第二話『魔女、鉄に乗る』
※前回の魔女用語解説!
・『ꛃꛃ૪ℓ‐ єℓ‐*ԋ૪』
【印】と呼ばれる、魔女達の中で最もメジャーな魔法を使う際の言語。
発声に含まれる微細な魔力の流れを言語化したもので、これを自在に操ることによって魔女・魔術師、または祓魔師などはこの世界の法則を書き換えるのである。
・暗系統、地系統、特種
自らが信仰する神の系統の事。
魔法、魔術とは自らが信仰する神様の力の一端を借りて発現させるもので、この【信仰系統】によって使える魔法や魔術の種類、効力が違ってきたりする。
また、例外として【特種】という、自らの力のみで理外の力を使う怪物も居るらしい。
・稀血
まれち、又はアルナイルブラッド。
非常に希少な血液の持ち主のことで、その血の持ち主は全ての神に愛されるとされている。
現代医学では『黄金の血液』としてその違いは血液型の相違であると解明されているが、かつての神の信仰者達からすれば彼らは神子に等しい存在だったという。
......ちなみに、特に覚えても意味はないぞ!
でも、作中に出てくる大体の用語は設定があるはずなので、都度解説を入れるぞ!!!お楽しみに!!!!
「わぁぁあ!すごい、すごい!?!!」
「ふふふ。はしゃいじゃって......かわいいわねぇ」
「ははっ、そうだねレミさん!
僕たちの子......めありはとっても可愛らしいね?」
ぎゅんぎゅんと移り変わっていく景色。
その様子を眺めて、私は年甲斐もなくきゃっきゃうふふとはしゃいでしまいます。
いや、今は六歳だから妥当かもしれないです。
六歳児としては妥当なきゃっきゃうふふなのかもしれないですが......。
しかし、今私が乗っている鉄の塊......もとい、車という馬車によって移りゆく車窓からの景色。
それを見て、私は自らの感情の制御も出来ず、ぱちぱちと手を叩いてしまうのだ。屈辱。屈辱的である。
しかし、それも仕方ないといえば仕方ないのかもしれなかった。
───だってその車の速度は、ゆうに馬よりも速く
(まぁ私は実は馬に乗ったことはないので、例え話にはなるのだが)、私たち三人を載せても一切疲れる様子なく走り抜けているのだから!
これが驚かなくて何になると言うのだろうか?
どんな大人でも年甲斐もなくはしゃいでしまうと言うものだろう。
また、その街の様子も凄いのだ。
私が目を覚ました、病院という建物も貴族様の宮殿のように大きく綺麗だったけど......しかしそれだけではない。
街にある建物全てが、綺麗に造り込まれているのだ!
その様子に私は思わず息を巻いて、その建築技術の高さに関心してしまう。
きっと腕の良い建築家が居るのでしょう。
しかも、造りがとても凝られていて豪華なので、貴族が沢山住んでいる地域なんだろううなと思った。
───だが、レミ様にそれを聞くと、笑って"貴族じゃない普通の人が住む家だ"と言うのだ!
そんなことが有り得るの?!
あり得るとしたら、どれ程豊かで発展した世界なの!?
そんなことを考えながら、唖然として景色を眺めていると、とある光景が私の目に飛び込んできました。
「......は?」
───いや、おい。
───ちょっと待って、なにあれ?!
......そんなこと有り得るの!?
な、なんなんだ......あの青くて長い、謎の......
......謎の魔道具はっ?!
あんなの帝国でも見たことがないわ!?聞かねばっ!?!
「レミ様......お母さま!
あの水が出てる魔道具何?!なにあれ!?」
やはり魔女たるもの知的好奇心には逆らえない。
私は興奮を抑えきれずに指さして、矢継ぎ早に言葉を発した。
───私の指が指す先。
その先には、青長いぐにゃぐにゃした何かを持った女がいた。そして、その青長いものの先からは、なんと水が湧き出ているのだ!
しかも、その女は黒目!
ということは魔法が使えないはず。
だとすると......魔道具以外ありえない!
「......魔道具?
