第六話『魔女、進級する』
『あさきサンサンようちえん、わかれのことば。』
『きょう、さんがつ はつか もくようびに、
ぼくたち、わたしたちは、あさきようちえんをそつえんします。』
『きょうという このひまで、
みんなでいっしょに、いっぱいあそんでこれて......』
『おやまにすなば、おうたやだんすをいっしょにやってこれて、
ほんとうに、たのしかったです。』
『もうあえないのがさみしいけれど、
ぼくたち、わたしたちは、
いつまでも こころのなかでつながっています。』
『この、あさきサンサンようちえんのえんじだったことを、
ほこりにもって、
こころのなかに、つよくいだいて、
このさきのじんせいを、あゆんでいこうとおもいます───!』
「「「「「 はーるのー、うらーらーの───」」」」」
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「わぁーぁぁあっ......!?!!
めありちゃん、今までありがとうっ!!!!
でも、わたしたち、ずっと一緒だよ!?はなればなれになっても、ずっとずっといっしょだからねっ!」
「そうだよっ......!そうなんだからねっ!!!
ぜったい、あたちたちのことわすれちゃダメだよ!?こんどは、すなのおしろ作りでも負けないからっ!!!」
「そうですッ......!我ら、大魔女メアリー親衛隊一同はどこに行ってもメアリ様の配下ですので!
ですから、何時でも、いつでも呼び出して頂ければ、不肖この私も馳せ参じますのでッ......!
これからも何卒、よろしくお願い致します......!!!」
春の訪れを報せる、風の音。
力の強い季節風がガラス張りの扉を叩く。
そんな、三月二十日木曜日の、とある昼下がりの事だった。
───あさき幼稚園年長組、うさぎさんクラス。
その、正式名称を"あさきサンサン幼稚園"と呼ばれる事になっている、太陽マークのワッペンが特徴的な幼稚園の制服を着た園児たちが、感極まった様子で口々に泣いている。
特に、砂場で闘った三人衆。
つい一ヶ月前、あさき ゆめか による命令で私と決闘を行った彼らは、私に追い縋りながらも"めありめあり"と私の名前を繰り返し呟いており。
うさぎさんクラスの中心にいる一人の大魔女に向けて、迫るように駆け寄って目を泣き腫らし鼻垂れていたのだった。
私はそんな彼らを見つめて、静かに頷いて。
ゆっくりと顔を上げて、周囲を見渡し。
そして、少しだけ。
───少しだけ、軽く笑ってから、口を開く。
「......みんな。
今日まで、私に着いてきてくれて有難う。私、初めてここに来た時は、あまり馴染めないと思ってた。
でも、みんなと本気でぶつかってみて、本音で語り合ってみて、分かった事があるの。
みんなが、私に全力で挑んできてくれたからこそ、分かったことがあった。」
───思い出されるのは、砂場で行った決闘の数々だ。
縄跳び、平均台、お絵描き、ダンス、カバディにセパタクロー......。
同じクラスにいる子供たちから、別のクラスにいる生意気だった要注意園児の合田君まで。
......私は、これまでの1ヶ月間。
等しく打ち負かしてきた園児たちの顔を思い出して、思わずほっと息を吐いて胸を撫でる。
「それは、みんながみんな決闘を申し込んでくれて。
私のことを打ち負かされても構わないぐらい大切に思ってくれていて、慕ってくれているということ。
貴方たちが、心から私のことを信頼して、着いてきてくれているということが、私にはわかった。」
───めあり......!
───めありん......!!!
「───だから。
だからこそ、これからは、みんな道は別れちゃうけれど。
それでも、私は"大魔女"として。
皆のことを心の中で導いていきたいと思ってる。
離れ離れになっても、どれだけ遠くに離れても、心の中では何時でも会えるような。
立派な立派な魔女になりたいと、私は思ってるから。」
───めありちゃんっ......!
───メアリ様......ッ!!!
「───だから、皆も。
これからも、腐らず立ち止まらず、"魔女の卵"として精いっぱい頑張って欲しいと思うわ。
私の教えた、"大魔女になる卵達"としての生き方をしっかりと心に刻んで......
───誠心誠意、心から輝いているような、立派な魔女になって欲しいと思っているわっ!」
───わぁぁぁぁあああああああああああ!!!!!
「皆、これからもきちんと研鑽を積んでッ......!
私のような立派な大魔女になれるよう、頑張っていって頂戴ね───!!!」
───うおおおおお、めありちゃーん!!!!!
