その壱拾
「今回と同じ様に?」
真面目な顔付きで、慶一郎は確認を取った。
「今回程露骨じゃ無い。だから、僕も最後の最後まで気が付かなかった。運良くというか、悪くと云うか、どさくさに紛れて最下層に行こうとしていたあの魔王と鉢合わせてね。その時になって、東大公家がごたごたし始めたのが魔王の蠢動が理由と分かったのさ」
イアカーンは苦虫を噛み潰したかの様な表情で言う。「不覚だったね。全く以て、とんだ不覚だった。最初から魔王が糸引いていたと知っていたら、もっと他の始末の付けようがあった。御陰で、一統派という根深い宿痾を東大公家に持ち込む事になってしまった」
「あの魔王を打倒して解決出来なかったんですかい?」
多少不可思議な表情を浮かべ、慶一郎は尋ねた。
「流石に快刀乱麻を断つが如くいかなくてね。あれが心の奥底に眠っていた何かを煽動するのに長けていたというのもあるが、やはり事実を知らずに祖法を墨守するのにも限界があったのは否めないね。まあ、腐っても彼奴は魔王だったという事だ」
自らに刻みつけるかの様にイアカーンは自戒した。
「それで、リングラスハイムの時はイアカーンの旦那は今回と同じ様に高みの見物だったので?」
ふと気になった事を慶一郎は確認した。
「いやいや、色々あってあの頃は自前の探索隊を持っていたんだよ。とは云え、あの時は故あって探索仲間に当時の東大公が居てね。【鵺斬り】と【フレアブレード】の神器二つに、雷刃小父さんが云うには武幻斉に匹敵する天才が揃っていたんだ。その上、神官と腕の良い盗賊まで居て、僕が知り得る限り、当時求め得る最高の探索隊だったんだよ。まあ、その所為で油断して、金剛製の鉄扇に逃げ込まれたの気が付けなかったわけだけど」
苦笑しながら、イアカーンは淡々と説明する。「正直、あの件に関して云えば、僕の手落ちなんだ。だから、今回僕の失策を挽回してくれた君達には僕の正体を云い当てたよりも数段上の褒美を与えないと気が済まないんだよね」




