表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
修道院パラダイス  作者: 羊宮 玲(旧 羊)
第五章 神獣

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/64

院長の告白2

「十七年前に、男が本棟に侵入しようとしました。外部棟と本棟を隔てる塀を、よじ登っている所を、散歩に出ていた院長と私たちが、見つけたのです」


 私とケイトが試した辺りだろうか。裏手で目につかなそうな場所だ。侵入するなら多分誰でもそこを選ぶ。


「私に警備員を呼ぶように言い、院長はそこに残りました。警備員を連れて戻ると、院長がその場に座り込んでいました。男の姿は見当たらなかった」


 院長はその時のことを思い出しているのか、うつろな目をしている。


「それで?」 


 お父様が静かに促した。


「院長が塀の向こう側を指さして、自分が杖を投げたら、男はあちら側に落ちたと言いました。それで私が本棟側に回り、確かめました」


 そこで一旦息を吐いて、なぜかため息をついた。


「男は息をしていませんでした」


 ベラさんが、グッと手を握り締めるのが見えた。私も唇を噛んで、声を抑えた。


「本棟には男性は足を踏み入れてはならない。それが絶対の規則だったので、私はキンバリー達を呼び、こっそり院長の続き部屋に遺体を運びました」


 少し間を置いてから、院長は続けた。


「次の朝、遺体を囲んで話し合いをしました。院長は自分が手を下したことを、とても気にかけていました。私たちは正しい行いだと言ったのですが、相当応えていたようです。その時に、遺体が温かいのに気ついたのです」


 ベラさんが、ハッとした。私も色々なパターンを考えてしまった。最悪は、まだ生きていたので殺してしまった、というものだった。


「私たちは慌てて男を揺さぶり、頬を叩いて意識を取り戻させようとしたのです。ところが男は息をしておらず、心臓も止まっていました。それで気のせいかと思ったのです。それなのに一日たっても男は温かく、肌の弾力もあった。それからそのまま、院長室に隠しているのです」


 ベラさんが低いかすれたような声で聞いた。


「今もなの?」


「ええ」


 ベラさんは立ち上がった。


「ジョナサンのところに案内して。カスリー修道女」


 応接室を飛び出し、私たちは本棟に向かった。

 お父様には、連絡通路の前で待ってもらうことになった。その代り女性騎士2名に同行してもらう。


 院長の部屋には二つの続き部屋があり、その一つにジョナサンが眠っていた。その姿は、いつも出てくるときと全く同じだ。

 十九才当時のままで、服装も同じ。色艶もよい。そして肌は暖かいのに、心臓は動いていない。


 私とベラさんは、ジョナサンを見つめて呆然とした。これをどう考えたらいいのだろう。


 次に考えたのは、ジョナサンを移していいのかどうかだった。今の状態は普通ではない。本棟から出したら死ぬかもとか、干からびたミイラに変わるとか、そういった怖い想像をしてしまった。


「この人の世話はどうしていたのですか」


 ベラさんがカスリー修道女に聞いた。


「何もしていません。人形のように寝ているだけなので、食べることも何もいらないようです」


 ベラさんは彼の頬を両手で囲んで、名前を呼んだ。残念ながら、彼はピクリとも反応しない。


「知り合いなのですか?」


 カスリー修道女が驚いて聞いたが、ベラさんの答えは、ええ、とそっけない。

 カスリー修道女は鍵をテーブルの上に置き、もう秘密にする必要もないわね、と一人ごとのようにつぶやいた。


 女性騎士たちは、一言も喋らずに、一部始終を見ていた。さすが皇族の女性たちに仕えるだけあって、抑制が効いている。私はその冷静さに驚いた。

 この不可思議さを解っていないとしても、男子禁制の修道院に、若い男性がいるだけで、驚きなのだから。

 私たちはそっとドアを閉め、鍵をかけ直し、外部棟に戻った。


「大丈夫かい」


 お父様の第一声は、ベラさんにかけられた。心配していたのだろう。すごく気遣わしげだ。

 私はお父様を、いい男だなと思った。そんなふうに一人の男性として見たことはなかったので、自分でも驚く。


 ベラさんが黙っているので、まずは応接室に移動しようと提案した。そしてジョナサンの様子を私から説明した。


「ジョナサンは、十七年前のまま、人形のように横たわっていたわ。心臓は動いていないけど体は温かかった。普通では考えられない状態だわ。何かの呪いなのかしら」


「ここは修道院よ。呪いはないんじゃないの?」


 さすが修道女なだけある。私の言葉にベラさんとカスリー修道女までが、嫌そうな顔をした。


「訂正します。何らかの魔術のようなもの、とかです」


 ベラさんの目が、チラッと私のクロスを掠めた。咄嗟に私も見たが、光ったりはしていない。


「愛だって言ってたわね。ダリア嬢が」


 ベラさんがそう言って何か考えている。なんだか嫌な予感しかしない。それで私は具体的な話を持ち出した。


「ジョンサンの事ですが、これからどうしましょうか。私は今の場所から動かすのは危険だと思うのですけど」


「ジョナサン自身は……」


 お父様はそう言い掛けて止めた。それから女性騎士達に、カスリー修道女を別室に連れて行って、ロイを呼んで尋問の続きをさせて欲しいと頼んだ。

 三人が出ていくと、ようやく皆思いのままに話せるようになった。


「驚いたわ。影のジョナサンは生きている人間の様に見えるけど、やっぱり存在感が薄いのよね。実物を見て気が付いた」


 私がそう言うと、ベラさんも同意した。そして一つの提案を出してきた。


「あの体の中に、ジョナサンが入ったら元に戻らないかしら。試してみましょうよ。まだやっていないでしょ」


「ああ、やってみたほうがいいね。だけど、何をするにしても、私は参加することもできないんだよなあ」


 お父様がぼやく。

 

「あ、じゃあ、ジョナサンの持ち物を本棟の外に出してみましょうか。例えば、タイピンとか、髪の毛のひと房なんかどうかしら。それが変化しないなら、体を外に運べるかもしれないわ」


 私の提案に、それもやってみることになった。もしそれが大丈夫だったとしても、体を外に持ち出すのはリスクがあるとは思う。それでも試してみたい。


「ところで、ジョナサンが塀から落ちたのは、院長の杖のせいではないと思います。私とケイトが試したら、意識が遠くなってずり落ちました。ジョナサンはその力に抗って、登り切ったので、ああなったのかもしれません」


 私が塀を登った話に、お父様はしかめ面をしたけど、お小言は言わなかった。


「この修道院には絶対に忍び込めないし、逃げることもできないという噂があった。その塀にかかっている何かのせいかもしれないな。気を失ってしまうのじゃあ、誰も塀を乗り越えられないよ」


 お父様のぼやき交じりの言葉を聞き流して、ベラさんはやる気満々になっている。


「今夜、ジョナサンを連れて院長室に行きましょう。リディア嬢は愛を満タンに補充しておいてね」


 言うと思った。私はケイト達との友情で愛を満タンにしておくと約束した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