───めありさまーーーーーーーー!!!!!
教室の中に湧き上がる歓声。
拍手喝采の音と、園児たちの立ち上がる鬨の声。
私は、そんな歓声を向けてくれる"大魔女メアリー親衛隊"のみんなに答えるようにして、軽く手を振り目元に浮かんでいた雫を拭いとった。
あぁ、なんと感動的なお別れ会なのだろう。
わらわらと集まってくる園児たちの涙。
私はそれに答えるようにして、みんなの頭を撫でながらそう湧き上がる感傷に浸っていた。
「うーん、そっか......。
うん。確かに感動のお別れだね......?」
そして、そんな大歓声の中。
"うさぎさんクラス"の黒いテーブル側......
"ピアノ"という、謎の馬鹿でか楽器の席に座っていた、
ヒトミ先生が困ったように頬を掻きながら私たちを見つめて独り言を呟いてから。
───めあり、めありちゃんッ......!
───絶対わすれないからっ!!!いつまでも、一緒だからっ!!
───うぉあああ!!!めありん、めありん最高!!!!卒業しても応援するよぉおおおぁ!!!???
「有難う、皆!ありがとぉおーーー!!!!」
この約1ヶ月間という、私が幼稚園に通うようになってから過ごした長くて短い期間。
同じ魔女の見習いとして共に過ごしてきたことに対する情か、はたまた、この静粛な場の空気に呑まれてしまったのかは分からないが。
最高潮に盛り上がり、うさぎさんクラスの園児たちとボルテージを高め始めていた"大魔女"を見て。
ヒトミは再度、困ったように笑ってから、呟いた。
「......うん、でもね?
これ"めありちゃんとのお別れ式"じゃなくて、あさき幼稚園みんなの卒園式だからねー???」
「他の子の親御さんたちも見に来てるからね皆???
そんな、あんまりにも一人に力を注いで祝っちゃうと、ちょっと先生気まずいしやめて貰えると助かるんだけどね??
"卒園児"の皆さんやーい......?」
そう呟いて、何処か所在なさげな手を軽く振りながら───とりあえず、私たちを止めようと歩き出したのだった。
そうして、
そんな大歓声と困惑の中。
私たちは、今日。
三月二十日の木曜の日に、
この幼い魔女の育成機関を無事に卒園したのだ。
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という訳で、私がこの日本という世界に転生してから、約1ヶ月の時が経った。
季節の頃は2月から3月中旬へ移り変わり、街の街路樹にちらほらと花が咲き始めた頃......
私は、兼ねてより通っていた魔女教育機関を卒業、いや卒園?することになったのだった。
うん、そうなのだ。
どうやら私は進級するらしい。
「ふむ......じゃあ、めありちゃんは歴史に名の残るような偉大な人になる為に、この"アサキ小学校"に通いたいって思ったのかな?」
「はい!わたしは以前通っていた"あさきさんさん幼稚園"でさまざまなことを学びました!
まわりの魔女見習いの子たちと競い合って、争い戦い抜いて研鑽を重ねてきた自信があります!」
「うんうん、なるほどなるほど......。
で、それでなんだけど、以前から身体の調子は───」
「───はいッ!!!!
私、あさき幼稚園では他の魔女の皆を纏めあげて、その頂点に立てるよう必死に務めトップを目指しましたし、実際に全員倒して配下にしました!!!なので腕には自信があります!!!!
一端の魔女として他の子には絶対に負けませんッ!他にも、魔術が幾つか使えて───!!!」
「あの、いやだから。
入学の意気込みではなく、君の体調は......?」
なんでも、幼い魔女の教育機関である"幼稚園"から、少しだけ高等な勉強を学びに行く"小学校"へ。
より専門的な知識を身に付けるために、私たち"幼稚園児"というクラスに所属する子供たちは六歳を越えると自然と街に幾つかある育成施設へその身を移すことになっているそうだ。
まぁ、所謂キャリアアップという奴である。
しかし、それもまぁ当然だろう。
───幼稚園内での成績はいつもトップ。
なわとびもかけっこも、お歌やダンスでさえも、私の右に出るものはいなかったし、算術や造詣、覚えて間もない"ニホンゴ"の文法すら私がトップで卒園を果たしたのだ。
そう、元大魔女であるこの私が、他の子同様にキャリアアップしない道理がないのであった。
というか全員ボコボコにしたし。
幼稚園にいた子供たち全て打ち負かして、実際に私が頂点に君臨した訳だしね?
