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沖縄・台湾侵攻2025 Easy Mode 完全版 Ver2.1  作者: しののめ八雲
少年は涙を流し、瓦礫を掴む
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連鎖する悲劇

さらに宮古島に近づいても、日米の迎撃機は出て来ない。白上尉は航空優勢の獲得を確信した。

実際この時、在沖縄の日米戦闘機は西日本各地に退避していたし、嘉手納、那覇基地は復旧作業中であり、台湾軍機が飛来してくるのは、もうしばらく後だった。


AWACSや、給油機もいったん美保や岩国、浜松に着陸して補給中だった。

本州の戦闘機部隊は、北朝鮮からの更なる巡航ミサイル攻撃や、万が一の空襲に備えており、南西諸島での迎撃戦に投入可能な戦闘機は存在しない状況だったのだ。


低空飛行中の爆撃機のやや上空を飛ぶ護衛機は、対空ミサイルを警戒していったん離脱していった。

無線を封止しているので、合図と挨拶を兼ねて翼を振ってから離れていく。

空軍所属のJ16のうち、2機は電子戦仕様のD型だった。

彼等は妨害電波を早い段階で放射していた。攻撃隊は、距離100キロで目標を捕捉していないにもかかわらず、YJ91対レーダーミサイルを発射した。

対空ミサイルがギリギリまでレーダーを発振してこない場合に備え、迎撃をさそうための囮だった。

だが、敵は誘いに乗らず、YJ91はあさっての方向へと飛翔していく。


旧海軍航空隊のJ16は、YJ12対艦ミサイルで宮古港内のフェリーや貨物船、巡視船を狙っていた。

別に沖縄諸島の海上交通網の破壊を狙っていたわけでは無い。

中国軍自身が民間船舶を使った上陸作戦や、海上民兵を多用するためだ。

敵も同じことを考えているに違いないという発想から、民間船舶であろうと、大型であれば海上輸送作戦に供されるとの判断からだった。


民間フェリーは、攻撃が近いと判断されて以来、全便欠航とされていた。

この時、港に居たのは身動きできなくなったフェリーが2隻と、中型タンカー、貨物船が1隻ずつ、海上保安庁の巡視船が3隻だった。

目標が港に停泊しているため、かなり接近しないと対艦ミサイルで捕捉できない。


J16はそれまで低空飛行を続けていたが、上昇に入る。

宮古島から25キロ地点で、高度6000メートルに達すると、対艦ミサイルは見事に目標の船舶と港湾の建造物とを識別してロックオンに成功した。

その時、待ち受けていた陸上自衛隊の高射隊、346中隊が温存していた即応弾で反撃を開始した。


すかさずJ16Dが、電波源を捕捉して対レーダーミサイルを撃ち込んだ。

妨害電波の出力も最大に上げる。

彼らは日本の防空部隊が電子戦部隊の増強を受け、ネットワーク電子戦システム(NEWS)で欺瞞電波を発振しており、対レーダーミサイルを欺瞞することを知らない。

第1波は既にその戦法に遭遇していたものの、全く気付いていなかったため、自分達の放ったミサイルが確実に03式やパトリオットのレーダーを直撃したと信じて疑っていなかった。