あぁ、あれはね"ホース"って言うんだよ、めあり?」
車の移動スピードが早すぎて、残念ながらすぐさま通り過ぎてしまった。
くそ、もっと見ていたかった......。
だが幸いなことに、男......
純一郎が、あの一瞬を見ていてくれたらしい。
私に、その魔道具の名前を教えてくれた。
───その名も、ホース......!
なんともかっこいい名前だ......forth......。
たしか、前方へ、という意味を持つ単語だったはずだ。
たしかに、あの美しい水の吹き出る様子は、その意味を冠するのに適しているといえるだろう。
私は魔道具製作者の意図を読み取って、その言葉の響きと意味に感心しながらもふぅと感嘆の息をつく。
しかし、あの細長い体に、どれ程の魔術的技術が詰め込まれているのだろうか......あぁ知りたい。
私は、もう一度ホースに会えるだろうか......?
「そんなにホースが気になるのか、めあり?
うーん、確かうちにもあったよな、ホース?ねぇレミさん?」
「えぇ、あるわね。庭のお花に水をあげるから、それ用の長いやつがあるわ」
「──ッ!?本当に!?早く、早く家に帰ろう今すぐにっ!」
なんということだっ!私の家にもあるの!?ホースが!?
この男......いや純一郎か。
魔力無し駄目男と思っていたが、ホースを持っていると来たら話は別だ!すごい!尊敬した!かっこいい!
実は、心の中ではずっと魔力無し駄目男と呼んでいたんだけど、撤回しよう!君は今から魔力無し凄男だ!純一郎はどうやら凄いやつだったようだ!!!!
「純一郎......!すごいよ......わたし、尊敬した!」
おっと思わず口に出てしまった。まぁ仕方ない。
私にとって素晴らしく嬉しい出来事であるからして、これは不可抗力だ。
「お?今、ナチュラルに下の名前そのままで呼ばれたけど......。
───でも、それはそれとして、僕めありになんかすごい尊敬されてる!?よーしお父さん急いじゃうぞー!」
「ふふふ。ちゃんと法定速度は守ってね?」
「大丈夫大丈夫!破る訳ないよ!大切な君たちを乗せてるんだからね!」
「あら、貴方ったら......かっこいい♡」
「君も可愛いよレミさん♡」
「うふふ♡」
「あはは♡」
「......」
走り去る車の中で、私の両親が楽しそうにはしゃいでいる。
私はその光景を後部座席で見せつけられて、なんともいたたまれない気持ちに苛まれながら思う。
......うん、夫婦仲が良好で何よりだ。
けれど、ひとつ言うとすれば、これしかないのです。
お前ら......爆発しろ......!
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数十分後。
バカップルは終始イチャイチャしていたけれど、無事何事もなく家に到着した。
ふぅ......なんとかキスが始まる前に着いてよかった。
全く、死ぬ直前に愛する人に裏切られた私への当てつけなのだろうか?私が何をしたというのだろう。甚だ疑問である。
そんなことを考えながら、私は脱兎のごとく鉄の馬車を脱出し、外へと飛び出す。目的の品を見るためには、手段を選んでいられないのです。
「あぁこら!そんなに急いじゃ危ないぞめありー!?」
そんなことを叫んで私に注意を促す純一郎に、私は取り付く島もないぐらいの速さで駆け出して行こうとする。
Strike while iron is hot.
"鉄は熱いうちに打て"である。
「......ッ!?
はぅあ、なにあれ......!??」
しかし、鉄の馬車が停車した目の前の壁。
凸凹のある薄っぺらい金属製の壁が上にせり上っていく様子を見て、私は思わず足を止めてしまったのだった。
鉄の壁が何もせずに上に行った?!すごい?!!!!
さすが高名な魔女の家、凄まじい魔道具がいっぱいだ......やはりレミ様ほどのお方になると、このぐらいの魔道具の一つや二つ......
───っと、そんなことをしている場合じゃなかった!
ホースだホース、ホースを確保せねばッ!
