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その壱拾参

「残念ながらそれは無理じゃ無いかなあ」

 イアカーンはニヤニヤと笑う。「だって、君、原の当主の上、仁兵衛君の親友だろう。永善鬼眼流が没落したって事は、その役目を負うのは誰だって話だよね」

「……俺は、(まつりごと)とは無関係なところで戦人をしていたかったんだけどなあ」

 遠い目をして、慶一郎は言った。

「ま、そりゃ無理だ。どちらにしろ、君は東大公家最大規模の忍軍の上忍でもある。嫌でも政には関わるよ。だから、種明かししているんだし」

 イアカーンは真面目な表情で言う。「流石の僕も、在野の兵法者に天下のことは語らんよ」

「気を取り直して伺いますがね、上様を追求していた時点で、今回の件の裏は見当付いていたんですか?」

 仕方なく居住まいを正し、慶一郎は本題に戻す。

「裏に何かがいて、それが東大公家の内部でこびり付いている、っていうことには気が付いていた。だけど、それが何かは分からない上、雷刃小父さんが冗談抜きで危機感を抱いていないってのも僕の焦燥感を増していたね。あの人、うちの親父様と互角かそれ以上の天才だから、後の先でなんとでもなると思い込んでいたからこの様なんだよ。冗談抜きで、君たちが居なければ、詰んでいた」

 何時も浮かべている頬笑みさえ浮かべようとせずに、イアカーンは淡々と言い切る。「あそこまで温度差があると、本当に洒落にならない。運良くアル小父さんが居合わせなければ、扶桑人街どころか、オストシュタット本街も魔界に堕ちていたとと思うよ、百年後」

「……まさか」

 流石に完全には信じられないといった表情で慶一郎はイアカーンを見返す。

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