という訳で、その小学校の入学に際して。
なんか"小学校入学前検診のさいけんさ?"という、謎の適性診断的なやつが執り行われたんだけども───
『再検査の結果、異常なしと判断します。
受け答え、呼吸器、循環器、消化器、全て異常なし......』
「うわー!やったよレミさん、めありー!
学校に通うのも問題ないってさ!全くもって健康そのものだって!」
「えぇ、そうね純一郎さん?
めありが元気になってくれて、本当に良かったわ......!」
当然、進級確定である。
なんでも、以前 "健康面で引っかかった項目"?が全て異常なしになっていて、受診を受け持った先生に逆に驚かれてしまったらしい。
「日誌に書いてあった瞳先生からの言葉にも、再検査の先生からのメッセージにも、
『少々夢見がちですが、入園時とは見違えるぐらい元気になっていて、元気に園内を駆け回る姿が最近では見受けられて......』
って書いてあったし......。
もう、めありは普通に通っても大丈夫だと思うって。本当に良かった......。」
───曰く、人が変わったようだと。
───私の内側の全てが、なんなら化け物のように強靭になっている、と。
......まぁ、実際中身は変わっているので。
それは仕方のないことかもしれないけれども。しかし、内側が全部化け物って。なんか複雑である。もう少し表現方法あっただろ普通に。
......でも、まぁそれはもういいのだ。
退院後の一ヶ月ぶりに久々にじゅしん?することになった、
あさき病院の私のシュジイ?である"クロブチメガネ"の『ヒガシ先生』からは、
「え?なんかいつの間にか凄い内臓機能発達して......。
あ、いや、以前見た時に比べてとてつもなく健康になってないですか、めありちゃん......???」
......って、引き気味に言われて、挙句の果てには興奮気味に"奇跡だ何だと"もてはやされたけども。
腕に針とか刺されてクソ痛かったけども、でも、それは私の知ったことではなかったのだ。
そんな事よりも、私が目下問題視しているのは。
唯一、ただ一つの問題だけだった。
この世界がどこなのかとか。
私の体が今どうなっているのかとか。
私がこの世界で魔女としてどう有名になるかとか、そんな事よりも、だ。
そんな事よりも重要なことが、
いまの私の身には降り掛かっていた。
それは───
「はい、じゃあめあり。
新入生代表あいさつ、どうぞ!」
「ん、あー......。
えーと、私たちは、これから、このはるのうららかな......」
「あーめあり、ちがうちがう!
そこ始まりが逆になってるって!!」
「え?どこ?わたし、どこ間違ってた......?」
「えーと......合ってるのは、
"わたしたちはこのはるのうららかな日に、入学できたことを嬉しく思い───、これから新しい学び舎で......"で、前後逆になってたぞめありのやつ!!!」
......なんか、"小学校入学式"の"新入生代表挨拶"とやらを任されてしまったのです。
うん。なんか同年代の中で一番成績優秀とかで、私が選ばれてしまったらしいです。
これは困りました。
正直、めちゃくちゃ困ってる。
だって、私たくさんの人前で話すことなんて、大魔女時代からあまり無かったことですから。
結構ド田舎に居たせいで、魔女同士での研究発表会とかもあんまりなかったし、こういう機会に立ち会ったこと自体がまず無いのだ。
それに......。
「はぁ......、ほんと無理......。
台の上で、大勢の大衆の前で喋るとか......マジアリエナイ......。」
───それに、大勢の前で代表して喋るって、私の"魂"に眠る"トラウマ"が刺激されるのよ。
「おまえ、そんなのでほんとに大丈夫かよ......?
なんで人前でしゃべるの苦手なのに、代表挨拶とか受けちゃったんだ......?アホなのか???」
おい、誰がアホだ。誰が。
ピュアノブ、少なくともお前よりはアホじゃないという自負が私にはあるんだけど???
隣でやれやれとため息を吐いているピュアノブをじとっとした目で見つめながら、考える。
......でも、まぁ実際?
