第三話『魔女、風呂に入る』
「めあり〜。ご飯できたわよ〜?」
これはすごい!すごいよ、ねぇ?!
いくら使っても魔力の流れが感じとれない!
目の前のホースをぐにゃぐにゃと揺らして、生成された水に感嘆のため息を漏らす。
魔力感知は専門分野では無いとはいえ、まさかここまで感じ取れないとは......!
これは要研究だ!
私はこれを絶対に解き明かさねばならない......!
───さて、いったいどこからバラしてやろうかッ?!
「おい?めあり、お前おかあさんに呼ばれてるぞ?」
「ん、なにヒデノブ?ちょっと今忙しいから。後にしてね」
見れば見る程に何処にも魔術的痕跡がない。
手元にあるホースの内側やつるりとした表面。断面の隙間などに魔力の流れを読み取る魔力視を使ってみるが、如何せん魔方陣のひとつすら見当たらない。
しかし、このような魔道具を作る為にはどうやっても魔術式が必要になってくるはず。
それに加えて、天才魔女の私でも分からない程の微小な魔力でやるとなれば......相当な量の魔術式を描かなければならない筈なのだ。
やはり内部に書かれてるのだろうか?
それともあの蛇口というものになにかあるのかな?
わからない......もっと調べてみてから検証を......
「めありー?何処にいるの、ってまだホースで遊んでたのね!
もう5時よ。早く家に入りましょ?」
「......うん?はぅっ?!レミさま、いつの間にここに?!」
しかし、物思いにふけっていた私が顔をあげれば......気がつけばそこには、私のお母様であるレミ様が立っていたのでした。
それを見て、私は度肝を抜かれそうになって驚きます。
どうなってるの!?
なぜ目の前にレミ様が───まさか、転移魔術!?
しかし、それにしては一切の魔力的波動を感じられなかったけど......レミ様はそれを隠蔽できるほどの高位の大魔女様だって言うの!?
「いったい、どうやって───?!」
「......いや、お前が集中してあそんでる間に来たんだよ!」
なんと、ヒデノブにツッコまれてしまった......
こんな奴に指摘されるとは、私の魔女人生一生の不覚だ......!
「......な、なんだよ?なににらんでんだよ?」
「いや、不覚だな、と......。
これをどう汚名返上しようか考えていた所で───」
ヒデノブと会話をしていると、レミ様がヒデノブに気がついたようで口を開く。
「あらあら、秀信くんじゃない!めありと遊んでくれてたの?」
「はい!めありが一人でいたので。
後、たおれたってきいてたから大丈夫だったのかなーって。」
「あらあら、そうなの?
ありがとねー秀信くん!めありのこと気にかけてくれて!」
しかし、レミ様はどうやら勘違いしているようだった。
「......私が、遊んでもらっている?
レミさま、それは違うよ。白パンと黒パンぐらい違う......。」
「ん?めあり?
私にはなにを言ってるのか分からな───」
なので、私は軽く指を振りながら、レミ様を諭すように言葉を発した。
そして、静かにホースを掲げて。
その"銃口"をヒデノブに向けて宣言したのだッ!
「───ヒデノブではなく、私がっ!
私が、遊んでたんだよっ!!このヒデノブを従えてっ......!」
そう、そうなのだ!
私が遊んで貰っているなど、有り得るはずがない!
どちらかと言えば私が遊んでいるに決まってる!
主にこの子供を利用してっ!ヒデノブを利用してホースを我がものにしていたのですッ───!
だから、私はそれを伝えようと、レミ様にキラキラとした目を向けて真摯に訴えかけたのだが。
「......こらっ?!めあり駄目よ!??
友だちにそんなこと言ったらバチが当たっちゃうわよ!秀信くんに謝りなさい!」
「!?ぇ......でも、私は...」
「でもも言い訳もだめです!
はやく謝らないと、今日のご飯抜きになっちゃうわよ?」
───!?
なんということなのっ......!?
