第五話『魔女、ガキ大将になる』
・修正情報
以下の修正が入りました。
→秀信くんのIQが低下しました。
それに伴い、一人称が"俺"から"おれ"に変更されました。
→四話の朝の描写を省きました。
それに伴い、旭芽夫妻のイチャイチャ描写、ご飯美味しかった描写が抹消されました。
その他にも、ストーリーには関係ないですが読みやすい様に少しだけ手直ししている箇所が幾つかあるので、ご容赦頂けると幸いです。
以上、修正情報でした......!
「おい、たなか、しってるか?
きょう、うさぎさんくらすでけっとう?があるんだって!みにいこうぜっ!!!」
積み木で作った壁のなか。
おれの周囲を囲んでる兵隊たちを蹴散らして、イケダのやつが走り駆け寄ってきた。
「......なんだよ、けっとうって?
おれ、幼稚園でそんなことやるやつ、聞いたことないぞ?」
「そりゃー、けっとうはけっとうだよ!
えんのすなばでガチバトルすんだってよ!!!やべぇよなっ!」
躊躇なく蹴散らされたタワー兵たち。
イケダ......《イケダ イッペイ》に倒されたその亡き骸を直しながら、おれは半信半疑で問いかける。
───まえに、イケダに誘われて"おうごんのかぶとむし"を捕まえにいった時も、あやうく"おううさんみゃく"?に連れていかれて遭難しそうになったしな。
イケダは所々で考え無しな所があるから油断禁物だ。こいつの話をいちいち真に受けてたら、きっといつかおれは死んでしまうだろうと思うのだ。
だから、そんなイケダのことを少しじとっとした目で見つめて、おれははぁとため息を吐き、楽しそうな様子のイケダに向けて質問してみた。
「それって、ほんとうにほんとのはなしなのか? うさぎさんくらすのやつらが、ウソついてるわけじゃなく?」
「......いや、わかんねーけどよ!
でも、なんでもあのうさぎさんくらすの女王さまが、自分から勝負しかけたらしいんだぜっ!すごくね!?」
へぇ......あの噂に聞く女王さまが、自分から喧嘩しにいったのか。それは確かに珍しいなぁ。
おれはイケダの話を聞いて、少しだけ興味を惹かれ考える。
たしか、うさぎさんクラスの女王さまって言ったら、
赤い目で黒い髪をふたつ結び......ついんてーる?にした《あさき ゆめか》のことだったと思う。
なんでも、うさぎさんクラスにいる半分以上の子供たちをその手中におさめていて、"あさき幼稚園クラス対抗学芸会"では負け無し......。
そのかりすま的な統率力を持ちいて、うさぎさんクラスを完璧に統率して毎年勝利に導いている女王であるらしい。
あとは、いえがおかねもち?だとか、ようちえんのぱとろん?だとか、おれと同じクラスの子のお母さん達が話していたのを聞いたことがある。
まぁ、とにかく凄いんだろう。
どういう意味かはわかんないけど。
「だからさぁ、たなか〜!
もうすぐ女王さまのけっとうが始まるらしいからさ!ソレみにいこうぜ?楽しそうだしさぁ〜!!!」
すると、女王さまのことを思い出して、一人納得していたおれに、キラキラとした目でそう追い縋ってくるイケダ。
だからおれはそんなイケダに対して、しょうがないなと思いながら、かるくため息を吐いたあと......
「まぁ、それならおれも気になるし......。
じゆうじかんだから、べつに見に行ってもいいけどさ......?」
「けど、そのけっとうの相手はだれなんだよ?
結局、うさぎさんくらすの誰が、あの女王さまを怒らせたっていうんだ?」
───女王さまがこわいのは、うさぎさんクラスの奴らが一番知ってるだろうに。
だから、話を聞いた時からずっと気になっていたことを問い質すようにして、イケダにそう質問したのだ。
「え?たしか───」
......すると。
そんなおれの言葉にイケダは───
「......たしか、めありだったかな?
あの、たまにようちえんにくるちんまいかんじの......」
......おれが予想だにしてなかった、驚きのなまえを呟いてきたので。おれは思わず口をあけて、数秒かたまって。
「????は????めあり......は?????」
───驚きのひょうじょうで、その脳天気な顔をしたイケダの目を見つめるしかなかったのだった。
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「......えっと、どうしてこうなったの???」
幼稚園の敷地内にある砂の大地。
魔法訓練用の僻地環境を挟んで、向こう側。
そこに居る、気の強そうな赤つり目をした黒髪二つ結びの少女を中心にして、私の目の前に立ちはだかっている数人の子供たちを思わず眺める。
手には、幾つもの武器を持っており、
ジャベリンを短くして穂先を平たく曲げたような片手武器と、鉤爪型のポップな"栄光の手"......