「レミさま、ホースどこ!?」
私は開ききった鉄の扉から出てきたレミ様に追いすがって、先ほどの魔道具・ホースを嘆願する。
その様子を見てレミ様は、ふふっと笑うと、楽しそうな表情で「あっちよ」と家の裏手の方を指をさしたのだった。
恐らくそこの角を曲がった先にホースがあるのだろう。楽しみだ!
「ありがと!行ってきます!」
あんな晴らしい魔道具だ!
留守中に誰かに取られては溜まったものでは無い。
私は急いで家の裏へと走りました。それはもう全力疾走です。
「どこだホース!私がじっくりと研究してくへるわっ!はっ、はっ......!」
しかし、齢6歳の小さな体では、とてとてと走ることで精一杯なようで。
その速度は、思っていたものよりも遅く、ゆっくりとしたものとなってしまっているのは自分から見ていても分かる有り様だった。
───もうっ!?
小さい体が恨めしい!全速力でもこの程度しか出ないの?!
そうだ、かくなる上は......
『......循環せし炎の力よ。我が肉体を強化し給え。【身体強化魔法】!』
そう私が唱えると、私の体にある魔力が足へと集まるのを感じる。
よし、どうやらこの世界でも問題なく使える様だ。
いや、もしかしたら全盛期の私よりも使えているのでは無いだろうか?
───今使ったのは、身体強化魔法。
身体の一部分に魔力を込めて、体の動きをサポートする魔法の総称である。
走る速度的には、大体大人の男と同じくらいのスピードが出ているだろう。
もっと強化することも出来るが、それをしてはこの体が持たない。あぁ幼女よなんと脆い体か......
ちなみに、軽く魔法について補足してみたりする。
例えば、魔法を発動する時の例として、さっきの身体強化を挙げるとすると......
『循環せし炎の力よ=(呼びかける神の魔力)
我が肉体を強化し給え=(魔法効果)
【身体強化魔法】=(自分のイメージに合う名前)』
となる。
また、上位の魔術になると他にも条件が必要だったり、複数神との契約が必要だったり、生贄が必要だったりするが、まぁそれは後々出てきた時に説明しよう。
───ほら、こんなことを考えてる間に着いた!
ふむふむ、なかなか綺麗な花が咲いているじゃないか。魔術に使えそうな物もチラホラと見受けられる。
うん。やはりさすがはレミ様といった所だなぁ!
高名な魔女の出自なだけあって、軽く嗜む程度には植物学を収めているということだ......!素晴らしいね!
「さて、ホースはどこかな?」
そんな事を考えながら、私は周囲を見渡す。
綺麗な花が咲いている花壇。
その横にある、家にとりつけられた簡素な扉。草がしっかりと抜かれた割と広めの地面。その中心に立つ大きな木。
木の下には長方形のウッドテーブルと長椅子が置かれている。
───しかし、何より大切なのが、花壇の近くにとぐろをまく蛇のように置かれた青長いホースである!
こ、これが......夢にまで見たあの......!
私は、恐る恐るホースを手に取った。
「......!」
ホースはぐにゃりとしてはいるが思ったより柔らかくは無く、私が今まで触ったことの無いような感触のする物だった。
それが私には物珍しく感じ、ひとしきりぐにゃぐにゃと触った後。
......私は問題に気がついた。
これ、どうやって使うんだ?
こういう魔道具にありがちな、少し魔力を通すというのもダメだし、もうひとつの主流発動法である【発動文字】も知らないし......
どうしよう......。
まさかこんな所でお預けなの?
そう思って私が半ば泣きそうになっていると、後ろから声がかかりました。
「おーいめあり。倒れたって聞いたけど大丈夫だったか?」
その声に驚いて周囲を見渡す。
そうすると、石でできた塀を隔てた向こうから、塀に飛び乗る形で私と同じぐらいだと思われる少年が顔を出していた。
「......誰?」
「はぁ?!ひでぇな、おれだよおれ!
ひでのぶだよ!田中 秀信!!!」
ふむ?もしかして、めありの友達?
もしくは彼氏?いや、さすがにこの歳で彼氏はないか......