ご飯抜き。
それを聞いて、私は絶望する。
何故ならば、私は理解してしまったからだ。
それは、今この体が腹ぺこであるという事実......。
ホースで研究()を重ねたことによって、この幼い幼女の身体は飢餓状態であるということに気がついてしまった!!!
それを、レミ様の言葉で思い出してしまったッ......!
「こんな......なんてことをっ......?!」
何たる不覚......!
私はどちらを選べばいいの?
プライドを捨てるか、飯を食わぬか......
───しかし、謝るなんて......この私が?それはできない...!
......だが、飯抜き!
飯抜きはこの幼女の体では死んでしまう!
......うおぁ!どうすればいいのか!
神様教えてくださいっ!私はどうすればいいのですかッ?!
しかし、そんな悩める私に対し、
救いの手を差し伸べる男が一人居たのです。
「......めありのお母さん。おれ、別に気にしてないからいいよ。
おれがめありのことかってに見てただけだし。」
ヒデノブである。
ヒデノブが私のことを庇ってくれたのだ。
私はそのヒデノブの言葉を聞いて、思わず感動して手を合わせ神に祈った。
「Es-tu Dieu ......?!!」
「んえ?えちゅ......?何??」
ヒデノブ、お前...そんな良い奴だったのか......!?
今、お前の後ろに後光がさして見えるようだよ?!ヒデノブ is GOD!!ヒデノブは神の使いか何かか......?!!
心の中の私たちは、今ならヒデノブをスタンディングオベーションしながら迎え入れられる自信があるよッ!!!
ありがとうッ!!!本当にありがとうヒデノブッ!!!!
「うーん、それならいいんだけど......秀信くんごめんね?
うちのめあり、ちょっと頑固だから......。」
「あ、はい。それはよくしってるから大丈夫です!」
しかし、そんなことを考えて、私が心の中でヒデノブのことを褒め称えていると。
レミ様がふぅと息を吐きながらヒデノブに謝る。
そして、そんなレミ様に、ヒデノブはニコッとした笑顔で元気の良い返事を返した。
おい......頑固とはなんだ頑固とは。
私は世界一融通の利く魔女なんですが??
しかも、ヒデノブよ。
お前もお前でよく知ってるのか、私の事を。
───そっかそっか、ならば戦争である......!!!
だって、よく知ってるのにもかからわず、私のことを頑固判定するなんて......身の程知らずにも程があるというものじゃないか?!
いや、まぁ......。
こいつが知ってるのは、"あさひめめあり"の方なんだろうけど。
「あら、そう?
じゃあ、秀信くん、これからもめありの事よろしくね?」
「はい、おれもめありと遊ぶのすきなので、分かりました!」
......しかし、考えようによっては良い事を聞いたかもしれない。
純新無垢な笑顔で受け答えするヒデノブを見て、私はふむと考える。
私には未だにメアリーの記憶しかないから。
だから、めありの事になったら、本当に手探り状態で探っていくしか道がない危ない状態であったのだ。
だからこそ、協力者が必要だ。
そして、協力者は扱い易ければ扱い易いほど良い。
その点で、ピュアノブ......
ヒデノブは、最も扱い易い部類の協力者と言えるだろう。
子供だから騙しやすいし、話しやすいし。
"私の事をよく知ってる"らしいから、恐らく情報に信頼性があるだろうし。
だから、とりあえず一旦は騙しやすい奴として。
私の心のメモ帳に"純粋無垢な子供・ピュアノブ"......いや、ヒデノブの名前が刻まれたのだった。
「ふふふ!秀信くんありがとうね?
じゃあ、私たちはご飯だから。秀信くんももう帰りなさい?」
「はーい。じゃーなー、めあり!」
「......うん。じゃあねピュアノブ。まぁ、また遊ぼうね。」
「ぴゅあ、のぶ?......まぁいいや、じゃあな!」
───そんな風にして、私は出会ったのだ。
これから先、何度も顔を合わせることになる『幼馴染み』。
純粋無垢で、実直な、
"田中秀信"という男に。
今日、初めて。
出会ったのだった。
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「さぁ、めあり!
