踏切
私が大学生の時の体験です。
当時私は、オカルト同好会に所属していました。その日もいわくのある旅館へ行くために、先輩が運転する車で少し田舎の土地に行っていました。お目当てはお札の張られた客室でしたが事前に聞いていたようなお札はなく、宿泊した翌日には早々に帰宅することになりました。
これは、その帰り道に起きた出来事です。
かつてその土地は隣県を結ぶローカル路線が通っていたそうで、県境に踏切が残されていました。到着した時は、踏切は上がった状態で信号機も消灯していました。帰り道、その踏切を見かけた友人がそういえば、と言っておもむろに話を始めました。
友人は個人的な趣味で廃墟巡りもしており、自由時間に踏切の写真を撮りに来ていたようです。
「その写真に霊が映ったとか?」
「もしかして鳴らないはずの踏切が鳴った?」
等々、旅館で空振りをしていた私たちは話の先を好き勝手に予想していました。ひとしきり盛り上がったところでようやく続きを促された友人は、少し申し訳なさそうな顔をして、話を再開しました。
「すいません、そういうのじゃなくて…踏切だけ残っている場所ってあるんだなって感動したのと、雰囲気があってよかったってだけなんです。」
ただの感想に怖さ半分、期待半分で聞いていた雰囲気が少し白けた時でした。
「なぁ、オカルト同好会の血が騒がないか?」
「え?」
運転席で1人静かに話を聞いていた先輩が突然そう言いだしました。
「まだ帰るには少し早いし、これから夕方だろ。ほら、"逢魔が時"ってやつだよ。」
「あぁ、幽霊とか妖怪に逢いやすい時間帯ってことですか。」
「へー、そうなんだ。」
「そう。しかも俺たちは今4人だし、踏切だって言っちゃえば四つ辻だろ?」
「オカルト要素が盛りだくさんですね。」
「なんか色んなエピソードがごちゃ混ぜじゃない?」
「まぁ、でも見に行ってみるくらいはいいんじゃないですか?」
暇を持て余していた私たちは結局、みんなでその踏切に行くことにしました。
乗っている車を路肩に停め、おそらく線路が通っていたであろう轍を辿って踏切に向かうことになりました。10分程歩いた頃、私たちは4人全員で踏切の中に立っていました。
オカルト同好会とは言うものの、全員都市伝説や噂話程度の知識しかありません。着いたはいいものの何をするともなく、ただ生い茂った草と色褪せた遮断器を見ているしかない状況に、私は早々に飽きていました。ぶらぶらと踏切の外側に出てみると、少し先に何か大きいものが転がっていることに気が付き、ぎょっとしました。
―まさか、人?!
血塗れの人に見えた私は慌ててそれに近づきました。近づいて見てみると、それは夕焼けに照らされている倒れたお地蔵様のようでした。怪我人等ではないことに安心しつつ、気が付いてしまった以上そのままにしておくのも気分が悪く、お地蔵様を起こそうと3人に声を掛けました。
「まじかー。」
「何体もあったらちょっと怖いなぁ。」
「頭ちゃんとある?」
そんなことを言いながら全員が手伝いにこちらへ向かって来たその時。
私は3人の後ろに人影を見ました。それも1人ではなく、何人も。
見間違いかと思って足を踏み出そうすると突然、強烈な耳鳴りに襲われ、思わず耳を塞いでその場に蹲ってしまいました。私の様子を見た3人は慌てて私に駆け寄ってくれ、最後の1人が踏切から出たその瞬間、
カーンカーンカーンカーンカーン
背後からけたたましい警告音が聞こえ、私たちは体を強張らせました。次いで踏切の中から轟音が聞こえ、すぐ目の前を真っ赤な車体の電車が通り過ぎていきました。物凄い速さで通り過ぎて行く電車に乗っている人の顔なんて見えるはずがないのに、なぜかその時は電車に乗っている人が全員こちらを向いていると感じ、背筋を悪寒が走ったことをよく覚えています。しばらく呆然と立ち尽くしていた私たちが正気に戻るころには、日はすっかり暮れていました。
その後のことは、あまり思い出せません。
後日、みんなであの踏切について調べてみると、在来線だった頃の死亡事故や、廃線になってからの撤去作業で何人も行方不明になっている等、様々ないわくがある場所だったことがわかりました。
私が気づいたお地蔵様は、その供養のためにたてられたものだったのでしょうか。ただの偶然といわれてしまえばそれまでですが、少なくとも私達はあのお地蔵様に助けられたのではないかと思っています。
あれ以来、私たちは毎年お地蔵様へのお礼と、事故で亡くなった方のご冥福を祈りに踏切を訪れています。
皆さんも、もし踏切が取り残されている場所を訪れてしまったときは、決して足を踏み入れないように気を付けてください。
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ここまでお読みいただきありがとうございました。




