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泣き虫の私が泣く人のいない世界に行った話。追加で絶対泣かない女がこっちの世界に来た話。  作者: ヤマト


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19/31

19.東の番外編 ミカエル

番外編です。

*注意*

・番外編はR18版の書き直しのため、本編より「残酷な描写」

「過激な表現」等が少し多めです。ご理解ください(R18版はまた別のところで!)。

・上記の理由で、ヒーローの性格が本編とはわずかに違います。

・書き終わっています。短い間で更新します。


たくさんの閲覧ありがとうございます。

ゆっくりお楽しみください。



 公爵家家紋入りの馬車を降りると、いつもの公爵家護衛たちが半円を描いて自分を囲む。

 馬車止めにずらりと並んだ侯爵家の護衛たちが礼をする中、案内役のメイドが控えめに微笑んで「しばしお待ちを」とさらに丁寧に最上級の礼をした。


「ミカエル様」


 声の方を振り返ると、世界一可愛くて愛しい人が走って来る。が、遅い。


 本人の頭の中では飛ぶように跳ねるように走って出迎えているのだろうな、という生き生きとした笑顔で、とことこと来る。思わず吹き出しそうになるのを堪えて手を伸ばせば、ようやく辿り着いた彼女がその手をぎゅっと握った。


「おかえりなさいませ、ミカエル様」


 弾む息に紅潮した透き通る頬。銀の糸のような髪が日差しに反射して輝き、朱の瞳に光が躍っている。照れているのか声が少し小さく、しかし言えた喜びで「うふふ」と白い首を縮ませている。

 ひと言言いたい。可愛すぎると思う。


「はい。マリィ。ただいま」

 微笑んで返すと、心の底から嬉しそうに笑ってくれる。


 そのままミカエルの腕を引っ張って、しかしそんな力はないので引っ張られているふりをしてついて行けば、彼女は張り切って「今日は変わった趣向のお茶会です、ケイトとメイドとみんなで考えました」「新作のお菓子もあります、料理長の自信作です!」と説明しながら歩いて行くが、話に夢中になってたまに転びそうになるので、さりげなく足元に注意を払ってあげる。


 木漏れ日が目に優しく、風が吹き渡る中庭は緑と花に囲まれて美しい。

 そこかしこに立てられたパラソルが芝生に彩る影を作る。

 主人に気を遣ってゆっくり歩いてきた侍女とメイドたちが、恭しい態度で迎えてくれた。

「お待ちしておりました若様」

「お勤めお疲れ様でございます若様」

「みなさまもお疲れ様でございました」

 公爵家護衛にも声をかけてくれる。彼らをねぎらい、涼しい場所へ誘導し、専用の食器で供食までさせてくれるのだ。

「くうっ……」

 背後の護衛が唸る。


「坊ちゃん、俺早くこちらに移って来たいです。ほんとに」


「言うな」

 わたしもだ、と深く頷く。


 ここには夢が詰まっている。……と表現したのは、「公爵家次男の婿入りに際し、侯爵家についていける人決定戦」で惜しくも決勝で散った護衛だった。

 別に公爵家が悪いわけではない。最高位貴族護衛として仕事内容は常に最善を求められる厳しさこそあれど待遇は良いし、何より公爵家という燦然と輝く箔もある。ただ、比較先が悪い。と、ミカエルも思う。


 ハーマン侯爵家は独特だ。そして特別。


「若様」

 侍女のケイトがすっと近づいた。


「貴邸よりこちらに移って来られる護衛の方々へ待機所含め、新たに別棟を建てることとなりました。おひとりおひとりに個室が行き渡るよう、また造りに準じて家具その他も完備いたします。何か入り用なものがございましたらご明示ください」


「……ああ」


 背後の空気が動揺している。そうだろう、自分たちのために敷地内に建造物を増やしてくれると言うのだ。丸一棟。

「いい家具入れましょうね!」「酒が飲み放題のバーも入れてもらえるようオレらも申請しとくっすね!」などと侯爵家護衛たちが親し気に話しかけている。震える公爵家護衛たちの顔が見えるようだ。


「それから若様。書斎を造る予定でしたが、いっそのこと図書館を作ればいいじゃないかと旦那様が言っておられます。お嬢様のために買い込んだ本も、前回の件でかなり増えましたので。裏庭をひとつ潰して建設いたしますので、お持ちいただく蔵書は選別していただかなくても良くなりました。運ぶ際は侯爵家全員でお手伝いいたします」


「……」


「ミカエル様?」


 しばし沈黙したミカエルを、振り向いたマリィが可愛らしく覗き込んだ。


「図書館もそうですが、ミカエル様の私室も準備中です。私のお部屋の、ひとつ開けて隣です。そ、それで、あの、ふたりのお部屋の間に、し、寝室も用意するのですが」


 かあっと頬を染めて朱の瞳が伏せられる。

 もじもじしている指がミカエルの手のひらに触れた。


「あ、あの、寝室の……カーテンとか、えと、べ、ベッドとか……一緒に、選んでいただきたくて」


「……」



 夢が詰まっている。

 確かに。

 ここは天国か。



「……はい。楽しみです。マリィ、一緒に選びましょうね」


 かろうじて笑顔を保って、ミカエルは優しく頷いた。





 趣向を凝らしたお茶会、というのは芝生に敷布を敷いて直接座る「ピクニック形式」だった。


 侍女に勧められ、少し戸惑いながら敷布にあぐらをかく。と、マリィがひざ掛けを持って来てミカエルの膝にかけた。そしてそのまま、自分もそのひざ掛けに足を入れる。


 ぴたっと横にくっ付いて座った。


「……とても良い趣向だと思う」


「恐れ入ります」

 有能な侍女ケイトが胸に手を当てすっと礼をした。


 侍女もメイドも護衛も、ここの者たちは以前から気さくに、しかし丁寧に接してくれていた。しかしミカエルがこちらに婿入りすると決まってからは輪をかけて大切にしてくれる。令息から若様呼びに変わり、親しくも敬意を込めた態度だ。