最近、魔女界隈で密かに流行り始めていた屍蝋の魔道具みたいな形の武器を持った子供たちが、私に対抗するかのようにそれらを握り締めて此方を睨んでいるのである。
そして、彼女たちは言うのだ。
「いいわね、ばかめありっ!!!
私たちが勝ったらアンタは私の配下っ!負けたら私たちはアンタの配下よ!!!!分かったかしら!???」
彼女を中心に私と対峙している数人の子供たちの中には、朝、幼稚園の入口で見たガラス窓の向こうにいた子供たちの姿が多数存在している。
きっと、朝のあの段階から作戦を練られていたのだろう。という訳で私はまんまと罠にハマり、こうして決闘する為に外に連れ出されてしまったのだ。
───しかし、流儀に則った個々人での決闘は......
まぁ、私の国では昔からある事だし別にいいとしても、だ。
「えっと、なんで配下なの?
理由が理由だと私も少々受け入れづらいっていうか......?」
......それにしても配下はないでしょ。配下は。
こんな不当な要求を賭けに使った決闘なんて、民衆、そして貴族様方から認められる筈がないのである。
私、こんな不当な決闘で、周囲から罵倒されたくはない。もう少し明日を生きていたい。
だから、そう思って私は。
赤目の女の子に軽く言葉を返してみるのですが───
「はぁ?!!
そんなの、アンタが私を無視したから、そのお返しよ!??
分かった!??アンタに"きょひけん"はないのよッ!!"きょひけん"はね!!!!」
うん、話を聞く耳がないね?
ていうか、あの様子からみるに、きっと拒否権って言いたいだけなんだろうなぁ。
そんなことを思いながら、私は赤目の少女を観察する。
「あさきちゃんすごい!
きょひけん?ってなに!?かっこいい!!」
「ふ、ふん!それほどでもないわ!?
きょひけんっていうのはね......えーと、あなたもおとなになれば意味がわかるわよっ!!たぶん!!!」
傍らの子供たちに持て囃されて、思わず口元がにやにやし始めている少女。彼女はあさきゆめかだ。
この"うさぎさんクラス"?を取り纏める、総大将のような存在であるらしい。
......さっき、砂場の決戦場に行く前に、ピュアノブのやつが教えてくれたのだ。
なんでも、クラス同士の戦争で自軍の戦士たちを率いて勝利に導いた名将とか、栄えた商家の出自で、パトロン、たぶん魔女の育成にお金を払っている名家の両親がいるのだとか。
そんな感じのことを、ピュアノブが焦ったように私をとっ捕まえて話してくれたから、それだけ知ってここまで来れたのだった。
───しかし、確かに名家のお嬢様というのは間違いじゃないんだろう。確かに、一目見ただけで分かるほど、体内魔力の高そうな赤目の瞳の子だった。
......魔女として少し心惹かれるぐらいには、綺麗な血色の瞳だ。
きっと将来は優秀な魔女になるんだろうな。と思える、力強い瞳の色をした女の子だったのだ。
「......。」
しかし、その生意気そうな発言と少々喧嘩っ早い行動の数々は、少し問題になるかもしれないとは思う。
───なんたって、魔女社会は人々の悪意の巣窟だ。
人のやっかみ、しがらみが着いて回る魔女社会において、この強気で生意気な性格は壊れかけた危ない橋を渡るようなものだろう。
まぁ、私も処刑された身ではあるし、大概何も言えないけど。
しかしこの子も相当大概である。
だってまさか───
「......話を無視されたと思って私を突き飛ばした挙句、
ヒトミ先生に怒られて、泣いて、私に逆ギレして今に至るんだもんね......?
なんともまぁ危ういというか......、なんというか......。」
まぁ、ろくな人生を送りそうにない。
私を突き飛ばしたせいでヒトミに怒られて逆ギレ→手下の子供たちと私を取り囲んで見せしめ集団決闘会開催である。
もしかしたらそれも計画のうちなのかもしれないけど、それにしてもお粗末な有り様だ。
ヒトミに怒られてる赤目の少女、ちょっと可哀想なぐらい泣いてたし。ガチ泣きでこっち睨んでたし。
「さぁ、めありっ!