お母さんとお父さん、どっちを選ぶの?」
「もちろんお父さんだよな?
めありはお父さんのこと大好きだもんな?」
「もちろん私よね?お母さんの方がもっと好きだもんね?」
「「さぁめあり!どっちを選ぶ?!」」
なんなんだ、この状況は。
いや、まぁ親として見過ごせないのは解るよ。分かるけども。
───けど、たかが子供の水浴びのおもりで、どうしてこんなことに......。
目の前でにこにこと争っている両親の姿を見て、私は内心でため息を吐きます。
ちなみに、争っている内容は、どっちが私とおふろ?に入るか。
それだけの内容で、このおしどり夫婦はにこにことした笑顔で水面下で争いあっているのです。
その光景は、さながら自国内で対立する貴族の小競り合いのよう。
表面では笑顔を浮かべながら、裏でバチバチにメンチ切りあってる奴。正直、子供に見せる姿ではありません。
......うん、解る。分かるよ?
おふろというのが湯浴みな以上、子供一人では危険なのは解る。何故ならば子供というのは何をしでかすかわからないから!
「さぁ、めあり?
おふろはあぶないから、僕と一緒に入ろうね〜?」
「ねぇ、めあり?
今日はたくさん遊んで汚れちゃったし、わたしがちゃーんと髪をといてあげるから!だから、ママと一緒に入りましょう?」
「さぁ......!」
「さぁ......。」
「「めありは、どっちとおふろに入りたい!?」」
───しかし、しかしだよッ?!!!
こいつらは、ただ単に自分が一緒に入りたいだけでしょう?!
子どもの成長は見守りたいものだと言うけれど、こっちからしたら面倒臭いことこの上ないものであるというのを理解しているのかしら!??
あぁ、面倒くさい!
そもそも、私の心はもう立派な大人なのっ!!!
15歳で成人してたし、なにより恋人......も、裏切られたけど一応はいたしッ!!!
だけど、それを信じる程、頭がイカレては無いだろうから......。
「じゃ、じゃあレミさま...」
「やったぁ!じゃあ行きましょめあり!」
「そんなぁ...昔は純一郎と入る!って言ってくれてたのに......」
うわ、めありちゃん素で純一郎呼びだったのか......純一郎は何かと不憫なやつのようだ。可哀想に......。
純一郎の呟きに内心驚きながらも、思う。
まぁ、だけども、消去法でこの選択しかあるまい。
ごめんね、魔力無し男。
例え六歳児になっても、流石に心は大人の女性だから。
たぶん、これから一生一緒に入ることはないだろう!うん、多分ない!
というわけで、レミ様の腕に抱かれながら、落ち込み崩れゆく父に黙祷を捧げた。
「ほらめあり、バンザーイして。はいいい子ねー。」
さて、私は今、所変わって脱衣所に来ている。
バンザーイというのが何かはわからなかったが両手をあげているレミ様の真似をし無事に服を脱がされた。
どうやら両手をあげる動作のことらしい。
またひとつ賢くなったきがする。
ふむ、という訳で一糸まとわぬ姿になった訳だけど、ひとつコメントするとなれば......
まぁ......平らなことで。
死ぬ前の私も割と平らだったけど。
そこはやはり子供、真っ平らだ。
これに興奮するやつはおそらく、幼女趣味のイカレた野郎だけだろう。
そうこう考えてるうちにレミ様も準備が終わったようで、その美しい四肢があらわになっていた。
うん、我が母は、顔も美しいながらに1番目を引くのがその大きな双丘だ。いかにも世の男どもが好きそうな見た目をしているよ。
しかし、よく捕まえられたなぁ、魔力無し男。一体何を捧げたんだろう......、臓器とかかな?
