表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
沖縄・台湾侵攻2025 Easy Mode 完全版 Ver2.1  作者: しののめ八雲
南の島に降り注ぐモノ
72/221

チキンラン

2025年4月2日 04:30 宮古島



特殊作戦群に所属する石橋一等陸曹は、臨時編成の日米合同特殊部隊チームの一員として、高機動車の助手席に座っていた。

車内には5人が乗り込んでいる。同僚の特殊作戦群の白神一等陸曹、米軍のDELTAの隊員が2名、指揮と情報収集を担当するISAの隊員が1名だった。


任務は敵の誘導・破壊工作員の排除。


彼等はまず、隠密上陸してきたつもりの中国軍特殊部隊を、水陸機動団レンジャー小隊の支援を得て、待ち伏せで殲滅していた。

敵は海上民兵の偽装漁船や、潜水艦から水中スクーターを使用して進入してきたが、ISAの無線傍受と海上自衛隊の監視によってモニターされており、その行動は予測可能な域を出なかったのだ。


その後の任務は、マスコミを刺激しないように泳がせておいた、無自覚な工作員と化した民間人と、古くから存在する筋金入りの過激派の確保だったが、ここで予定外の事態が起きた。


確信犯で中国に協力する過激派の確保は、遥か以前から彼等を監視してきた公安に譲っていた。

だが過激派連中は、いつの間にか中国が密輸した武器で武装しており、予想外の抵抗にあった公安は被害を出した上に目標の逃走を許してしまった。


彼等は消音装置付きの自動小銃だけでなく、レーザー誘導装置等の機材まで所持しているのを目撃されており、急遽石橋達が投入された。

もはや手段を選んでいられる状況では無く、総理大臣の許可に基づき、日米合同特殊部隊は見つけ次第「日本人」である彼等を射殺した。余裕がある時は説得を試みたものの、返答は銃撃だったのだ。


だが、本来の予定だと2日の0時までに、民間人のターゲット全員を確保するはずだったものが、タイムスケジュールに大幅な遅れが出ている。


ISAの隊員「レイ」は、高機動車の後部に機材を持ち込んで、主に自衛隊や米軍の位置と写真をSNSにアップしようする人間の通信を、逆探知して位置を特定していた。


チームは「レイ」の指定する場所に乗り込んでは、目標を拘束。所持していた中国製スマホを片っ端から破壊していった。

中国製スマホは証拠品にもなるが、今の状況では破壊した方が得策だった。

2週間前に那覇市内でISAの隊員が、「いんでぺんでんと・おきなわ」関係者が所持していた件のスマホを、スリ紛いの行為で奪取していた。


それはアメリカ本国に送られ、解析にかけられていた。

不審な中国製アプリの一部は断片的なデコードに成功しており、ソースチェックの結果、遠隔操作機能やバックグラウンドで位置を中国側に報告する機能、ミサイルの誘導電波を発振する機能が組み込んである疑いがあった。

通常の通信ではまず使わない、強力な通信デバイスも組み込んであった。誘導電波の発信に使うのだろうと推定されている。


「レイ」は「奴らは遠隔操作でスマホからミサイルの誘導電波を、短時間でバッテリーを使いきるくらい派手に発信させて、手なづけた民間人協力者もろとも攻撃するつもりなんだろう。

巡航ミサイルなら、ここの防空砲兵でも対処できるが、弾道弾だとやっかいだ。この島にはPAC3は無い。」と言っていた。

澤崎青年の証言で、中国側の意図は裏付けがさらに取れている。

彼によれば、学生サークルとNPOの人間のうち、危険なスマホを持って宮古島に入ったのは17人だった。

石橋は澤崎がもっと早く中国を裏切ってくれれば、とは考えない。

どの道困難な任務を与えられ、どんなに状況が悪化しても、冷静に最善を追求するのが特殊作戦群だった。

中国の攻撃開始には間に合わなかったが、他のチームと警察の活動、澤崎の呼びかけと、彼がもたらした連絡先を使った説得による自主投降によって、13人の身柄を確保していた。

これであと4人。



最後に確保したNPOの人間によれば、Jアラートは作動せず、ニュースサイトには接続できなくなっていて、彼等は中国が攻撃してきたことに気付いていなかった。例の中国製アプリには、そんな器用な真似まで出来るらしかった。

