もう一度お買い物
取り合えず、私は今日買って来たパジャマに着替えた。
もちろん、ノーブラ、ノーパンだ。
「ねぇ、幸穣君。お願いがあるのですが」
「……なに?」
「もう春とはいえ、床で、寝袋で寝るのって寒いんですよ。床の冷たさが体に沁みるって言いますか……ですから、ベッドに入れてくれませんか?」
「入れてくれませんね」
「即決ですか……でも、入れてくれないと、私凍死しちゃいます。何とか、先っちょ、先っちょだけでいいから入れさせて下さい」
「…………ノエル、その例えはどうなんだ? 全国のノエルファンが今消えたぞ」
「大丈夫。たとえ私のフォロワーが0人になっても、幸穣君だけが応援してくれれば、私は生きていけます」
「……フォロワー0人じゃ、俺もフォローしてない事になるけどな」
「細かい事は気にしないでください。ところで、本当に床は寒いのですよ。私をベッドに入れてくれませんか?」
「……あのな、このシングルベッドに二人で寝てみろ。お前との間隔は0になるぞ。そうなると、俺の未来はどうなる?」
「……え~っと、バラ色?」
「……そりゃぁ、お前の頭の中の話な」
「失礼な!」
「俺の未来は真っ暗だ。もし彼女にでもバレてみろ、俺は半殺しに遭うぞ!」
「……じゃぁ、その前に、私が彼女を全殺しに!」
「……これこれ、そんなサイコな事を言うモノでは無い。いつからヤンデレキャラになったんだ」
「そうでしたね。私は淫乱キャラでした」
「……あっ、……うん。それもどうかと思うけど……」
……やれやれ。幸穣君が、いつもの通り呆れてしまいました。
呆れ顔も可愛いものです。……って違う!
そうだ、そんな話をしている場合ではなかった。
私は重要な事。本日のメインイベントを思い出す。
バーン!
私は、幸穣君の前に立つと、ファッションショーの様に決めポーズを取って見せる。
「ねぇ、幸穣君。どうですか私のパジャマ姿」
「どうって? まぁ、普通のパジャマで助かったよ。ネグリジュ的なモノだったらどうしようかと思ってたが」
「えっ、ネグリジュだったら、どうするんですか? どうしてくれたんですか? なんなら今から着替えましょうか?」
「……どうせ買ってないくせに、俺の事をからかうな」
「ちなみに私、今ノーブラ、ノーパンなんですよ。私の温もり感じてみます?」
私は、熊が人を襲う様に、両手を上げてゆっくりと幸穣君に近づく。
「まて」
「何をですか? 何を待つのですか?」
「いっ、いまからしようとしている事だ」
「えぇぇぇええ? 私が、今から何をするんですか?」
「しっ、知らないが、まて!」
「ふっ……待てと言われて、待つ泥棒がいますか?」
「いゃいゃ、お前は泥棒じゃ無いだろう」
「何をおっしゃります。今から幸穣君の○○を盗むのですから、ある意味泥棒と言えますね。グフッ」
「なっ、何を盗むの気だ?」
「それは、盗まれてからのお楽しみですよ」
「いゃ、俺サプライズとか、あまり好きな方じゃなくて……な」
「……残念、タイムアップです」
私はベッドに座っている、幸穣君に飛びついた。
さぁ、私の柔らかさと温もりをくらって、理性を無くすがよい!
私は、幸穣君の顔に胸を押し付けた。……だがしかし……。
「ひっ、ひぃぃぃいいいい!! くすぐったい、くすぐったい!」
幸穣君が、私の脇腹をくすぐって来た。
「ふっ、そのまま俺を流れに乗せられると思うなよ!」
幸穣君のくすぐりは中々に強烈です。
上手い、上手すぎるぅぅぅ。
「あっ、うぅぅぅぅ」
しかも、只くすぐって来るだけじゃない。
脇腹を指で突いて来る。
くすぐられている訳でも無いのに、脇腹を突くのは反則的にくすぐったい。
「あぁぁああ、こ、幸穣君。ダメです、そんな所突いては、そんな奥まで突いてはぁぁああああ!! 激しい、激しすぎます! 壊れるぅぅぅうう、壊れちゃうからぁぁああああああ!!」
ゼィゼィ。やられてしまった。
「こ、幸穣君やりますね。今日の所は負けにしておきます」
「そうか、それはよかった」
「……ところで、ベッドには、寝かせてもらえるんですか?」
「いい訳ないだろう」
「じゃっ、じゃぁ、寝袋に入ったままってのはどうでしょう。床は、本当に冷たいんですよ」
幸穣君は少し考える。
「まぁ、寝袋に入ったままなら、まだいいか」
「ありがとうございます」
何とか私は、寒さから逃れて寝る術を手に入れた。
● ● ●
チュンチュン!
