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修道院パラダイス  作者:
第二章 父の後悔(ハント伯爵視点です)

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後悔に押されながら、ひたすら走る

この章はハント伯爵(お父さん)視点になります。

 この馬はなぜこんなに遅いんだ。

 もどかしくてたまらない。1秒でも早く、リディアに会いたいのに。


 ここまでで3頭の馬を乗り換えた。夜も寝ずに走り続けている。だのに王都までまだ半日もある。


 私はなぜのんびり、会議なんかに出かけたのだろう。

 ユーリ殿下とリディアの婚約解消に付いて、取り決めた直後だったのに。

 もっと警戒すべきだったのだ。


 リディア、許してくれ。私のミスだ。


 王家から持ち掛けられた婚約にもかかわらず、ユーリ殿下は、この三年間リディアをあからさまに軽く扱ってきた。

 それは傍目にも明らかな態度で、はっきり言って無礼にもほどがある。


 王族に向かって、無礼だとは言えない。

 だがこの状態のまま結婚させることは、到底できないし、一旦白紙という話が出ても、誰も驚かないだろうと、私は判断したのだ。


 王は熱心に、リディアを手に入れたがっていた。

 それはそうだろう。


 我がハント伯爵家は、歴史と、その分積み上がった信頼と人脈を持つ。

 その上商才に長けた血筋で、手がけている総事業は国家レベルの規模だ。その才能を引き継ぐ一人娘は、何と引き換えても欲しいはず。


 なのに。


 なのにあの馬鹿王子は、婚約を結んだ後も、リディアに婚約者としての配慮を全くしない。

 嫌なら断れ。

 それができないなら、政略結婚相手に対して最低限の礼儀を払え。元々あまり良い評判を聞かない、ユーリ殿下との縁談は、断るつもりだったのだ。彼は見た目は美しいが、根性が曲がっている。


 ところが、どこが気に入ったのか、リディアはユーリ殿下に恋をして、何も見えなくなってしまった。

 顔が気に入ったのか? そう言えば、祖母君が付けた異国情緒のある名前が素敵とかも言っていたか。


 その後のユーリ殿下の邪険な扱いにも、全くめげない。あの根性はすごいと思う。我が娘ながらあっぱれだ。流石、私のリディア。


 いやいや、そうじゃない。

 だからこそ、ここで父親として、待ったをかけたんだ。リディアは泣くかもしれないが、いや、怒るか。それでもこれは譲れない。


 先日の謁見で、私は王に持ち掛けた。

 二人の婚約は一旦白紙にして、冷却期間を置き、ユーリ殿下にお気持ちの整理をしていただきたい。その結果次第では、ハント家は潔く(喜んで)身を引かせていただくつもりだと。


 つまりは、態度をはっきりさせろってことだ。


 王は渋々、その提案を受け入れた。

 流石にこの三年の二人の様子から、このまま進めるのは無理だと思ったのだろう。リディアが恋に目がくらんで、何も見えていないから婚約が継続しているだけなのだ。


 あの王子なら、白い結婚で三年待って離婚、とかの底意地の悪い事を、本気でやりそうだ。リディア有責にするために、多分その間に側妃を迎えて、そちらに子をもうけるだろう。

 グレイ侯爵家の令嬢が、次の王子妃かな。気分の悪い想像だが、概ね当っているはずだ。


 王もその辺を分かっているので、この話を飲んだ。卒業して落ち着いた辺りで、婚約の解消を発表しようと決まったのだ。王は離れた後に、ユーリ殿下の気分が変わることを、期待しているようだが、私の見立てではそれはない。


 あの殿下がリディアを嫌うのは、自分が貫禄負けするからだ。それが気に触って仕方がない小さい男が、いったん離れてみたって、気が変わったりするものか。


 ここ三年の憂いが晴れて、私は少し油断していたのだ。

 とにかく早く屋敷に戻ろう。そしてすぐに王宮に乗り込む。



 走り通して三日目に屋敷に着くと、すぐに執事が出迎えてくれた。

 いつもピシッとした身なりの執事の髪の毛が、少し乱れている。それはめったにない事だった。嫌な予感がした。


「リディアは今どうしている?」


「何度も王宮に尋ねていますが、いまだに返答がありません」


「どういうことなんだ」


 執事は黙ってうなだれている。


「クックを送ったのはロイだな。まずはロイに話を聞く。すぐに使いを出してくれ」


 ロイならば夜会にも出席していたのだし、一番詳しく話が聞けるだろう。

 執事は、その指示に対して頭を下げてから言った。


「伯爵様の執務室で、お話しさせていただきたい事がございます」


 嫌な予感が更に大きくなった。

 執務室に入り、土埃にまみれたジャケットを執事に預けた。


「伯爵様、ロイ様はクックを連れて、内密でリディア様のところに向かっております」


「どういうことだ。リディアは王宮に留められているのではないのか?」


「シリカ修道院に護送されているそうです」


 私は言葉をなくした。理解が追いつかない。一体何があったら、そんなことになるのだ。執事を責めるような目で、見てしまったようだ。彼は申し訳なさそうに下を向いた。


「すまない。なぜそんなことになった。ロイは何て言っていた」


「夜会の翌朝、リディア様はマリーを伴って、修道院に送られたそうです。ロイ様は馬で後を追い掛け、リディア様と相談した結果、到着を引き伸ばすことに決めたと仰いました。伯爵様が屋敷に戻ったら、すぐに伝えるようにと承りましたのが、夜会の翌々日の朝の事です。ところがその次の日の夜、再びロイ様が飛び込んでこられて、まずいことになった、今は何も言えないが、リディアに合流するから、クックを貸してくれと仰って、クックのケージを抱えて、飛び出して行かれました」


 時間稼ぎをする、という話まではわかる。シリカ修道院は一旦入ったら、1年間は絶対に出られないのだから。実はそれだけではないということも、私は知っている。

 あそこだけは駄目だ。


 しかし、もっとまずい事とは何だろう。嫌な予感で頭がパンクしそうだ。


 王宮に寄ってから出たほうがいいのか、このまま後を追ったほうがいいのか。

 迷ったが、リディアをあんな所に送った奴の顔など見たくないし、どうせ勿体つけて、ズルズルと待たされるだけだ。


 私は後を追う方を選んだ。


 一緒に連れてきた護衛たちは、疲れ切っているので、屋敷にいる騎士と交代させることにした。ただ、その内の三人は絶対に一緒に行くと譲らなかった。

 長く仕えてくれている者たちで、彼らもリディアが心配でたまらないのだ。



 そのまま修道院への道を、ひたすら駆けた。隣国から走り通しているので、疲労が半端ない。これもあのバカ王子のせいかと思うと、本気の殺意が沸いた。私は幾つかの暗殺計画を立てることで、疲れと焦りをごまかした。


 二日目の道中で、向かい側から駆けて来るロイを見つけた。


「ロイ、リディアはどこだ」


 大声で叫んだが、声が掠れて割れている。

 ロイが同じようにゼイゼイ言いながら、私の元に馬を寄せた。馬もだいぶ疲れていそうだ。最も私の馬だって、鼻息が荒くなっている。


「ハント伯爵様。リディアはシリカ修道院に向いました」


「なぜ止めない。いや、それより執事から聞いたが、何かまずいことが起こったそうだな」


「はい。最悪な話が王宮で持ち上がりました。説明しますから、1時間だけ休憩しませんか。少し戻ったところに小さい街があります」



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