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たとえば、マンホールの上で自分の家の猫が死んでいたとして、人々は不思議に思うのだろうか。
実際、目の前でそんな光景があったので、こんなゴミみたいな疑問が浮かんでしまった。
でも、この思考がゴミであっても捨てる気はしなかった。
考えてみる。たとえば他の人達はどう思うんだろう、から始めてみた。
その他大勢の人々に感情移入してみたが、大体は死に場所より猫が死んだことに注目しただろう、と思われる。
死に場所が変だ、という発想は出ないはずだ。
みんな泣いて、
「さよなら、天国でも元気で」
って具合に。
僕の場合は、猫にそんな愛情は無かった。水も餌も与えた覚えはない。世話は、溺愛してた姉が全部やっていたはずだ。猫の名前もミケだったかタマだったか、あ、ソラだっけ。
生憎、高校生の僕には、青春を楽しむことに気を取られ、猫に向ける気、なんてものはなかった、もったいなくて。
早い話、この猫に関しては何も知らない。
だから、この猫がなんでマンホールで死んでいるかなんて知らない。
__終了。
いや、これで終わっては考えた意味が無い。
今更ながら、猫に興味を持たなかったことに後悔した。わりと真面目に後悔したのは久しぶりだった。
後悔したことが無いのは、僕が決断力があるからではない、損得勘定を始めからしてないからだ。
僕は損得を初めて考え、失敗したのだ。
失敗したとなると、僕の考えは次のステップに移る。
「この死体、どうしよう。」
呟いた後、殺人者みたいな言葉だな、って思った。本当に呟くかは知らない。
そうだ、この猫は野良じゃない、回収しなければ。姉にも知らせたほうがいい。
僕は、家に戻り、回収する準備をした。
姉は、僕よりも先に帰っていた。でも、予想はしていた。なんせ同じ学校だ。僕が考え事に耽ってた分、早く帰っては来れるだろう。
「なあにしてんのー」
やる気が無く、間延びした声。興味がないのが一瞬で分かった。
理由もなく、ほんの少しだけむかついたので言ってやった。
「ソラの死体を回収する準備を。不本意ながら。」
まさに鳩が豆鉄砲食らった、という顔だったが、笑える顔じゃなかった。というより、自分もそんな顔を
してしまったのだ。さすがに言い過ぎたと思った。
ああ、泣き出した。最初は呻くような声だったが、一呼吸入れた後、それがスタートの役目だったのか、
急に大きな声になった。
「何でよ…!何で…」
僕を責めてるような、静かで激しい口調だった。実際、ふざけたような僕の言葉も気に入らなかっただろう。
流石にバツが悪くなった。
「…ごめん」
僕は聞こえているか分からない謝罪をした後、逃げるように玄関を出て、猫の元に行った。
損得勘定をして、失敗。
従って、後悔したのは、今回で二度目である。