少しだけ、ほんの少しだけだけど。
こうやって何も考えずに安請け合いしちゃったのは、ミスだったかもなとは思ってはいたのだ。
───だって、大衆の前で口を開けば、思い出してしまうから。
あの、亡き故郷、というか私が物理的に亡きになった故郷である、トゥーレーヌの風景を。
魔女狩りによって死んだ、
私にとって苦々しい歴史となったひと夏の思い出を。
......此方を嫌悪感満載の瞳で見つめる、
石を投げつけてくる大衆の目線とか、嘲笑とかが鮮明にフラッシュバックして耳に響いてくるのである。
それで、自然に頭の中が真っ白になって、
脳みそが固まるというかなんというか、足が竦んで動かなくなるというか、体が震えてしまうというかなんというか......。
───とにかく、私にとっては大問題なんです。
えぇ、ほんとそれはもう。
私よりも圧倒的に格下であるピュアノブに頼み込んで手伝って貰うぐらいには、壮絶で困難な問題なのでした。
......うん。屈辱です。普通に。
でも、もうそんなことも言ってられないのです。
「いや、もう、ほんともう......。
私の、大魔女的なトラウマが刺激されて......もう、考えるだけで今から吐き気が......うっぷ......?!」
だって、これは世界中の魔女教育機関から集められた、優秀な魔女の卵たちの前で、その代表として挨拶するという命運をかけた───。
私の、"あさひめめあり"こと大魔女メアリーとしての、魔女人生を賭けた代表挨拶であるのですから。
......私も、何がなんでも成功させるという心持ちで、意気込んでしまうのも無理はないというものなのでした。
「う、ぐぅあぁあぁ......。
あ、あ、もう無理、ほんと無理......死にそう......。」
......ですが、それとこれとは話が違うのです。
「お、おい?めあり?
お前ほんとに大丈夫かって───あっ!?!」
だって、嫌なものは嫌なのです。
「な、なんか......!
めありの口から白いヤツがっっ?!......!??
なんか、たましい的な霊魂的な何かが飛び出して、空の彼方へ羽ばたこうとしているっ!?
おい、おいめあり!?ダメだって!?そっちはまだ早いっておれたちにはぁっ!??!」
......人間誰だって、相容れないものの一つや二つ、抱えているものなのですから。
という訳で、私は小学校に入学するまでの、空白の準備期間である一ヶ月間を。
毎日のように自分家の庭に集まって、ヒデノブと共に与えられた原稿用紙を必死に覚えて音読するという練習を続けていたのでした。
「あ、あ......。
命系統のかみさまがみえる......。
え?またてんせいですか......?つぎは異世界転せ......え?なにそれ???」
「うおぁぁあ!?め、めありーーー!???
そっちはダメだって!?おまえそれ世界観違うって!?帰ってこぉぉぉおぁいッ!??」
そう、それはもう、ずぅっと。
「あ、もうムリ......心臓、飛び出───」
「め、めありィィィィィィいいいいいい───!??」
おきてから、寝るまで、ずうっーと。
ひでのぶと一緒に、練習を続けていたのでした。
......そして、そんな風にして。
私たちの入学前準備期間と言われる、短い一ヶ月分の刻は過ぎていきました。
そして、ついに、小学校に入るための儀式が執り行われる日......私たち魔女の卵たちが人所に集められる、"入学式"とやらの当日がやってきたのでした。
「ふぅ......緊張する......。」
壇上の横。
赤い幕で仕切られているたいいくかん?のサイドの入口から、中を覗いてみる。
すると、中には沢山の見知らぬ子供たちが集まっていて、ざわざわと周囲を見渡していたりしました。
───緊張半分、高揚半分、あとは恐怖が少しばかりって感じかな。
練習した所が完璧にできるか、皆に後ろ指でも刺されないか不安で不安で不安すぎて......
心がグサグサと何かで刺されている音がする。
というか多分木の杭とかで心臓刺されてる。それもデカめのヤツで。村の外壁とか覆う感じの大きめやつで。
それで、滅多刺しにされてるぐらいには、心臓がバクバクと高なっているのを感じてしまうのだった。
「はい、めありちゃん。
もうすぐ入場してその後挨拶だから、準備しておいてね?」
「あ、はい了解です......!
えっと、こうちょうせんせい?のお話が終わったあとに、わたしの挨拶があるんですよね。その時に、前に出て......?」
しかし───
「め、めあり、だ、だだっ、大丈夫だよ......?!
僕も、保護者席でみ、見守ってるから......!お、おおおお思いっきり、みんなに覚えたとおりに挨拶してくるんだよっ......!???」
「......あ、うん。純一郎も舌噛まないように気をつけてね......?主にわたしの挨拶の最中とか......。」
「はいはい、純一郎さんもう行きましょうねー。
めありも準備することがあるからねー、私たちができることはもうないのよー?」
「で、でもだってッ......!
