その壱拾七
「……よりにもよって一番面倒臭いのに絡まれていたのか……」
慶一郎は絶望的な声を絞り出した。
六大魔王第四位邪龍王。
世界の守護竜たる兄竜皇にどうしても勝てなかった事から、この世界でのみより強い力を使う為に敢えて龍と成り、その上で混沌に堕ちた力を求める事にしか興味を持たない魔王である。目的であった兄を殺した後も、手段である力を求め続け、それを振るう事を止めなかった。
他の六大魔王も邪龍王の暴走は放置していた。
何故ならば、邪龍王が興味を持つ相手は強者だけであり、自分たちにさえ火の粉が降りかかってこなければどうでもよい事だったのである。
「人間相手と云うことで、多少の手加減はしているようですよ。並の魔王程度の分身を使っているみたいですし」
取りなすかの様にイアカーンは救いにも成らない情報を出す。
「その時点で人間じゃ勝てませんから」
真顔で慶一郎は突っ込みを入れた。
「僕もそう思いますよ。まあ、一週間飲まず食わずで闘い続けた雷刃小父さんの闘い明けの高揚した精神が戦闘狂と碌でもない化学変化を起こして、誰得か分からない結論に至った、と父さんが解析していましたねえ」
「うわあ」
慶一郎は頭を抱え込む。「何処の錬金術師がどんな酷い実験したらそんな反応するんですか?!」
「君みたいな真面目な子がいると安心するなあ。僕の一つ上の世代が酷すぎてさ、自分で自分の正気を信じられないってどんな話なんだろうねえ」
遠い目をしながら、イアカーンは溜息を付いた。