魔術用の触媒で結構使うのだ。
買うと高いから、私は使ったことないけれど......。
「じゃあ、まずは体を洗おうねー」
「はい、わかりました......」
それにしてもこの部屋は声が良く響く。
一体どんな素材出てきているのか......疑問だ。
「はいここに座って!」
私は言われたまま真ん中に小さな穴が空いている椅子に座る。
......ん?
なんだ?目の前に子供がいるぞ?
子供は私だけじゃなかったのか?
まさか二人目がいたとは。お盛んなことである。
......しかし、将来有望そうな子だ。
背は少し低いが、綺麗な茶髪をした少女だった。
睫毛にかからないぐらいで前髪を切り揃え分けられていて、全体的な長さは肩より少し下ぐらいだろうか。あと、少しくせっ毛気味かな。
目はぱっちりとしていて、まるで宝石みたいだ。......若干純一郎に似ている気がしないでもない。くりっとした、可愛らしい目である。
そして、何より......その目の色!
吸い込まれそうな程に透き通った金眼ッ!
高名な魔女の代名詞といえば、一二を争うのが金眼と紫眼だ!
くそぅ、羨ましいよ。
なんでもできるよ金眼なんて持ってたら......
欠点といったら少し間の抜けた顔で、アホそうなぐらいだろうか?
いや、これのおかげで可愛さが増してるという考え方も......
だが、それにしてもこっちを凝視してくるなこの子供。
あぁ、いい顔してるのにそんな眉に皺を寄せて......勿体ないなぁ。
はぁ......仕方ない。
ここは1つ将来有望な魔女の卵の為にも、乙女の作法が何たるかを私が注意して差し上げようじゃないか。
「ねぇ、きみ?
そんなに眉間に皺を寄せてたら、綺麗な金眼が台無しだよ?」
おっ、あっちもなんか喋ってるみたいだ。
けど、この部屋、防音が凄いみたいで何も聞こえないや。
───しかし、まぁさっきよりは良い顔になった。
うん、その笑顔こそ、子供のあるべき姿だと私は思うよ?
「くっ、ふふっ......!
めあり......それって、目の前のその子に言ってるの?うふふ......!」
なに?
レミ様がなんか笑ってるんだけど?
何がおかしいんだ?
「そうだよレミさま?
あの子、あんなに良い目をしてるのに、凄い形相してたんだもん。勿体ないよ。」
私がレミ様に答える。
すると、レミ様はもう無理と言った様子でくすくすと笑い始めてしまった。
ますます訳がわからなくて首を傾げる私。
そんな私を見て、レミ様は衝撃の事実を私に告げてくる。
「ふふっ!めあり、その子はね?」
「うん、誰?この子?」
「なんと〜......貴方なのでした!
良かったわねー?あなたが可愛くてっ......!」
?????
「......???え?アナタナノデシタ?......ん?」
意味がわからない。
アナタナノデシタ......あなたなのでした......
貴方、あなたなのでした?
......貴方なのでした?!!?
ふぁっ?!私?めあり?!
この目の前にいるのが私で、じゃあ今ここにいる私は誰だって話で───?!!
......ん?んんぁ!!?
「ふふふッ!もうダメ、めありかわいい!」
「ぐぇっ!?レミさま苦しい、苦しいです!」
苦しいと言うと、ごめんごめんと言って解放してくれた。
全く、いきなり抱きつかれてその豊満な胸に抱かれ体も心も苦しい思いをした......!
あれは兵器だ......!
我々に対する拷問器具だ......!
今後は背後に気をつける事を心掛けようと思う......!!!
「めあり、あれはね。鏡って言うのよ。」
「......鏡?」
知らない名前だ。
いや、もしかしたらどこかで聞いたことがあるかも?
うーん......覚えてない、か?
「鏡はね。自分の姿が見れる道具なのよ?」
自分の姿が見える...?
まてよ、もしかして......これ"miroir"か?
ということは、あれは私?
......ということは、私は自分のことをいい顔してるって言って、自分に話しかけてたということ?
