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沖縄・台湾侵攻2025 Easy Mode 完全版 Ver2.1  作者: しののめ八雲
南の島に降り注ぐモノ
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ごめんなさい。

着弾したのはDF16のEMP弾頭だった。空中で炸裂し、電磁パルスを撒き散らして、自衛隊側の電子機器の故障を引き起こすのが狙いの新型弾頭だ。

その炸裂は、中国側が期待したような現象は起こさなかったものの、二人の特殊部隊員にそれ以上の行動を断念させるには十分だった。


空中爆発が生じ、白神が後ろで「間に合わねえ!」と叫ぶのが聞こえた。

石橋は最後に「伏せて!」と叫ぶと、その場に伏せた。

花が困惑したように空を見上げて、立っているのが見えた。本命が着弾する。


閃光と、それに続いた轟音と衝撃に、花は思わず頭を手で覆い、身を屈めたが、それだけでは次の瞬間に起きることには全く不十分だった。


周りの全てが爆発した。花を中心に7発、少し離れて花が送った画像を元にした座標を中心に8発、宮古島に割り当てられた2個大隊分のDF16が、全て313高射中隊を狙って着弾した。

空中で炸裂した弾頭は、広範囲に破片を撒き散らし、木、車両、人間を引き裂く。


一瞬気を失った花は激痛で目を覚ました。立ち上がれない。上半身だけ何とか起こす。

何が起きたかまるで分からない。事故?天災?それとも戦争になった?耳が聞こえない。目もよく見えない。

手に持っていたはずのスマホは、どこかに飛んでいた。

見え始めた目に、あちこちから出血した自分の体が目に入る。ちょっとでも体を動かすと激痛が走る。

周囲の景色が一変していた。ゴルフ場の木々が枝という枝を吹き飛ばされて、殆ど根本だけになっている。そして、自衛隊の車両が炎上していた。

「え・・・?ウソ?これ・・・私がやったの?澤崎さんの言ってたことって・・。」


血液を大量に失った彼女の体は、猛烈な渇きを覚え、体内の酸素も絶対量が不足して心拍数が急上昇していた。息が苦しい。

救急車を呼ぼうと思う。だが、手に握っていたはずの久米のスマホは見当たらない。

バッグパックに放り込んでいた、自分個人のスマホの存在を思いだす。このところ久米のスマホばかり触っていたから、その存在を忘れがちだった。


電源が入り、もどかしくパスワードを入れる。画面のひび割れたスマホの電話は故障してしまったのか、つながらない。


急に母の心配そうな顔が浮かぶ。羽田で言われたことを思いだす。

「あんた、思い込こんだら、変に思い切りがいいんだから。変な人に騙されないようにね。何かするときは、立ち止まって。」

母の言った通りだ。

チャットと電話のアプリで、長らく続けていた母の着信拒否を解除した。

母に電話してみるが、やはり繋がらない。


チャットメッセージで母に「おかあさんたすけて」と送信する。送信待機中のシンボルが表示された。

急速に体の力が抜け、苦痛が薄らいでいく。こんな所で死ぬのは嫌だったが、もうダメだと思う。

花は最後に、これだけは母に伝えようと「ごめんなさい」とメッセージを送ると、全身の力を失って倒れた。


猛烈な衝撃波に気を失っていた石橋は目を覚ました。自分のボディチェックをする。左肩に傷。脱臼している。

白神に駆け寄る。負傷して気を失っているが、生きてはいた。顔を叩くと目を覚ました。


313高射特科中隊は壊滅していた。ミサイルが誘爆して手が付けられない。

退避の指示が功を奏して、死傷者が抑えられたことを祈るばかりだ。

目を覚ました白神は、石橋の脱臼の処置をした。



そして二人はようやく花に辿り着いた。辛うじてまだ息はあったが、一目で手遅れと分かる状態だった。

あちこち血に染まった彼女は、まだ幼さの残る顔立ちだ。

石橋はあきらめず、止血バンドを取り出して、彼女の出血部位の近くを縛って出血を抑えていった。

白神は無駄だと思うが、生理食塩水の滴下も開始する。

点滴に必要な高さを維持する代わりに、空気圧を利用する加圧バッグを使用した。

奇跡的に花の意識が少し戻る。目は開かない。耳はわずかに聞こえるようだ。

「誰・・・?」

「救急隊だよ。八木花さん!もう大丈夫だから!気を強く持って。助かるから家に帰ろうね。」

「ダメ・・・。お願い。お母さんに伝えて。お母さんの言ってたとおりだった。ごめんなさいって。

会いたいよ・・。痛いよ・・。自衛隊の人達にもごめんなさいって・・。こんなことするつもりじゃなかったの・・。私、こんなに馬鹿だったんだ・・。」

「八木さん頑張って!きっとお母さんに会えるよ!俺たちのことはいいから!」

「水・・・。水飲みたい・・・。」


花の訴えを聞いた石橋は目を見開く。自分達の処置では手に負えない。だが、313中隊の衛生隊員は自分達の処置で手一杯だった。ここから搬送しなければ医官も居ない。

石橋は白神と目を合わせる。相棒は目を閉じて首を振った。


石橋は努めて柔らかい声で話しかける。

「分かったよ。すぐだから待っててね。今痛くなくするからね。」

そうして彼は、膝枕を作って花に楽な姿勢を取らせると、先にフェンタニル鎮痛剤を注射してやってから、水筒を取り出した。

石橋は彼女の頭を起こし、白神がキャップに水を入れ、慎重に口に含ませた。

辛うじて花には水を嚥下する力が残っていた。

「ああ。ありがとう・・。おかあさん・・。」

「楽にして。もう喋らないで・・。」


そして花は息を引き取った。奇跡を信じて心肺蘇生も行ったが無駄だった。

彼女が持っていたスマホの画面が故障のためか、設定がそうなっていたのか分からなかったが、待ち受け画面になっていなかった。

石橋が手に取ると、メッセージアプリの画面が表示されたままだ。最後に母宛てにメッセージを送っていたらしい。

妨害電波や通信施設の破壊で、通信状態は既に混乱しているだろうに、メッセージは届いていた。

そして石橋は最後の二つのメッセージに、既読が付く瞬間を見てしまった。

それを最後に花のスマホは、持ち主の後を追うように停止する。


2人は花の手を組ませて安置すると、死亡時刻を記録した。訓練通りに冷静な行動が出来たのはそこまでだった。二人はヘルメットを脱ぐと、石橋は地面に、白神は近くの木にそれぞれ叩きつけた。

そこへ米軍組が、窓ガラスと幌がボロボロになった高機動車で駆け付ける。

思うところはあったが、今や313中隊の支援が最優先だ。


夜はすっかり明けていた。石橋と白神には、沖縄の澄んだ青空が恨めしかった。


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