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入隊試験

入隊試験

「私に一発でもイイの入れることができたら合格だよ」



俺たちは訳が分からず兵士を見たまま固まっていた。




女性のなかでは比較的長身だが、俺たちよりは一回り小さい。



確か去年測った時は175cm前後だったので彼女は170弱ほどだろう。



それよりも目を惹くのが彼女の洗練された肉体だ。



バキバキに割れた腹筋の凹凸、筋肉の立体的な形がわかるほど鍛え抜かれた上腕部、

そしてそれらを支える馬のように強靭な下腿。



見た感じだが、ボディビルとは少し方向性の違う、肥大化の度合いは小さいが、その分敏捷性に優れているタイプの筋肉だ。



スポーツ選手のような...というよりもはや格闘家の身体だろう。




(いや、格闘家にあったことなんてないけどね。)



一体この人は何者なんだ?



なにをしていたらこんな身体になるんだ?




爛々と輝く大きな瞳と、自信ありげな不敵な笑みと合わさってなんだか不思議なオーラが出ているような気する。



「はい!!質問です!!」



唐突な内田の声で俺は我に返った。



「兵士さんは強いんですかっ!」



内田は右手をビシッと一直線に

(まさに授業で問題を答える為に挙手する活発な小学生のように) 手を挙げた。



「それはやってみればわかるよ」



兵士は表情を一切崩さず答えた。


それが一層不思議を通り越して不気味だった。




「さ、もう来ていいよ」



兵士は俺に、次に内田に視線を送った。



「いや、そう言われても...」



当然ながら俺たちは大困惑している。



いくら鍛え抜かれた人だと言っても女性を殴るのは気がひける。



ていうかそもそもなんで闘うなんて事になっているんだ?



そんなのを試験にするなんて一体どんな機関なんだよ?




となりの内田をちらりと見る。


どうやら同じような考えのようで流石の内田もどうしたらいいのか分からないようだ。



そうして少しの間動かず喋らずの状態でいると、ついに兵士が動き出した。



「じゃあ私から」



右脚を後ろに下げた。



裸足のまま、床を力強く蹴り出した。



スタートからすぐに最高速に到達した。




わずか一瞬で



兵士の顔が



俺の目の前に現れた。



それが何か脳が理解したのと、腹に重たい衝撃が来るのはほぼ同時だった。



鈍器が腹にめり込んでいる。



腹の内臓が、振り下ろされた鉄球で叩き潰された気がした。



天地がひっくり返ったように視界が大きく動いている。



自分自身がひっくり返ったんだと

かなり遅れてから気づいた。






遠のく意識の中で、内田の声がした。



すぐに、どんっ、という重低音が響いた。



何かが倒れる音がした。













「あ、起きたっ」



目を開けると病院のベッドの上...



ではなく、先ほどと同じ無機質な地下室だった。



兵士が顔を覗き込んできた。



床は寝ていたのに熱が移らず、冷たくて硬い。





「いやー、ちょっとやりすぎちゃったね、ごめんごめん」



兵士はそう言いながら右手を差し出してきた。



大人しくその手を掴み上体を起こす。



腹を打ち込まれた痛みはだいぶ引いているが、その余韻と衝撃は未だに鮮明に残っている。



「はい、お水」


水を注いだグラスを差し出してきたので、俺は頭を下げてそれを受け取り、一口で飲みきった。




冷たい水が喉を通っていく。



乾いた体に染み込んでいくのを感じながら、一つ息を吐いた。



倒れる前の事を思い出そうと試みた。




「えーっと…」



アレ?変だな。



この地下室に来てからの記憶がかなり曖昧だ…



「君達3時間くらいぶっ倒れてたんだよ」



兵士は目を細めたにこやかな笑顔のまま続けた。




「その様子だと今日は無理そうだね」



兵士は右手を俺の腹に伸ばして、人差し指で軽くつついた。



「いッ…‼」



ちょっと触られただけで激痛が走った。



感電したように全身がビリビリとする。



おそるおそる服をめくると、腹直筋のド真ん中に拳大のアザがあった。




俺の反応を見て兵士はアッハッハと愉快そうに大声で笑った。



「あっちの彼も起こしてくるからちょっと待ってて」




兵士は内田の方にも駆け寄り、「おーいおーい」なんて言いながら顔をつついている。



「はッッッ!?」



ほどなくして内田の声が聞こえた。



いや、どんな起き方だよそれ。



そして兵士は俺にやったように内田に水を渡し、軽く話をしてから……また腹をつついた。




「ッッてぇ!!(痛え!!)」



内田の絶叫が部屋に響く。









「さてさて、既に日が沈んでしまった訳だが」



少し休憩したあと、俺達は立ち上がれるまで回復し、兵士から改めて説明を受けた。



「改めてまして、グルカ・スタンジアです。呼ぶときはグルカでいいよ!」



グルカ兵と同じ名前って、なんか強そうだな...


なんてことを思いつつ、俺達も返す。



「た、竹月です」



「内田っす!!」




「タケツキ君にウチダ君ね、よし覚えた」



2人を指差しながらグルカさんは首を縦に振った。





「じゃあ、まずはこの辺の土地の説明からしていこうか」







「ここは『エトリア共和国』南西部、『ウェストフォード』ってとこです」



「エト…はい」



日本じゃなかなか聞き慣れない言葉だなぁ…





...ていうかそんな国あったか?






「この街はエトリアの首都と第二都市を結ぶ道にあるので、人や物の移動に伴ってかなり賑わいます」




は床に指で2つ丸を描いて(跡は残っていないが)それを一直線で結び、その中間地点を指差した。




「第二都市は南にあって、ウェストフォードの辺り以外は山脈に囲まれています」



「なので2つの都市に行きたければここを通らなくてはなりません」



その中間地点がこの街なのだろう。



ここまで何となくで聞いていたが、積み重なっていく疑問を解消したくて俺は口を開いた。



「すみません、そもそもこの国は地球のどこらへんなのでしょうか…?」



どう見ても近隣国でないのは明らかだ。



でもおかしい。



日本じゃなかったら言葉が通じるはずがない。



「ちきゅう……ああ、そういうことね」



は納得したように小さく数回うなずいた。



「てっきり放浪でもしてるのかと思ってたよ。それじゃあ君たちも『彼ら』と同じなのかな」



一体彼女は何を言っているんだ?



『彼ら』って誰のことだ?




「『彼ら』ってのは誰のことすか?」



内田も全く同じ疑問を持っていたようだ。



あ、と思い出したかのようにグルカさんは俺達に顔を向け直した。




「ごめんね、急に色々言われても訳わかんないよね」




「えーっと…『彼ら』って言うのは君たちと同じところから来た人たちなんだけど…」



なんと言えばいいのか迷っているのだろうか。

言葉を一つずつ選んでいるかように少し考えている。



「『地球』とか『日本』ってところから来たんだよね、君たちは」




なんだ…?その言い方は…?



まるでここがそうじゃないみたいな言い方だが……



「『地球』も『日本』もこの世界にはないんだ」



「ここは君達の住む世界とはまるで別の世界だから」

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