その壱拾九
「俺は無理ですよ? そこまで人を踏み外していない」
流石に慶一郎は慌てた。
「君だって割りと順調に踏み外して居るみたいだけどね。まあ、雷刃小父さんの一の親友なんかやっていたら、人間の一つや二つ、止めてなければ死んでしまうから仕方ない。と云っても、君だって、その程度は今やろうと思えばやれるだろう? まあ、自力での回復は無理そうだけど」
イアカーンは冷静に慶一郎を値踏みする。
「仁兵衛がまともで助かりましたよ、本当に」
心の奥底から慶一郎は親友の性格に感謝をした。
「まあ、まだ油断するべきでは無いけどね。あの一族は、いきなり道を平気で踏み外すから」
イアカーンは肩を竦めながら静かに笑った。
「……それで、次に邪龍王が起きるのは何時と踏んでいるんです?」
聞きたくは無いが、一番大切な情報を慶一郎はイアカーンに確認する。
「さっきも云った雷刃小父さんが一番自信のある最高の弟子を送り込んだのが百年前ぐらいで、大体百年置きぐらいに目が覚めるんだけど、かなり満足していたから二百年は起きないだろうと云われていたね」
「云われて、いた?」
イアカーンの語尾にそこはかとない嫌な予感を隠せず、慶一郎は即座に聞き直す。
「うん。云われていた。本当に残念なお話ですが、君たち、【奥之院】で頑張りすぎた為、邪龍王が目を付けたようです」
戯けた口調でイアカーンは問題発言を提起した。
「……云っている意味が分かりません」
必死な形相で慶一郎は素っ惚けた。