「うわぁぁぁ......それって......うわ、え?はず......」
その考えに至った途端、私のしたことがどれほど恥ずかしいことか理解した。
あぁ、私を見ないでくれ母よ。
私は今、きっと顔が真っ赤になっているだろうから......
「さぁめあり。こんな事をしていたら風邪を引くわ。体洗ってあげるね。」
「うぅぅ......誰にも言わないでくださいレミさま......」
「ふふっ。わかったわ、お母さんとの秘密ね?」
「うん...ありがとう......あぁ......」
その後、頭につける泡や暖かい水の出るホース......
たくさんの湯が入った浴槽やら、髪をまとめる装身具やらに驚き一悶着あったのだが。
それを乗り越えて、私は無事湯浴みできたのだった。
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お風呂に入ったあと。
どうやらようやくご飯が食べられるらしく、レミさまが準備に取り掛かっていた。
「今日はね。めありの大好きなミートスパゲティだよー」
ミートスパゲティ?
知らない名前だけど、さぞ美味しいんだろう。
だって昨日の病院というところで出されたご飯はすごく美味しかったからっ!
昨日のご飯を思い出して嬉しくなっていると、そのミートスパゲティとやらが私の前に出された。
ふむ、ミートスパゲティとはパスタ料理のことだったのか......
だが、なんだこの上にかかっている赤々とした液体と謎の肉のものは?なんかの血肉だろうか?
しかし、やはり病院でも思ったけど、この国の料理は見た目がぶっ飛んでる奴が多いな。
だって、病院では生魚の切り身が出てきたからね。
なんだっけ、サジミだったっけ?うん、まぁ確かそれだ。流石の私でもちょっと忌避するぐらいの生魚ではあった。
───だが、私とて一端の魔女ですからッ!
魔女とは挑戦してなんぼの生き物なのですッ!という訳で実食!!!
「いただきます!」
「はい。どうぞ!」
このいただきますを言わないと、ご飯を食べられないというのは知っているのだ。散々病院で注意されたからね!
机には空のコップとフォークとミートスパゲティが置かれていて、今、空のコップにレミ様がお茶を注いでくれているところだった。
今日はあの難しいはしという道具は無い様だ。フォークならば私の専門分野である!
さて、食べよう!
私は置いてあったフォークでくるくるとパスタを巻き、パクリとひとくち食べる。
「───っ!??」
これは!?
美味い、美味いよ!?!
少々の酸味の中に甘みが隠れていてどちらも殺し合わずに共存している。
しかも、細々としたお肉がいい具合にパスタを引き立ててくれている!
これはもうとまらない!一生食べていたいぐらい美味しい!
「ははっ、めありはほんとにミートスパが好きだな」
料理の準備が出来るまでいじけていた純一郎。元気を出してくれて何よりだが、あいにく私は今目の前の物に集中しているので......!
返答は後にさせてもらおう!
「ふふふ。めありったら、口の周りに着いてるわよ」
私が食べるのをニコニコして見ていたレミ様は、ひとしきり私が食べ終えると同時に私の口についていたミートスパにかかってる液体......あれなんていうんだろう?
そうだね......。
呼び名が無いと困るから仮として液体Xとしよう。
レミ様は私の口元から、液体Xを拭き取ってくれた。
うん、私としたことが少々急ぎすぎたようだ。反省である。
「ありがとうレミさま」
「いえいえ、どういたしまして」
しかし、やはりレミ様はひとつひとつの所作が綺麗だ。
女性として見習いたいものだけれど、まぁ私には無理だろう。ああいうのは柄じゃない。
「そういえばめあり。明日の幼稚園の準備はできてるのか?」
私に無視されたと思い、今の今まで落ち込みながら食べてた純一郎。
それが思い出した様に私に聞いてくる。
「幼稚園?」
幼稚園とはなんぞや?
