールの人間が東大公家を知らないわけは無かろうが、それでも俺がその原の一門だと見切ることが出来るかと云えば疑問が残る。限りなく黒に近い灰色って奴だ」
「それは面白い推測だね。それだけでは無いのだろう?」
興が乗ってきたのか、クラウスは先を促した。
「ああ。もう一つは上様のことをよく知っていたことだ。今の上様は、冒険者紛いなことを一度もしたことが無い。冒険者にしか接触しないはずのあんたが昔から知っている、全く以ておかしな話だ。何せ、今の上様は初代様が還俗しているわけだからなあ」
「成程。それなりに裏は取っている訳か。帯刀君が既に死んでいる、あの魔王に聞かされた内容だけでそこまで云い切れまい。……ああ、そうか。君は原の当代か。ならば、白鶴楼の忍びは全て君の傘下だったな。確かに、そこは誤魔化しきれまい」
思わずクラウスは苦笑した。
白鶴楼とは扶桑人街で最も知られた遊郭である。その歴史は、扶桑に居た頃にまで遡れ、あの雷文公ですら贔屓にしていたと伝えられる。
そして、遊郭であるのは表向きの顔で有り、実際の処は様々な抜け忍や渡り巫女、くノ一と言った忍びの者を集めた一大忍軍である。
武幻斉と因縁のあった忍が始めたと言われ、死ぬ間際に孫娘を娶ったとある婆娑羅者に後事を託したと噂されている。