戦果誤認という最強の敵
結局、爆撃隊のJ16は、残存31機中、17機をさらに失った。
特に犠牲を覚悟で対空ミサイルとの撃ち合いに臨んだJ16D型部隊は、F22からの損害も併せて、隊長機も含めて殆どが撃墜。壊滅していた。
引き換えに爆撃隊は、嘉手納、普天間、那覇の各飛行場にそれぞれ10発以上のレーザー誘導爆弾の直撃に成功。嘉手納ではまだ無傷だった、2本目の滑走路にレーザー誘導爆弾を命中させ、日米の各種対空ミサイルのレーダー、3基を破壊。同じくランチャーを7基破壊することに成功していた。
さらに那覇基地では、上空退避が間に合わなかったP1哨戒機多数を、地上撃破することにも成功している。
第9航空団のハンガーは完全に破壊し、格納されていた在場予備機は壊滅させた。
加えて那覇港では、LCUとLVP、それに掃海艇を見つけ出し、数隻を撃沈していた。
だが、生き残ったJ16のパイロットの何人かは、離脱する時に目にした那覇と嘉手納の状態に違和感を持った。
(滑走路がもっと破壊されていると思ったが、割ときれいだったな)
激減した攻撃隊は、直掩部隊と合流すると上海に向かって帰投した。
さらに被弾していた3機が、途中で力尽きて海上に墜落していく。パイロットは脱出に成功していたものの、沖縄に近すぎて救助は絶望的だった。
運が良ければ、明日の上陸のため、最大速度で上海から先島諸島に向かっている海軍か、敵に助けて貰えるかもしれない。
F22の長距離攻撃と、無尽蔵にも思える日米の対空ミサイルの迎撃により、中国空軍の攻撃隊第1波は思わぬ大損害を出した。
制空隊と直掩の戦闘機には直接の損害は無かったものの、攻撃任務のJ16は100機中約60機を失い、虎の子のJ20は燃料切れで50機が海没してしまった。
だが、胡中将を初めとする中国空軍上層部も、柳少佐と同じような希望的観測をしてしまった。
彼等は航天軍の情報収集能力が低下したからといって、他の軍より低い戦果を報告することで、戦後の立場が弱くなることの方を恐れていた。大損害が出ているから、なおさらだった。
さらに旧海軍航空隊部隊の方が「ひゅうが撃沈確実」という、目立つ戦果を挙げたことも事態をややこしくしていた。
空軍生え抜きの部隊が、旧海軍部隊より劣る戦果を出すわけにはいかなかったのだ。
この結果、慎重な戦果判定の作業を経ることなく、希望的観測を大いに含んだ戦果報告が空軍から行われることになる。
翌日には上陸作戦が予定されていたから急いで情報を上げなければならない、という事情はあったにせよ、中国側に情勢判断の誤りが生じつつあった。
ようするに、過去、殆どの軍隊が逃れることの出来なかった、戦果誤認と希望的観測という罠からは、逃げるのが極めて困難なのだ。
著しい近代化を果たし、米軍に勝つための研究を尽くしたはずの人民解放軍もまた、例外ではなかったということだった。
これこそまさに「歴史は繰り返す」ということなのかもしれない。