あなたと私、どっちがつよくてかしこいか!!!それをきめる決闘をするのよ!!!今からねッ!!!!!」
そして、そんな姿を晒したあとで、こんな事を自信満々に宣っているのだ。うん、明らかに度が過ぎた馬鹿だ。馬鹿すぎる。
どうやったらこんなにも自己顕示欲の塊みたいな性格になってしまうんだろうか。謎だった。
───いや。まぁ、でも。
よくよく周りを見てみれば、この子がこの年でこうなってしまったのも......必然といえば必然なのかもね?
「ひゅー、あさきさんかっこいー!こっち向いてー?!」
「あさきちゃんがんばってー!!!だいすきー!!!」
「あさりんてんさーい!ア、イ、シ、テ、ルー!!!!」
「え、えへへ?そうかしら?
私、そんなにかっこいいかな───?」
「......うん、この年でここまで周りに持て囃されてたら、こうもなるかもしれないわね。ここまでいくと逆に可哀想かも。」
そう、人との関わりあいを学ぶ、このぐらいの年頃のコミュニケーションが全てこんな感じの持ち上げだったら、どんな人間でも傲慢になるというものだ。
「......ふ、ふふふ!そう、私は天才、天才だからね!!!
まぁ、バカめありじゃ私に勝てないだろうけど?私の配下の手下達にも勝てないだろうけど!
私は優しいから、あなたがすぐ負けを認められるように、一人ずつ順番にしょうぶしてあげるわよ?感謝しなさいよねっ?」
「ひゅー!あさきちゃんかっこいいーーー!!!!!」
だから誰かがこの可哀想な女の子のことを、間違っていると正してあげないといけないのだろう。
私は一人の淑女としてそう思うのだ。
───そして。
それは彼女の先輩魔女である、私の使命なのかもしれなかった。
「ふぅ......。うん、オーケー。分かった分かった。
何も言わなくても大丈夫だから。安心してよ、あさきちゃん?」
......いや。というか、普通に煽られてイラッときたので。
蔑称つきの名前で呼ばれて、私のことを下に見てる態度を見て、ちょっと普通に頭に血が昇って来ていたので。
「さぁ、勝負よバカめあり───!!!」
「うん。とりあえず捻るね?蛇口みたいに。」
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───という訳で。
一旦、全員ボッコボコにしてみた。
「ぐえぇ!?つ、つよいよぉッ!げほァッ!??」
一戦目、最初の決闘相手は体格のいい男の子だった。
そして競技は縄跳びなる運動系種目。うん、分かり易く最初から負かしに来ている。だから、私も遠慮なく全力でいかせてもらうことに。
つまり、【身体強化魔法】+【感覚強化魔法】の重ね掛けである。
今日幼稚園に来る時に使っていた、感覚を強化する魔法と身体能力を引き上げる魔法を使って、それはもう悲惨なぐらいボコボコにしてみた。
「にひゃくじゅういち、にひゃくじゅうに......」
「ひ、ひえぇ......!?まだつづけるのぉっ......!??」
男の子泣いてた。
青ざめた顔で穴という穴から汗を吹き出して泣いていた。
「きゃあああッ!?
こ、このあたちがまけるなんてッ!?ありえな───」
そして次。相手は小柄な女の子だった。
なんでも、その子は砂のお城を作るのが得意らしく、制限時間十分の間にどれだけ大きくて綺麗なお城を作れるかの勝負だった。
なので、私は【土塊を作る魔術】......主に井戸を掘ったりとか、土嚢を作ったりとかする初級魔術でバカでかい城を作り上げて、自信満々だった女の子の顔面を驚愕と憎しみの色に染めあげてみたのだ。
「こんな、こんなことってッ......!
めあり、ぜったいゆるざなッ......!?」
......いや、ごめんって。
申し訳ないけど、実は私これが一番得意だから。
【土塊を作る魔術】、村の環境改善の為に一生使い込んでたから。この魔術の操作だけならばどんな大魔女にも負けない自信があるのよ。私。
「ぐべらっ!??」「グハァッ!???」「つ、つよっ!??」「やめて!私のライフはもうゼロよっ!??」「ぐぁぁぁぁあッッッッ!????」
という訳で、私はやってくる赤目の少女の手下を次々と打ち負かして、打ち負かして打ち負かして......