残りの4人はこの期に及んでも、中国は平和的な国で、自衛隊と米軍の方こそ事態を悪化させていると信じているらしい。


うち3人は当面は無害な場所から動いていない。しばらくは放っておいて良い。だが、八木花のものだと特定できているスマホの探知だけが出来ていないのだ。

中国側は位置報告アプリを逆探知されていることに気付いて、止めていた。

しかし素人の彼等は、通信を中国側に控えるよう促されてもピンと来ておらず、無駄な通信と通話で位置を簡単に暴露している。


それでも花の位置だけが分からない。最後に探知した場所には、空のテントがあるだけだった。

徒歩以外に移動手段も無く、そう遠くには行っていないと思われた。


花は中村と別れたあと、念のため持っている二つのスマホの電源を落としていたのだ。

今、彼女は中村と別れた場所から5キロ分歩き回ってから、ゴルフ場の敷地内に不法侵入して、コースの中の林に潜んでいた。

夜が明けつつあり、鳥がさえずり始めている。


空気は澄んでいた。綺麗な沖縄の夜明けになりそうだった。暗闇の中で一人じっとしていたから、夜明けがなんだか待ち遠しい。鳥達が活発に鳴き始める。

ふと「こんな綺麗な場所に、一人で私何やってるんだろ?お母さんどうしてるかなあ?」と思う。

次の瞬間頭を振る。いやいや何考えてるのよ。私が小田君と青池さんの仇を取るんだから。


その時、ゴルフ場に自衛隊の車両が入ってきた。

小銃を構えた隊員達が車から降りてくると、周囲に怪しい者がいないか点検している様子だった。花は息を潜め、じっとしていた。

しばらくすると、前日に写真で見たミサイルの車両が入ってきた。

「やった!レアキャラゲット!確か03式ってヤツよね!」


周囲警戒の隊員が遠ざかるのを待ってから、写真を撮影しようとする。その間に03式はアウトリガーを展開し、電源車からの電源ケーブル接続を開始していた。

スマホの電源を切っていたことを忘れていた彼女は、あわてて中国製スマホの電源を入れて、全てのアプリを活性化させる。

そして指示通りに慎重に移動しながら、3枚の写真を暗視モードで撮影して、中国のSNSにアップした。

すると今までに無い物凄い反響が即座にあった。閲覧数といい、花の行動力を賞賛するコメントといい、信じられない勢いで伸びていく。

花はここまで来て良かった、今まで全てが報われたと思う。反響が、中国サイバー戦部隊のロボットによるものとは、全く気付いていない。


クールな「レイ」が淡々と事態急変を告げる。

「彼女の反応が現れたぞ、ゴルフ場の北側だ。近くにハイ・バリュー・ユニットは?」

「待ってくれ・・・。高射特科の中隊が居る。」

「なんてこった。防空砲兵か。すぐに退避させろ。・・まずい。向こうのSNSに写真をアップされた。これなら標定できるぞ。」

ノートPCを見つめながら、レイが相変わらず静かに告げる。


それまで英語で会話をしていた石橋は、日本語で313高射中隊との無線交信を開始した。


「緊急。緊急。緊急。朱雀4、朱雀4。甲賀、オクレ」

「甲賀、朱雀4。オクレ」

「緊急事態だ。君達は標定されたぞ。直ちに現位置からの撤収を勧告する。オクレ。」

「了解。直ちに撤収する。オワリ。」

その間にも高機動車を運転する白神は、アクセルベタ踏みでゴルフ場に向かっていた。


何故か自衛隊は、今までとは逆の動きを始めた。まるでDVDの逆戻しを見ているようだった。

見つかったらマズそうなので、彼女は移動していない。

何か違和感があった。(スマホがなんだか熱くなっている?)バッテリーも急に減った気もする。故障だろうか?

電源を入れてから、知らない相手からの電話やメッセージの通知が、頻繁に来ているせいだろうか?

その時、少し離れた場所から、交通事故のような音が聞こえた。


高機動車はゴルフ場のフェンスを突き破って、強引に敷地に侵入した。

「ダメだ。誘導電波を発信している。こんなに強力なのか?ゴッド(白神のこと)、電子戦部隊に電波妨害を要請してくれ。カズ、(石橋のこと)行けるか?俺たちはここ。彼女は多分ここだ!」

「レイ」が示した地図を石橋が確認すると、DELTAの「ダッド」が最悪の事態を告げる。

「Jアラートだ。弾道弾が先島諸島を狙ってるぞ!」

「くそっ。俺に任せろ!皆は隠れていてくれ!」

「防空砲兵にも撤収を中止させて退避させるんだ。」

「俺も行くぞ!」

彼等は、花が自分では何をしているのか、理解していないことを知っている。過激派と違って射殺など出来はしなかった。むしろ救助すべき対象としている。

白神はギリギリまで高機動車を走らせてから停車させた。アメリカ側の3名は、その下に隠れた。

石橋は高機動車を降りて、銃も持たずに林の中へ突っ込み、風のように走った。

無線交信を終えた白神も後に続く。弾着までは、僅かな時間しか残されていないだろう。

花との距離は、約300メートル。


自衛隊員達が大慌てで「退避!退避!」と叫びながら車両の下に潜りこみ始めた。

「なんだろう?」

花はスマホの異常と彼等の様子と、さっきの音に困惑していた。

さらには誰かが自分を呼びながら、すごい勢いで林の中を走ってくるのが見えた。

「え?何?何?」


石橋は林を全力疾走しながら大声を張り上げる。

余程鍛え抜かれた、心肺機能の持ち主だけに可能な荒技だ。

「八木花さん!聞こえてますか?聞こえてたらよく聞いて!いいですか!スマホを遠くに放りすてて、その場に伏せなさい!お願いだから僕らを信じて!」


暗くてよく分からないが、近寄って来るのはどうやら自衛隊の人間らしい。

何と言ってるのか良く分からなかったが、思わずスマホを握ったまま逃げようとした時、空が光った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