 ひとえにマリィのミカエルに対する信頼度、そして、ミカエルはマリィをどんな時も守ってくれるだろうという想定に基づくものであろう。


 もちろん、その想定を崩すことはない。一生。


 しかしながら、あの両親のもと、公爵邸で放置気味に育ったミカエルにとっては、この環境がどこかくすぐったく、そして穏やかな嬉しさが込み上げてきて多少困る心地なのだった。


「ミカエル様、あーん」


 可愛い唇を一生懸命に開けて「あーん」と言いながら、マリィがフォークを向けてくる。その先に乗る新作ケーキを食べて、ミカエルはにっこり笑った。


「美味しいです。とろっとしてますね、不思議な食感です。ところでマリィ、それは誰から教えてもらったのですか」


「料理長開発の生チーズケーキです。あ、これは、ダマヤ様から教えてもらいました。これをすると男の人はとても喜ぶって聞きました」


 ちらっとケイトを見ると、「無念」という表情で頭を下げている。


「……そうだと思いました。マリィ、男の人ではなくて、わたし限定です。それとあの男爵令嬢の言うことはあまり本気にしないようにしましょうね」


 可愛いまつげをぱちっとして、少し首を傾げたマリィは「ミカエル様はこれはあまり嬉しくないのですか?」と言う。ミカエルは首を振ると、自分のフォークに溶けそうに柔らかいケーキを乗せた。


「嬉しいですよ、マリィにしてもらうと。ほら、あーん」


 ぱくっとフォークを咥え、可愛い顔がにこっと崩れる。


「本当ですね。嬉しいです」


「……」


 いやいや。

 本当に天国かここは。

 王宮で溜めた疲労や苛立ちが嘘のようにすーっと抜けて行く。


「他にあの男爵令嬢は何を言っていましたか」


「はい、たくさんいろんなことを、あっ…………えと、内緒です」


 さっと赤みが差した頬を隠すように、ふいっとそっぽを向く。そのうなじも可愛い。あまりに可愛いの積み重ねが膨大すぎて、とうとうミカエルは我慢の結界が切れた。


 あと、横にぴたりとくっつき過ぎていて、彼女の……ハリがあるのに柔らかい、こぼれるほどなのに美しく優美な形の……褒める言葉が溢れるように出てくるそれが、さっきから肘周辺に何度も当たってくるという……あまりにも残酷で幸福な現状に耐えられなかったとも言う。侍女が有能すぎて試されているのかと勘ぐるほどだ。


「マリィ。秘密はいけませんね」


 膝に腕を通してひざ掛けごと持ち上げる。「きゃ」と可愛い声を上げた彼女を横抱きにして、そのまま自分の膝に乗せた。


「夫婦の間に秘密はなしです。黙秘しているこの犯人はとても可愛いですが、どうにかして白状させなければ。その内緒話、洗いざらい吐いていただきましょう」


「ふふ、ふふふっ」


 わざと声を低めて睨むと、腕の中の人は堪え切れないように笑った。無邪気に、子どものように、弾む水滴のように透き通る笑い声を上げるマリィに、思わず唇が寄る。綺麗な銀の髪がかかる白い額に、ちゅっと口付けしようとして


「はーい。そこまででーす」

 長剣の柄が割り込んだ。


「……」


「結婚お披露目会が終わるまで、若は手を出すのは禁止でーす」


「……」


 見上げるのは樹木のような大きな男。元私兵カリムだ。


「……いや、そんな目で見られても。こっちも仕事なんで。いやほんと、勘弁してくださいよ若」


 男の後ろでは、今までにこにこしていた侍女やメイドたちが怒りの形相でわめいている。「ちょ、いいとこなのに!」「夢のような甘々を!間近にこの目で!」「耐える若様と無邪気なお嬢様の永遠にすれ違うこのキュンが……」


「本当に存在が邪魔だわこの独活の大木が」

 ケイトが吐き捨てて、後ろ足でカリムを蹴ろうとして避けられている。両家護衛たちはカリムに関しては距離を置いているため、沈黙を守っている。巻き込まれて女性陣の恨みを買ってはたまらないと思っているのだろう。


 そんなとげとげしい空気の中、カリムはにやっと笑った。

「オレが主のオーブリー様に報告したら、若はここへの婿入りがさらに遅れると思いまーす。早く引っ越しして夢のいちゃいちゃ生活……夢で終わっちゃうのは嫌ですよね若も」


「……」


 マリィが、可愛い眉を下げて見上げてくる。

「ミカエル様。ヴェロニカ姉さまが、ミカエル様がこちらに引っ越せるのはまだまだ先になりそうね、おほほほほほほほほっておっしゃってました。……そうなのですか?」


「……」

 すーっと抜けた疲労がすーっと戻って来る。一瞬か。


 ミカエルは腹に力を込めて、腕の中の宝物に穏やかに笑いかけた。


「もうすぐです。ええ必ずもうすぐ。もうすぐにして見せますとも。マリィ、あと少しだけお待ちください。必ずこちらへ、あなたのもとへ」


 だからいつでも、おかえりなさいを言ってください。そう伝えると、嬉しそうに「では、ただいまも言ってくださいね」と頷く。可愛い。


 あと、とミカエルは付け加えた。

「ヴェロニカ嬢の言うことも、あまり聞かないようにしてくださいね。……敵が多いな、本当に」


 ため息を隠しきれなかった。











番外編、本編から続く裏話です。イチャイチャすることと

金儲けしか頭にない男の話です。

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