そして、最後の最後まで負け無しで勝ち進み......。
───当然、最後に出てくるのはこの子なのである。
「ふ、ふん!中々やるじゃないバカめあり!でも、わたしには勝てないわよ!!!なんたってわたしは天才だからね!!!」
"あさきゆめか"ちゃん。
私の事を無限にコケにした呼び方をしてくる赤目の少女である。
うん、つまり大将対決だ。
まぁ私の方はずっと一人勝ち抜き戦なんだけど。
不条理ではあるけど、仕方ないだろう。
だって───
「どっちかといえば、貴方たちのほうが不条理に挑んでるんだものね。人生始めての決闘相手が"大魔女"だなんて、正直、可哀想だとは思うよ。」
そう、私は魔女だ。
魔女狩りによって処刑されて死んだ、大魔女メアリー。
「大魔女......?なにそれ、知らないわっ!でも、あなたが幾ら強くても、わたしには絶対に勝てないのよっ?!
なんたって私は、運動も頭脳もめいせきだから!!!だって私、てんさいだし───」
「......まぁ、なんでもいいけどさ。早くやりましょうよ?」
「え、あ......?な、なによ?!
ちょっとの話しぐらい、してもいいじゃないッ───」
「いや、わたし貴女に負ける気しないからさ。
つべこべ言わずに早くかかってきてよ?貴方も一介の魔女でしょう?」
「───ほら、おいで?私が優しく潰してあげるから。」
そう、大魔女メアリーの生まれ変わりであるこの私が、六歳児の見習い魔女相手に負けるわけがないのであった。
......そして、その後。
ユメカとは『算術』『駆けっこ』『うんてい』『お絵描き』『オハジキ』十種目以上もの勝負を繰り広げたが、私が一回も負けることはなく。
「......う、え、あ......?
お、お......覚えてなさいよッ?!バカめありぃっ......!!?!」
「はーい、なんかあったらまた来ていいよー。じゃあねー?」
そう言って、泣き目になりながら何処かに走り去っていくユメカの背中を見ながら、私は余裕の表情で手を振っていたのだった。
......まぁ、魔女としては甘いかもしれないけど。
このぐらいで懲りただろうと、私はユメカに対し何を要求するまでもなく逃がしてあげることにしたのだ。私優しい。超優しい魔女過ぎる。
「ばいはーい」
───そう思って、手を振って見送って。
───そして。
「うぉあ───!???
めありが、めありさんがあさきをたおした───?!」
「すげーーーー!!!?!
あの、うさぎさんくらすの女王と呼ばれたあさきちゃんを、あんなに簡単に???!!!」
「めありって、あんなにつよかったんだ!??おれ、ちょっとみなおしたかもしれないっ!??」
───はいおれ、めありちゃんのはいかになるーっ!
───え!じゃあ、めありちゃんわたしも仲間にいれてー!!!
......周囲で見ていた子供たちにそんな事を言われて、私は思わず驚いた顔で目を丸くした。
「......へ?いや、わたし別に、配下とかいらな───」
「うおおおおおおおおお!!
めあり、めありちゃんがとっぷだーーーー!!!」
「わたしたちのあたらしいとっぷ!!!!一生ついていきます!!!」
───めあり!めあり!めあり!めあり!!!
───めあり!めあり!めあり!めあり!!!
───めあり!めあり!めあり!めあり!!!
そんなコールが幼稚園に響き渡る。
私は、そんな子供たちの様子を見て、困ったようにきょろきょろと周りを見渡して、動揺して───。
「......ふ、ふふふ。
いいわ。わたし......わたしが大魔女メアリー様よッ!!!」
「魔道の真髄を見せてあげるから、着いてきなさい貴方たち───?!」
───わぁぁぁあぁあああああああああっ!!!!!!
───めありっ!めありちゃんかっこいい〜〜〜!!!!!!
───めありちゃんてんさい!!!!アイシテル〜!!!!!!
......という訳で、私は自らの欲望のままにぐっと手を振り上げて、周囲にいる私を煽て上げる民衆にそうアピールしたのだ。
うん、さっきはユメカの事バカにしたけど。
コレ気持ちいいわ。人におだてられるのって、もしかしたら最高なのかもしれない。
......という訳で、私はこうして"ガキ大将"なるものに昇格した。
そして、その後も幼稚園にいる子供たち、各クラスを纏めていた他の大将たちも順当に討ち取って負かしまくったのだ。
そして、私は名実ともに、この幼稚園を支配した。
魔女として、あさひめめありとして。
この世界で大魔女に至る為の第一歩を、着実に。
───着実に、踏み出したのだ。
「......っ!!!
