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《前編》 魔王の間への突入

仲間の屍を乗り越えて、勇者は遂に魔王の部屋へと突入する。しかし、そこで勇者を待ち構えていたものとは……。

「みんな、頑張れ! 魔王の所までもう少しだ!!」


勇者が叫ぶ。


ここは魔王城内、魔王の部屋の前にある広間である。勇者と仲間たちは今、この場を守る強大な副魔王と戦っている。魔王討伐の旅路において最強最悪の難敵だ。


数々の困難を乗り越えてきた彼らであったが、さすがにこれまでのように行きはしない。だがもちろん、諦めるという選択肢もありはしなかった。


一進一退の攻防の末、勇者の仲間たちは最後の手段に打って出る。僧侶、魔法使い、戦士、闘士が、それぞれ副魔王の手足を必死の思いで拘束した。そしてこの怪物の急所である胸の中心を、勇者最大の奥義で貫く事を彼に懇願した。


「だ、だめだ。このまま奥義ゴッドインフェルノを使えば、みんなを巻き添えにしてしまう!」


躊躇する勇者に、皆は微笑みかける。


「俺たちの目的を忘れないでくれ。世界のみんなに微笑みを取り戻すって約束したじゃないか。その為にはどんな犠牲もいとわないと」


戦士が叫ぶ。


た、確かにそうだ。しかし、ここまで艱難辛苦の旅を共にしてきた仲間を犠牲にするなんて出来はしない。勇者は悩んだ。


「は、早くして! これ以上はコイツを拘束できないわ」


迷う勇者に魔法使いが檄を飛ばす。


「このままでは、私たちみな犬死だ。頼む!」


僧侶が勇者に嘆願した。


そして最後に残った寡黙な闘士も、口では何も言わないが、思いは皆と同じであると目で訴える。


「ソレ、ホント、ホント」


勇者の肩にとまる黄金鳥が激しく鳴いた。この鳥は嘘を見抜く能力を持っていて、旅の途中何度助けられたかわからない。


「み、みんな……」


勇者は断腸の思いで決意を固め、奥義ゴッドインフェルノの構えを取った。


「うぉおおお!!!」


勇者の咆哮と共に放たれる神炎の一撃。さしもの副魔王も、これに弱点を貫かれてはひとたまりもない。かくして最強の門番は消失し、あとには瀕死の仲間たちが残された。


「みんな、大丈夫か!」


だが仲間たちが勇者の呼びかけに応える事はなく、皆静かにほほ笑みながら次々と息絶えていく。


「みんなの犠牲を無駄にはしない!」


「ソレ、ホント、ホント」


黄金鳥は、まるで死者へのレクイエムのようにさえずった。


勇者は開かずの扉に手をかけて、力いっぱい押し開ける。広間の奥には玉座に腰を下ろす魔王の姿。旅の最終目的が今、勇者の目の前に鎮座していた。


「お前が、魔王か」


「あぁ、その通りだ、勇者よ」


「覚悟してもらおう。魔王の恐怖も今日これまでだ!」


「ほぉ、それは頼もしい」


勇者と魔王のやり取りが続く。


「だがな、君は決して私には勝てないぞ」


「うぬぼれるな。仲間の想い、人々の想い。それが、お前を撃ち滅ぼす!」


血気盛んな勇者が叫ぶ。


「なぁ、勇者よ。そういきり立つな。相談なんだがね、ここはお互い妥協しようじゃないか」


魔王は、意外な言葉を勇者に発した。


「妥協だと?」


「あぁ、これ以上戦えば君と私のどちらかが死ぬだろうし、勝った方もタダでは済むまい。


そこでだ。今この場で、君が私を”封印した”事にしようじゃないか。 そうすれば、私はこののち300年は大人しくしていると約束しよう。君の面目は保たれるし、300年後には、君はもう生きてはいないだろう?」


玉座の悪魔が、退屈そうに唇を動かした。


「そんな保証が何処にある。お前の言う事など信じられるものか!」


半ば呆れ顔の勇者の肩で金色の鳥が鳴く。


「ソレ、ホント、ホント」


「ほら、ウソじゃないと、君の仲間も言っているぞ」


悪魔の顔に、慇懃な笑みがこぼれる。


「そ、そんな……。いや待て、そんな事をしてお前に何の得があるんだ。300年もの間、悪行を働けないんだぞ」


勇者の心が、少しだけぐらついてくる。


「私はある秘宝を手に入れてね。不死身ではないが、不老不死なんだよ。だから300年なんて。昼寝をする間に過ぎ去ってしまうのさ」


「ソレ、ホント、ホント」


黄金鳥が、さえずり続ける。


「それにね。この勝負は君にとって絶対的に不利なんだよ」


「なに?」


勇者の心が、更にぐらついてきた。


「私はね、まぁ、詳しくは言えないが力の一部と引き換えに、ある特殊能力を手に入れたんだ。


何だと思う?


ひとつはね、この世界に召喚、転生、転移して来た者を見分ける事が出来る力なんだよ。だから君が転生者だという事も、私にはお見通しなわけさ」


勇者の顔色が、一気に変わった。


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