そうやって私がひとり考えていると、どうやら本当に忘れられてると気づいたのかすごい焦った様子を見せるヒデノブ。
「......おまえ、もしかしてきおくそうしつ?になったのか?
そんなにひどい感じだったのか、体調?」
「あぁいや、嘘だよ嘘。ごめんごめん。
......からかいたくなって。つい嘘ついちゃったの」
実際は嘘でもなんでもないんだけど、面倒くさくなりそうなので適当に誤魔化す。
「なんだ、そうなのか。
よかった......もうそうゆうのホントやめろよ!ビックリするから!」
「わかったわかった。今度から気をつけるね」
「絶対だからな!約束だぞ!」
ごめんなヒデノブ。これ、嘘なんだ......。
しかし、そんなことを知ってか知らずかヒデノブはぱぁーとした笑顔である。幸せそうな馬鹿笑顔だった。
「あ、そういえばめあり、さっきホース持ちながらめっちゃ泣きそうな顔してたけど何かあったの?」
「あぁ!そうだった!
水のだし方がわからないからレミさまに聞きに行くんだった!」
私としたことが、こんなのに構っている暇はないのだ!
「じゃあねヒデノブ!ちょっと用事が、」
「水ならそこの蛇口をひねれば出るぞ?」
「え?」
こいつ、今なんていった?
「だから、そこの蛇口をひねれば水が出るぞ?」
「じゃぐち......?じゃぐちとは?」
そういうと、呆れた顔をして秀信が指さす。
「そこにあるぴかぴかのやつだよ。お前そんなのも知らないのかよ!」
「これ?この三又のやつのこと!??」
「みつまた?......みつまたがなにかは知らないけどそれだよ。」
これを......捻る......。それで水が......?
私はゴクリと息を飲んだ。よし、捻るぞ......!
「そりゃぁ!......わわっ!出た!水が出たよヒデノブ!」
「そりゃでるよ。ホースなんだから。」
「すごいすごい!これどうなってるの?!」
「それは知らないけど......じょうしきだぞ?」
「革命だ!魔術革命だ!」
これ、どうなってるの?!
少しも魔力の動きが感じられないっ!そんなことって、どうやったら実現することが......。
───いや、まさか。
まさか......そんなことって......!
「......この私が気づかない程、微弱な魔力で動いてるって言うの!?」
......そうだ!そうに違いない!
どれだけ凄いんだ日本!こんなものを一般家庭にまで普及させているなんて......coolだ!?coolすぎる!!!?
「ふはっぁはっはっはっはッ!!?
私はなんという幸運を掴んだんだろう!??
もしかしたら、私、この人生で魔術を極めることが出来るのかもしれない!なんという幸運!ありがとう神様!ありがとう!!」
「うわぁ、前からへんなやつだったけど......いつも以上にへんだなお前......?」
「きたッ!!!!私の時代到来したッ!!!!!
私の最強魔女としての道が、今日開かれたんだッ───!?」
「話聞いてないなこりゃ。
でもまぁ、ほっとけばなおる......かな?」
───その後、私は心ゆくまでホースで遊んだのでした。
傍から見ていたヒデノブが呆れるほど、さながら、子供みたいに。
......はしゃぎ回って、いたのでした。
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・レポート②
輪廻転生における言語能力と、その精神年齢の乖離における障害について。
輪廻転生後の言語能力は、元となる転生体の主言語に引っ張られる傾向がある。
これは、人間の母国語、第一言語が知識ではなく肉体に刻み込まれるものであるからだと言われており、他国の転生体に入り込んだ魂はその国の主言語が初めから話せることが多いようだ。
また、それに類する議題として、転生体と魂の年齢差における精神障害が挙げられるだろう。
魂の精神年齢よりも転生体の肉体的年齢が低い場合、魂の思考能力に歯止めが効かなくなり、しばしば感情的になるというデータが残っているのだ。
俗にいう幼児退行である。
これが、知能が魂ではなく肉体に宿るとされる証拠の一つとして、我々、命系統の信仰者の間では議題に挙げられることが多い。
しかし、未だその人間の記憶に関する根源について、明確な解明はなされておらず、討論は激化の一途を辿っているようだ。
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