付帯被害
F22に奇襲されて大損害を出したJ16の旅団群のうち、もっとも深刻な被害を出したのは、東部戦区に所属する第7旅団と第78旅団所属機だった。
彼等に与えられた任務は、那覇基地、嘉手納基地の滑走路にダメ押しの爆撃を加え、燃料タンクに弾薬庫、管制設備、格納庫、各種車両を吹き飛ばして、基地機能を停止させること。
そのために2個旅団から、それぞれ予備の1個大隊を拘置し、残り2個大隊ずつ、合計4個大隊32機で滑空誘導爆弾による集中爆撃を行う作戦が立てられた。
弾道弾、巡航ミサイル、工作員による攻撃で、日米のレーダーと滑走路を潰しながら、その状況認識を混乱させる。
その上でJ20を投入して迎撃機を駆逐。
さらにJ16Dも加えた、SEAD/DEAD(敵防空網制圧/破壊)任務機で、地対空ミサイルを制圧した上での、とどめの攻撃になるはずだった。
特にSEAD/DEADが、1回や2回の攻撃で完了できるわけではないことは、胡中将も理解していた。
しかし、ある程度の損害は覚悟の上で、一挙に嘉手納と那覇に壊滅的な被害を与えることを狙ったのだ。
だが、2個旅団のJ16は最優先でF22の集中攻撃を受けた結果、壊滅状態に陥っており、既にその目論見は崩れている。
計画された通りに作戦が進展していないことは、混乱しつつも、生き残ったパイロット達には理解出来ていた。
このため、辛うじて生き残った両旅団の大隊長、中隊長は、これ以上の損害を被る前に任務を果たそうとする。
彼等は、防空制圧が効果を発揮する、しないにかかわらず、最大射程に達した段階で抱えていた滑空誘導爆弾の一斉投下を命ずると、反転離脱と上海方面への帰投を宣言したのだった。
その結果は、既にスタンドオフ兵器により始まり、沖縄で繰り返されることになる悲劇の典型だった。
北斗による誘導が行われないために、明後日の方向に誘導兵器群が着弾するのだ。
そして運が悪ければ、それは人口密集地に着弾することになる。
例外的に、第7旅団に所属する徐上尉の指揮する中隊は、独断で北斗による誘導をアテにせず、目視による精密爆撃を敢行しようとした。
だが皮肉なことに、彼等の判断と行動は結果として那覇市における最大の民間被害をもたらした。
それは以下のような経緯をたどることによって生起したのだった。