聞いたことの無い名前だ。いや、こっちに来てから聞いたことのある名前の方が少ないのだが。
「幼稚園のこと忘れちゃったのか〜!
忘れん坊だなめありは!よし、お父さんが説明してあげよう!幼稚園とはーー」
反応したのが嬉しかったのか、純一郎はぱっと笑顔を浮かべて嬉嬉として説明してくれた。
子供を集めて教えを授ける、つまり簡単に言うと教育機関のことか。
しかし、この国は女子供関係なく勉学を学べるようだ。
しかもそれが国民に課せられた義務となっているらしい......どうなってるんだこの国?摩訶不思議大国である。
いや、でも、やはり未来?異世界?となるとこのぐらい普通なのかも?
むむむ、わからない。情報が足りないな。
けど、まぁそこら辺は聞いてみるしかないだろう。
聞いて、見て、自分の常識と擦り合わせていって......いつか噛み砕いていかなければならない。ここの所驚きっぱなしだし!
「そうねぇめあり。明日のためにもそろそろ寝よっか?今日1日遊んで疲れたんじゃない?」
......そうかもね。
確かに疲れてるのかもしれない。
初めてのことがいっぱいで、正直キャパオーバーだ。ゆっくり休むのが正解かも。
明日も初体験が沢山あるんだろうし!
「そうだねレミさま。疲れたしそろそろ寝ようかな」
「そうねめあり。それがいいわね!」
さてと、そうともなれば明日に備えてゆっくりしなければ!
魔女というのはメリハリが大事だ。明日も頑張るぞー!
「よし、じゃあ、めあり?
ちゃんと歯磨きして寝ましょうねー?」
「歯磨き?歯磨とはなんですかレミさま───?」
そんな風にして、私の退院一日目は過ぎ去っていったのだった。
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※前回の魔女用語解説!
・【身体強化魔法】について
主に、"燭系統"もしくは"泉系統"の信仰者の得意とする、自らの身体能力を大きく底上げする魔法。
基礎的な魔法詠唱で発動でき、法則改変も自らの身体のみで収まるため、あまり位の高い神に力を借りなくとも使用できる最もメジャーで簡単な基礎魔法である。
・魔道具について
魔法又は魔術を封じ込めた、魔力の籠った道具の事。
高位の魔術師、又は大魔女による【印】の応用術、『魔方陣』のなせる技であり、中世の"信仰者"の間には魔道具作りを専門として生計を立てていた者も居たのだとか。
・魔法、魔術について
魔法とは、魔力を用いて一時的に世界の法則を書き換える力である。魔術とは、何らかの魔力と触媒を用いて、明確に世界の法則を書き換える力である。
魔法で作り出した水は一定時間で消失するが、魔術で作り出した水は一定時間経過しても消失しない。
その理由として、自らの信仰する神の力、魔力によって世界の法則を書き換えている魔法とは違い、魔術の本質は錬金術......自然摂理の応用術に近いことが挙げられる。
法則を無視し奇跡を起こす。
"神の力"である魔法と、法則に従い等価交換を基本として"自然摂理"を操る魔術。
その本質の差が、魔法と魔術の違いである。
上記補足︰魔術師と大魔女、信仰者について
魔法の力を使える男のことを"魔法使い"、魔法の力を使える女のことを"魔女"と呼ぶ。
また、魔術を覚えた魔法使いのことを"魔術師"、魔術を覚えた魔女のことを"大魔女"と呼ぶ。
彼ら、神の力を間借りする奇跡の使い手のことを、総称して"信仰者"と呼ぶ。
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(話の流れによって、前書きに魔女用語解説を載せるか後書きに載せるか変えています。
もし、これが見にくいとか、あれが見にくいとかありましたら教えていただけると幸いです。
......あと、フランス語はとくに勉強している訳でもないので、文法とか意味とか間違ってたりするかもです......。
というか多分間違ってます。なので、めありちゃんは他言語沢山話せるよっていうニュアンスだけ覚えていて貰えれば、嬉しいです......!)