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沖縄・台湾侵攻2025 Easy Mode 完全版 Ver2.1  作者: しののめ八雲
空を駆ける
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窮地

同時刻 久米島沖


沖縄沖のBMDグループが、瞬く間に対抗手段を失い、危機に陥りつつある頃。他の自衛隊部隊もまた、窮地に陥りつつあった。


久米島のレーダーサイトには、50発もの巡航ミサイルが接近していた。1カ所のレーダーサイトに対しては過剰と思えるが、中国は日米の迎撃能力を高く評価していたのだ。


アミーゴフライトのF15JSI、2個フライト8機は、橋本三佐がマスリーダーとして率いていた。

彼らは久米島の沖合に出ると、レーダーを作動させる。AN/APG82v1レーダーは、距離200キロで海上を低空で飛行してくる巡航ミサイル群を、いとも簡単に探知した。

橋本が呟く。「いよいよ実戦だ。」


AWACSからの指示に従い、橋本率いるアミーゴフライトは巡航ミサイルに対して、長射程のアクティブ・レーダー誘導式ミサイルのAIM-120D、32発を距離100キロで発射する。


橋本は夜間に強烈なミサイルの発射炎を見て、目をくらませないように部下に注意を促す。

基本的なことで、分かり切っていることだが、編隊長として注意すべき点は確実に押さえる。

まして、全員が初陣なのだ。緊張から信じられない凡ミスをしかねない。そのためにも「訓練通り」の手順を丁寧に踏むことが大切だった。

プロスポーツ選手が「練習してないことは、本番ではできない」と語るのと同じだ。兵士も訓練してないことは、実戦でいきなりできはしない。


たら、れば、無いものねだりは、パイロットとしては健全な思考ではないが、橋本はJNAAMの配備が実現していれば良かったと思った。


この日英共同開発の長射程空対空ミサイルは、2年前に試作が終了したものの、量産には至らなかった、いわば幻の空対空ミサイルだった。

本来なら中国側が、射程200キロもの空対空ミサイルPL15の配備を進めているため、これに対抗する意味もあって、最優先で先行量産型の配備が進んでいるはずだったのだ。


JNAAMは原型となる英国製のミーティアと、日本のAAM4Bが共に開発に苦労しただけあって、米軍のAIM260、中国のPL15と比べると射程は互角ながら、推進方式の違いにより、射程終盤での機動力では圧倒していた。

つまり必中距離が長く、AAM4から発展した高性能なセンサーを弾頭に持つ、世界最高の空対空ミサイルになるはずだったのだ。


開発が成功したとしてもF35用として開発されていた装備であり、F15JSIにまで回されていたかは不透明だったが、橋本はJNAAMにかなり期待していた。

だが現実は厳しい。諸事情によって、JNAAM試作だけで終わってしまっている。アメリカからAIM120の最新長射程版、D型が提供されただけも有難いと思うべきだった。


さらにF15の近代化改修計画においては、搭載ミサイル数の増加が検討されていたが、今の時点では実現しておらず、各務原の実験団にてテスト中だった。

これが実現し、自分達の乗機に実装されていれば、1機あたり8発のAIM120DとAAM4Bで、久米島への脅威は排除できていたはずだったからだ。

だが、今の橋本達には50発の脅威に対して、計画通りなら64発のAIM120DかAA4Bを撃てるはずが、32発しか無い。


同時刻 沖縄本島


沖縄沖の日米艦隊への300発、4カ所のレーダーサイトへの200発を差し引いた、700発の巡航ミサイルの本命は、沖縄本島だった。

これらはまず、那覇、嘉手納への追加の打撃を加えることを目的にしていた。

あわよくば弾道弾により、滑走路が使えなくなった戦闘機の地上撃破を狙っていたが、中国側にとって残念なことに、全機が空中退避済みだった。

さらに、民間も含めた通信インフラや、航天軍の衛星や現地協力者により、最後に確認された日米の迎撃ミサイルの陣地、その推定位置に対して指向されていた。

これらを徹底的に叩き、あるいは迎撃ミサイルを撃ち尽くさせて、後続の爆撃を容易にする作戦だ。

そう。中国軍は、日米の防空組織に対して、ミサイルよるアウトレンジ攻撃だけでなく、損害覚悟の航空機による爆撃で、一気にケリをつけるつもりだったのだ。


これに対して、航空自衛隊と米軍は迎撃に上がったF15J改およびJSI、F22の一部がAAM4B、AIM120C、D、AIM260を合計150発発射した。

PAC2、03式改、11式、基地防衛用誘導弾といった地対空ミサイル群は、日米合計で500発以上が発射される。運良く、短射程の93式や91式による迎撃に成功した例すらあった。


この結果、日米の地対空ミサイルには、殆ど被害は発生しなかった。

ギリギリまで位置を変更していたし、巡航ミサイルが命中したものの殆どは、精工なダミーだったからだ。

だが、民間の通信設備は大きな打撃を受けた。

嘉手納、那覇基地にも数発が着弾し、4カ所のレーダーサイトは、迎撃部隊の奮闘空しく破壊されてしまった。


中国空軍はこれだけの巡航ミサイルを撃ち込めば、空軍の沖縄攻撃隊第1派が侵入する時には、地上からの迎撃は不可能になると考えていた。

予備弾はまだあるだろうが、再装填を行う時間を与えないつもりだったのだ。

先島諸島へ向かう中国艦隊の巡航ミサイルは撃ち尽くしたが、H6の大編隊は再装填のため、内陸の基地へと引き返した。


2025年4月2日 04:26 久米島沖


アミーゴ2、3はAIM120Dで、久米島に向かう巡航ミサイルの内、約30発を撃墜することに成功していた。

残り20発の巡航ミサイルを撃墜しようと、正面からの位置取りに苦労しつつも、赤外線誘導方式の短射程のミサイル、AAM5を各機一発ずつ発射。これにより、さらに10発を撃墜した所で巡航ミサイル群とすれ違う形となり、反転して追尾に移った。あと10発。


橋本達には巡航ミサイルの後方に、敵の戦爆連合の大編隊が続いていることが分かっているから、巡航ミサイルを追って、いつまでも敵に背後をさらすのは危険だった。

敵の制空部隊はこのチャンスを突いて、圧倒的優位な態勢で襲い掛かってくるはずだ。

橋本は少し焦っていた。彼は戦況を良く理解している。久米島に迫る巡行ミサイルを素早く撃破しないと、後方から一方的に攻撃されかねないのだ。

おまけに彼等は、長射程ミサイルを撃ち尽くしていた。

このままだと敵戦闘機が出現したら、嬲り殺しにされる。


後方からAAM5の追従での最大射程に、敵巡航ミサイルを捉えつつあった時、突然後方警戒装置が作動。同時に電子戦パネルが警報を発した。

敵戦闘機のものらしきレーダーにロックオンされている。


後方は自機のレーダーの死角だが、友軍のAWACSが戦場全体を強力なレーダーでカバーしていた。

そのAWACSからのデータリンクでは、まだ周囲に敵戦闘機はいなかったはずだったのに。


ということは。


「クソ!ステルスだ!J20のおでましか!」

唐突に窮地に陥ったことを悟り、橋本は思わず叫ぶ。

よりによって最強の敵が、不意打ちで出現したのだ。


続いて、後方から空対空ミサイルらしき反応が接近してくる。距離は50キロ。


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