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沖縄・台湾侵攻2025 Easy Mode 完全版 Ver2.1  作者: しののめ八雲
少年は涙を流し、瓦礫を掴む
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土下座

2025年4月2日 05:30 沖縄県庁付近


新垣達は空襲が始まると、那覇市内の自宅に帰ろうとしていた。

国道58号線は、避難しようとして防災無線の指示に従い、キーを置いたまま放置された車で一杯だ。

新垣達は単車だったから、放置された車の間をすり抜けて行く。


夜明けはいつもとまるで違った。さわやかなはずの空は、無数の飛行機雲に覆われている。

その景色には、不吉さと恐怖しか感じない。

鳥の鳴き声は聞こえず、代わりに聞こえるのは、いつものとは桁の違う数のジェット機の轟音と、ミサイルの発射音と飛翔音。

嘉手納と那覇の上で、飛び交う光が交錯するのが見える。あちこちから響く爆発音。そして、燃えながら落ちていく戦闘機らしきもの。

地上には繋がらないスマホを祈るように握りしめる人。

ところどころ停電もしているらしい。


新垣達に「建物に隠れろ」と忠告する者もいた。県知事が建設に反対したため、那覇市内にはシェルターが殆ど無いのだ。


実のところ、新垣は非日常感に多少浸っていた。だが、そんな気分は県庁近くまで来たところで消し飛んだ。


彼等は目標から逸れた弾道ミサイルが、住宅地に着弾した現場に出くわしたのだ。

暗くて進路に着弾があったことが分からなったが、晴れきれない着弾の煙と、散乱する破片で彼等はいったん停車した。新垣は本能的に周囲の様子を伺う。刺激的な火薬の匂いが警戒心を呼んだ。

道路沿いの乗り捨てられた車、標識といったものが、着弾の破片でハチの巣のようにボロボロになっている。

さらには国道沿いのコンビニが、アクセルとブレーキを踏み間違えた車数台に、まとめて突っ込まれたかのようにグシャグシャになっていた。

新垣はちょっとだけ、火事場泥棒を働こうという誘惑に駆られた。


だが、悪友の平良の声で我に返る。

「おい。ガッキー!あそこ!」

国道を挟んでコンビニと反対側のマンション。

そこは新垣と平良との共通の、小学校時代の友人が住んでいたマンションだった。

友人達と一緒に何度も遊びに行き、ゲームをして過ごさせてもらった思い出がある。

友人の母は、いつもお菓子を用意してくれた。

休日に遊びにいくと、いつもは居ない友人の父親が、眠そうにパジャマ姿のままで、文句も言わずに迎え入れてくれた。


なんですぐに気付かなかっただろう?その思い出の建物が、ミサイルを食らって半分崩れていた。友人とその家族が入居していた部分は、跡形もなく、沖縄の空に変わっている。

彼等は既に引っ越ししているか、避難していなければ、瓦礫の下ということになるのだ。


道路が車で埋まっているせいで、救助の人員は消防車とパトカーが1台ずつ来ているだけだった。


足元を見る。

飛んで来たコンクリートやガラスの破片と一緒に、マグカップや家電製品、枕、そして子供のぬいぐるみが散乱していた。

「・・・・!」

新垣達は普段の素行はけっして褒められたものでは無い。だが、そんな彼等に一つ美点を見出すとすれば、リーダー格の新垣がリーダーシップを良く発揮している点だった。

彼が先頭を切れば、仲間達は良くも悪くも大抵のことにはついて行く。


「お前ら行くぞ!ついてこい!」

新垣は瓦礫を撒き散らし、半分崩壊したマンションに駆け出す。

平良が叫ぶ。

「ガッキー!どうすんだよ!?」

「決まってんだろ!人命救助だよ!」


だが、彼等の行動は若い消防隊員に制止された。

「君達!どうしようって言うんだ!空襲はまだ続いてるぞ!避難しなさい!」

「うっせえ!どうみても人手が足りねえじゃないか!手伝ってやるってんだよ!」

「気持ちは分かるが、危険だ!下がってなさい!」

「危険だあ!?上等だよ!」


なおも進もうとする新垣は、隊員の鍛えあげられた腕に両肩を掴まれ、押しとどめられる。一歩も進めない。

「わかんねえガキ共だな!いいか!お前らみたいな、訓練も受けていない中途半端なヤツらに来られても、かえって迷惑なんだよ!はっきり役立たずって言って欲しいか!?お前らに一体何ができるっていうんだよ!!」

「・・・!!」


一瞬のうちに説得されたようなものだった。

体力の差は万の言葉よりも説得力があり、そして隊員の言葉は、普段押し殺していた新垣の図星を抉り取ったのだ。

新垣は隊員を睨みつけた。だが、次の瞬間涙を流すと、彼に土下座していた。


「お願いします!なんか、なんでもいいから手伝わせて下さい!自分が役立たずの半端者だってことは、自分で一番分かってます!

でも地元メチャメチャにされて、友達殺されたかもしれなくて、ただ避難してるだけだったら、・・・一生後悔するって思うんです!お願いします!この下には友達と、友達の家族がいるかもしれないんです!」

平良以下、11人の仲間も隊員に土下座する。

「俺らからも!たのんます!!お願いですから、何かやらせて下さい!」

「・・って、おいおい。マジかよ。」


若い隊員が困惑すると、そこへ年配の隊員が駆け付けて仲裁に入る。

「人手が足りないのは確かだし、そこまでされちゃあ、と言いたいが、お前ら分かってるか?この有様だ。

俺たちだってこんな現場は見たことが無い。今まで見て来た火事場や、事故現場とは比べものにならん。

一生忘れられない悲惨なモン見るかもしれんぞ。」

「言った通りです。ただ避難して後悔するよりいいっす!この有様じゃ、避難しても死んじまうかもしれないし。」

「分かった。だが、まず親御さんに連絡して了承をとってからだ。連絡がつかなかったら、とりあえず手伝ってくれて良いが、5分おきに連絡しろ。

親御さんが止めろと仰ったら、それまでだ。親御さんがダメだと言ったら、絶対にダメだ。

未成年のお前らを勝手に手伝わせて、それで何かあったら、俺たちは良くて消防をクビ。悪けりゃ逮捕だ。そこは分かってくれ。

それとな、俺たちの指示には従えよ。それが守れるんなら、手を貸してくれ!」

「ありがとうございます!」

「俺は斎藤だ。この若いのは我如古。君、名前は?」

「新垣っス!よろしくお願いします!」


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