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その壱拾六

「やっぱり、想像はしていたみたいですね。扶桑人の純血と兵法者を千年近く必要としてきたのは、東大公家の律儀さを示す為ではないと」

 安心したとばかりに、イアカーンは頬笑む。

「ええ、兵法者にしろ、扶桑人の血脈にしろ、どう考えても無理に残す必要は無い。ここに居る冒険者達でも魔王ぐらいなら何とか倒せる。扶桑人がいれば楽になる程度で、絶対に必要と云う程では無い。むしろ、頼らせすぎて向上心が無くなることの方が問題が多いはず。その上、初代様の正室は西中原人だ。どう考えても、混血をさせたくないのならば、選んではいけない道。ならば、何故、そこまでして残したかったのか。……最初から脅威があるのならば、話は別だ。残したいのでは無い、残さなければ滅ぶのだとしたならば……」

 自問自答を繰り返し、慶一郎は結論へと向かう。

(まさ)しく、正しく。運が良いのか悪いのか知りませんがね、皇統戦役末期に強者の臭いに惹かれてとある魔王がやって来ましてね。聞いた話によると七日七晩闘い続け、(つい)にはとある盟約を結ぶことに成功しました」

 軽い調子でとんでもない内容の昔語りをイアカーンは言い出す。

「もう既に嫌な予感でお腹がいっぱいです、先生」

 先読みに成功してしまった慶一郎はげんなりとした。

「あー、僕も始めて聞いた時は正気を疑いましたから、気分は分かります。世界を滅ぼさず眠りに就く代わりに、目覚める度に強者と思う存分闘わせること。満足出来なかった場合、世界を滅ぼす、というものでして」

 今日の献立を口にするぐらい軽い口調でイアカーンは言った。

「頭悪いよ、魔王相手に満足する果たし合い出来る人間なんていないよ!?」

 慶一郎は思わず頭を抱え込んだ。

「いやあ、僕もそう思うんですがね。邪龍王相手なら仕方ないかなあ、と」

 目を逸らしながら、イアカーンは形ばかりの言い訳を言った。

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