めありが緊張してて、僕、心配でっ!!!」
「......だからね、めありなら大丈夫だから。
私たち、たくさん練習してるのを見てるんだから。私たちが心配することなんて何一つないのよー?」
......そう言って、にこりと笑って。
純一郎を引きずっていくレミさんを見て。
「はははっ......。なんか、うん。
少し緊張するけど、まぁ、頑張ろうかなっ!」
私は、真新しい黒の制服に身を包んで。
その、外に舞い散る"サクラ"とやらの花びらを模した、胸元にあるピンク色の花を軽く揺らして。
今日という、春の麗らかな日差しが差し込んでやまない、四月十日の朝の頃に。
新たな生活を告げる、新たな学校の制服に身を包んで、少しだけ気分を高揚させながら。
『新入生代表挨拶。一年一組、あさひめめあり。
わたしたちはこの春のうららかな日に、あさき小学校へと入学できたことを嬉しく思います───。
これから新しい学び舎で、新しい学友たちと、
せっさたくまし、わらいあい、競い合いながら、自らの夢に向かって突き進んで行けるように。
一生懸命努力できるよう、これから頑張りたいと思っています。』
そして、壇上でいつかの夏の日に見たような景色を見ながら。
私は、さっきのレミさんみたいに。
少しだけにこりと笑って。
『───そう。
この世界で、一人前の"大魔女"になれる様に、私は必死になって努力していこうと思います。』
『新入生代表。
あさき小学校一年一組、あさひめめあり。』
その、心の内に篭もる、
何か暖かな感情を味わいながら。
───晴れて、この春。
私は、この世界で初めて"小学生"という身分に繰り上がり、魔女としての大きな第一歩を果たしたのでした。
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......あ、あと、入学といえばですが。
ちなみにピュアノブも私と一緒の学校に通うことになったらしいですよ?
なんか、本人は地区的に一番近い学校だからとか何とか私に対して言っていましたが......
私の両親、特にレミさんから盗み聞きした話によると、私がどこにするか決めたのを聞いて決めたとかうんぬん。
───そう、庭でピュアノブの両親に話をされたと、レミさまが嬉しそうにあらあらと微笑みながら話していたのを聞きました。
そして、それを聞いてなぜか血涙を流して悔しがっている純一郎を宥めている様子を、私はいつかの食卓でひっそりと?盗み見ていたのでした。
......まぁ、しかし、
それは私にはあまり関係がない情報なので。
私は話を早々に聞き流して、テーブルの上にあがっていた天ぷらとカレーをミックスして最強のディナーを作り食べていたのですが。
「ふふっ......美味しいな、天ぷらカレー。」
だから、その日のカレーがいつもよりもいっそう美味しい気がしたのは、多分そのせいだと思うのです。
私の鼓動が、少しだけ高鳴った気がしたのも。
胸と耳元がほっと熱くなる感覚も。
ぜんぶぜんぶ.......私の気のせいだったのだと、思うことにしたのでした。
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・レポート③
死の間際に際する、"魔女の肉体変化"について。
魔女、共に神の信仰者に類する者は、生命の危機に直面するとその肉体が変異することがあるらしい。
それが、魔女の魂の感情に起因するものなのか、はたまた生物としての肉体に刻まれた生存本能に起因するものなのかは定かではないが、
しかし、歴史に名を残す"大魔女達"は、往々にしてその肉体変化を経験しているという事柄が調べていく中で明らかとなっている。
その変質の内容は、"死の原因"によって様々である。
例えば、火炙りによって死にかけた魔女であれば"熱への耐性"。
例えば、銀の弾丸によって死にかけた魔女であれば"皮膚の硬質化"。
例えば、溺死によって死にかけた魔女であれば"水中での呼吸器官、エラの発生"等々......本当に様々な肉体変化が見られたらしい。
そして、そのような肉体変化を経験した魔女たちは。
大抵の場合において、人間たちの手によって殺されている。
その理由としては単純で、大抵の場合、彼女たちが何処かしらの点で"人間性の喪失"をしているからに他ならない。
───曰く、"悪魔の子"。
若しくは、当時の資料によれば"異端者"となった人間を許容するほど、我々の住む人間社会は多様性を受け入れる度量など存在していなかったのである。
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