宮古島攻撃隊の電子戦機パイロット達は、同じく欺瞞電波に気づかないまま、4発のミサイルを発射した。

だが、そのうち1発は、運悪く本物のレーダーである、低空警戒用のJTPS-P18を直撃してしまった。


近くには、位置変更後に再起動したばかりの高射隊の中核レーダー、JTPS-P25も配置されていたから、18の方に命中していたのはまだ運が良かったかもしれなかった。

からくも被害をまぬがれた、探知距離300キロのJTPS-P25の探知開始により、宮古島の対空戦闘指揮システムは完全な能力を発揮しはじめる。


白上尉は、攻撃隊の無線封鎖が解除されるのを聞いた。

電子戦機は首尾良く対レーダーミサイルを放ったらしい。

旧海軍機の攻撃隊に続いてリーダー機が上昇を宣言し、白大尉も自機を追随させる。


その瞬間、電子戦パネルに未知のレーダーに探知されているという警告が表示され、警告音が鳴る。


旧海軍攻撃隊の8機は16発のYJ12を発射した。防空システムなど装備していない、民間船舶と巡視船に次々と着弾する。

だが、次の瞬間には、彼等は対レーダーミサイル攻撃後にもかかわらず、対空ミサイルのレーダーに捕捉された。


緊急回避機動を行うが、03式にとっては高度6000メートルで、かつ港に接近しすぎて目視で捉えることも可能な距離にまで近づいた彼らは、格好の目標だった。

電子戦機を含めた10機に対して、2発ずつ、20発の03式が発射される。

その結果、必死の回避手段にも関わらず、J16はD型を含めて7機が撃墜されてしまった。


後席員の黄中尉が切迫した警告を発した。

「上尉!電子戦機が2機ともやられたようです!先行した、旧海軍部隊もかなりやられました!」

「対空ミサイルか?」

「そうです!」

対レーダーミサイルが命中しても、敵対空ミサイルは未だに沈黙していない。

(隊長はどうするつもりだろう?)

上昇を続けながら、白上尉は黄中尉に武装のチェックを命じる。

「問題ありません。システムは起動済。4発とも、指定された座標が間違い無くインプット済です。」

これであとは、上空8000メートルから、4発のLS6滑空誘導爆弾を島から48キロ離れたところで投下するだけで良い。

あとは衛星誘導により、やはり偵察衛星で座標が確認された、敵の地下陣地に命中するはずだった。


高度8000メートルに到達する直前。ついにロックオン警報が鳴る。それでも隊長は回避を命じない。

その時には03式の最後の残弾4発が射撃されて、彼らに接近中だったが見ることは出来なかった。

「投下!投下!投下!全機回避機動!」

島まで40キロのところで、隊長は攻撃を命じた。

黄中尉は、リリースボタンを4連続で押して、4発のLS6滑空誘導爆弾を投下する。

それを確認すると、白上尉は激しい回避機動に入った。

二人のJ16はロックオンだけされて、実際にはミサイルは撃たれていなかったものの、他の2機が03式を躱しきれずに撃墜された。


彼等が投下した32発の滑空誘導爆弾は、北斗による衛星誘導が行われるはずだったが、北斗は完全に機能を停止しており、欧米と日本のGPSは中国側にシャットアウトされて使用出来なくされていた。

ロシアのグロナスは、予算不足の影響で稼働率が大幅に落ち、自国上空にしかいない。

要するに彼等の投下した爆弾は、沖縄本島での第1波の攻撃同様に、無誘導爆弾と化していたのだった。

それでもLS6は滑空を続けたが、殆どは宮古島の手前の海中に着弾した。


だが、それでも数発は宮古島に到達する。そしてそれらは、自衛隊の陣地とはまったく関係の無い場所に着弾したのだ。

その中には、市街地に着弾したものがあった。

さらにそのうち1発は、白上尉機が投下したものだった。

その1発は、よりにもよって民間人用退避シェルター(本格的な耐爆仕様ではなく、とある公共施設の地下室を開放した簡易なもの)を直撃し、そこに避難していた50人近くの避難民を殺傷してしまという惨劇を起こしたのだ。

奇跡的に生存していたうちの1人は、まだ2歳の下地里奈という幼女だった。


この悲劇は後日、花の行為が無ければ、313高射中隊の03式の迎撃で防げた可能性が高いとして議論を呼び、彼女の母を一生苦しめることになる。


白上尉も黄中尉も、正義感の強い人物だった。

例え憎き日米への攻撃であろうと、沖縄で迫害される同胞を救うためだろうと、民間人への攻撃を命令されるようなことがあれば反対しただろう。

しかし彼らは自分の放った爆弾が、民間人を多数殺害した事実には全く気付いていなかった。

おそらくは戦死したであろう4人の仲間の仇を、自分達の爆弾が取ったことを、ただ確信していた。


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