スズメが囀ずっていている。
どうやら、私は無事に朝を迎えられたらしい……。
「……おぃ、ノエル」
「あっ、おはようございます幸穣君」
「……おはようございますじゃねぇ。なんでお前は寝袋から出て、俺に引っ付いて居るんだ?」
「……ん? あぁ、暑かったからじゃ無いですか? やっぱり、寝袋の上から掛け布団は暑かったです」
「つまり……俺は、お前に騙されたわけだな?」
「いぇいぇ、違いますよ。私も無意識で寝袋をを剥いでしまったみたいでして。スミマセン」
こういう時は、しおらしくしてみる。
「……まぁ、それじゃぁ、しょうがないか……」
素直に聞いてくれて、助かります。
幸穣君は優しいですね。
「さて、幸穣君、朝食にしましょう。冷蔵庫借りますよ」
「……いゃ、冷蔵庫はいいが、ご飯作れるのか?」
「はぁぁ、私何年生きていると思っているのですか」
「……何年って、今年高校卒業したんだから、18年だろう? それとも、ダブったのか?」
……あっ! しまった。
「ソウデス。ジュウハチネンデス」
「……おぃ、なんでそんなにカタコトなんだ?」
「ギニジナイデグダザイ。アイ・アム・エイチーン!」
「……何がエイチーンだ。めちゃめちゃカタコトのクセに」
「じゃぁ……アイ・アム・エッチーン! ならどうですか?」
「うん……それなら、納得だ」
「やりました!」
「……何がやったんだか……って、なにを話していたのか、忘れちまったよ」
「ふっ、幸穣君。俺達、大事な何かを忘れちまったよ!」
「……ノエル、なんだ、その昭和の不良みたいなセリフは。……って。そういえば、ノエルって時々、婆臭いよな」
ぐさぁぁぁ。
「こっ、幸穣君、それは言ってはなりません。こんなピッチピッチの娘を捕まえて、それは無いのでは無いでしょうか?」
「ピッチピッチの娘って時点で、いつの時代の人間だよ! って疑問が残るが……」
ぐぎぎぃぃ。
「ジェネレート・ギャップがここに……」
「ジェネレート・ギャップって……差を生み出すって訳せばいいのか? そもそも、それを言うならば、ジェネレーション・ギャップだろう」
「そうそう、ジェラート・カップ」
「…………ノエル、お前、横文字弱いだろう」
「そっ、そんな事ねぇべした」
「……ふーん、じゃあ、ディズニーランドって言ってみ」
「バカにするな。デズニーランドくらい言える!」
「……言えてねぇよ。ティーシャツって言えるか?」
「テーシャツくらい言えるに決まっているべした」
「…………ダメダメだなぁ。」
くっ、幸穣君に私の弱みを握られてしまった。
しかし、私には、それを上回る秘訣がある。
それは物だ!
物で釣るしかない!
バーーーン!!
「さぁ、私が作った朝食を食べてみよ!」
おみおつけに、軽い煮物と焼き魚。
朝食の定番だ!
幸穣君が、私の作った朝食を、マジマジと見る。
「ノエル……おまえ、意外にも、料理が出来る子だったんだな……。でも分かっているよ。味が悪いとか謂うオチなんだろう」
「……ふっ」
私は髪をかきあげる。
「そのセリフは、料理を口にしてから言ってもらいたいな」
「……わかったよ」
そう言いながら幸穣君は、煮物を口に運ぶ。
「なっ、旨いぞこれ! もっとひどい味を想像していたのだが、ちゃんと料理だ」
「……失礼な」
ふっ……、女たるもの、男の胃袋を掴んでしまえば、勝利したも同然だ。
胃袋を鷲掴みにしてしまえば、私の独壇場よ。フフフ。
「ところで、幸穣君、そろそろお店が開くと思うのですが」
「そういえば、お前下着来てないんだったけかな」
「そうなんですよ。見て下さい。このポッチ。乳首が立っているの分かりますか?」
「いちいち見せんでいい」
「擦れると痛いんですよ」
「それも言わなくていい」
幸穣君が、照れ笑いをしています。
これで、幸穣君も、私から目が離せなくなったはず。フフフ。
「……ところでノエル。何処へ買い物に行くんだ?」
「ん~、昨日と同じでいいですよ」
「分かった。じゃぁ出かけるか」
そんな訳で、私達はアパートから出る準備を始めた。
ガチャリと扉を開けると、幸か不幸か、お隣のお姉さんも丁度部屋を出る所みたいで、バッタリと出くわした。
「あっ……その……こんにちは」
「こんにちは! 先日からこの部屋に、しばらく厄介になっている、ノエルと言います。よろしくお願いします」
「あっ、ノエルさんですね。……その……昨晩は随分と……激しくお盛んに……。奥までって、彼の大きいんですね……あっここ壁薄いんですよ。ですから、聞くつもりが無くても聞こえてしまうと言いますか、何と言うか……失礼します」
お隣さんは、赤面しながらアパートの階段を駆け降りて行った。
「……ノエル、今のなんだ?」
「あぁ、あれですか? 昨晩、幸穣君が私をくすぐったり、脇腹つついたりしたじゃないですか。それを言葉だけ聞いて、私の穴に、幸穣君のキュウリでも刺していると勘違いしたのでしょう」
「……そいうえば、お前、昨日へんな声上げていたっけかな。奥までとか、もうダメとか……まぁ、俺にも責任があるから強くは言わないが……自重するとしよう」
「そうですね。お隣のお姉さん、顔真っ赤でしたものね。なんなら、彼女も混ぜて3Pにすれば問題は無くなる、ブベェ」
幸穣君のチョップが脳天に突き刺さる。
「お前はチョット隙を見せれば、すぐに下ネタだからな」
「いてて、そんな事ないですよ。まっ、取り合えず買い物に行きましょうよ」
こうして私達は、再びアレオへと買い物に出かけるのだった。