スカウト??
「さて、到着した訳だが」
たどり着いたのは先ほどの巨大な建物。
入り口付近で2人の兵士が警護をしていたが、俺たちを先導している兵士の姿を見ると、すぐにさっと頭を下げて通してくれた。
ステンレス鋼の枠に囲まれたガラスの二重扉を押し、
入り口を通り抜けると、外装のイメージ通りの場所だった。
日差しがやや強く、暖かかった外の通りとは違い、ひんやりとした空気に包まれている。
職員達が規則正しく敷き詰められた大理石の床の上を慌しく動き回っており、その度にあちこちから、硬く、乾いた音がリズミカルに鳴っているのが聞こえる。
どっかの時代の宮殿の中みたいな室内に仕切りとなる壁や扉はほとんどなく、向かい側の壁が遠すぎて見えないほど広い。
ただ仕切りがないと周りの音がうるさいのでは...?
なんて事を考えていたらすでに兵士は少し遠くで受付嬢らしき人と話していた。
互いが軽い会釈をすると、兵士は
「おーい」と頭上に挙げた右腕を振りながらこっちにやって来た。
「今話はしておいたから、入館許可出たよ。さあさあ、ついてきたまえ」
兵士は壁に沿って歩いて行く。
そしてこの庁舎の隅にぽつんと立て付けられた鉄の扉を引き開け、中に入った。
少し後ろを歩いていた俺たちは、少し早歩きをして続いて中に入った。
扉の向こうは、小さな部屋だった。
砂色の岩を固めた壁に囲まれたこの部屋は、縦横2、3メートルほどの狭さで、ど真ん中に地下へと続いていそうな階段だけがあった。
「ちょっと狭いから気をつけてね」
兵士はそのまま階段を静かに降りていった。
数段下がった所で兵士の兜も暗闇で見えなくなった。
深い闇の中に吸い込まれて消えてしまったようで、少しだけ腹の奥が縮んだような気がした。
程なくして内田も小さく音を立てながら一段一段ゆっくりと降りていった。
この階段を降りた先に「何か」が待っているような予感がする。
別に俺達の命を脅かすような物ではないのだろうけど。
内田の背中が見えなくなる前に、俺も後に続いた。
長い階段をしばらく進むとやがて僅かに光が差し込んできた。
最後の一段を降りると、学校の教室よりも一回りほど大きな小部屋へ出た。
壁の材質が変わっている。
コンクリートのような色合いの壁にはところどころに照明が埋め込まれていて、地下なのに地上と変わらない明るさが保たれていた。
「さ、到着だよ」
ずっと先導して歩いていた兵士が立ち止まる。
「…ここで一体何を…?」
「入隊試験だよ」
兵士はそう告げながら兜を外した。
その下から艶のある金の髪とサファイアのように青い輝きを放つ瞳の女性の顔が現れた...
......。
俺達二人は驚きのあまり何も言えなかった。
時が止まったように沈黙が続く。
固まっていたのは長い間だったのかそれとも一瞬だったのか、ようやく俺は目の前の事実に対して反応を示せた。
いや女性だったんかい!!!
あと「入#隊__・__#試験」って何!?
俺は訳が分からず内田を見た...が、しかしこの男何も気にしていないような顔をしている→( `・ω・)
ていうかこれから何をするのかワクワクしているようだ。
呑気だね。君。
兵士は小さく金属音を立てながら胴体の装備を外していった。
そして肩まで伸びている髪を1つに結いた。
ちょうど街中でよく見る、フィットネスジムの広告に出てくるスタイリッシュなお姉さんのような姿だ。
素手に上下トレーニングウェア、そして冷たく硬いコンクリートのこの部屋で裸足、という姿になった。
「...死んだら不合格ね」
兵士がボソッと発した言葉を俺(達?)は聞き逃さなかった。
え?何なになに?
………死?
兵士は軽快なステップで地を跳ねている。
何か物凄く嫌な予感がする。
胃がきゅっ、と縮むような感覚だ。
口の中が乾いていくのを感じながら恐る恐る聞いてみた。
「あの、試験ってやつの内容は…?」
背を向けていた兵士がこちらを向いた。
青く澄んだ瞳がこちらをじっと見つめている。
その奥には、無邪気な子供が放つような歓楽と、相手を前にした戦士が持つような闘志か込められていた。