覚えてなさいよ......、バカめありッ......?!!!」
その、傍から掛けられる悪意の視線に、気が付かないまま。
「ははははッ!私、わたしが一番だッーーー!!!!
───さあ、大魔女メアリー様を奉るがいいわッ!!!」
......私は、そうして卒園までの数ヶ月という短い幼稚園での暮らしを、満喫していたのでした。
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※前回の魔女用語解説!
・各国の魔道理念について(※創作歴史なので気を付けて)
各国間での魔法・魔術に関する考え方は、意外と方向性が違ったりする。
例えば、16世紀末の神の信仰者が多いヨーロッパ諸国、帝国やフランス国内の貴族間では、その力を他国に利用されないようにするために統制や規制を強める動きがあったり、宗教に絡めて異端者を罰する要素に仕立てあげ圧政を強めたりするなど、様々な魔女狩りが横行していた。
しかし、逆にヴェネツィア共和国等では魔女狩りは行われず、その知識を活用する為か、または彼女らが利益を齎すが為か、大手で受け入れる風潮があったりなど、国によって様々な魔女への関わり方があったのだ。
しかし、それぐらい魔法も魔術も神の信仰者も、国に大きな影響を与える存在として注視されていたのである。
よって、神の信仰者たちは貴族から、民衆から奇異の視線を向けられる対象として、嘲られながら生きることを強いられたのだ。
・魔女間での会合『ワルプルギスの宴』について
中世、近代の魔女間における研究発表会のようなもの。
何ヶ月かに一回開催され、各地域間での新たな魔法・魔術の発表や、高度なものになると魔道具や魔方陣の理論研究発表会などが行われていたようである。
また、その他にも料理や薬草酒などを飲み交わすだけの会、魔法を用いて個人間での決闘を行なう会もあったらしく、まさに宴と称するのが正当な有り様のものであったらしい。
まぁ、俗にいう忘年会とか呑み会みたいなものである。
それに呼ばれないって......。
メアリーちゃんェ......。
・"貴族"と"白魔女"の関係について
前述《各国の魔道理念について》でも話した通り、十六世紀付近のフランス国内や帝国、イギリス等では魔女狩りが横行していた。
疫病や飢饉など、大抵の場合においてはその村の女性が魔女として極刑に処され、拷問して殺される、そういった行為が日常茶飯事であったのだ。
しかし、全ての魔女が魔女狩りにあった訳ではなく、寧ろ各国貴族の元には幾人かのお抱え魔女や魔法使いが居たのが実状であった。
───というか、貴族の血が流れている魔女や力の強い者を"白魔女"、そして市井の元で活動する野良の魔女を"黒魔女"として断定し、悪魔との間に産まれた卑しい身分の者として断罪したのである。
それが、魔女狩りによって殺された者たちの実状であり、
白魔女による野良魔女差別の温床『穢れた血理論』や、力のある魔女達が提唱した『虹彩による適性判断』などの、魔女間で起こる差別的風習の始まりであったのだった。
───追記。
・16世紀に於ける"帝国"とは
簡単に言えば、現在の"ドイツ連邦共和国"周辺であり、
そして、16世紀における『神聖ローマ帝国』を表す用語として今作では使われている。
というのも、中世、近代にて起こった魔女狩りは、
【宗教改革】というキリスト教の新旧分離によって起こった宗教戦争の産物であったからだ。
(※作者調べ。間違ってたらごめんやん?)
───神聖ローマ帝国の主宗教とする、キリスト教旧派閥である『カトリック』。
そして、そんな"カトリック"の思想に反発して分離した、
キリスト教新派閥である『プロテスタント』の"新旧両派"がそれぞれ敵対する宗派の異端者を魔女として告発するようになり、それによって犠牲となったのが魔女として白羽の矢を向けられた人々......
異端者を狩る"魔女狩り"によって殺されてしまった、今作の主人公のような人々だったのである。
よって、今作では神聖ローマ帝国のことを"帝国"と呼称しており、16世紀当時の魔女たちの畏怖する存在として描いているのだった。