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沖縄・台湾侵攻2025 Easy Mode 完全版 Ver2.1  作者: しののめ八雲
カウントダウン
62/221

梯子外し

2025年4月1日 22:00 宮古島

 

花は入江湾近くの茂みに、目立たないようにテントを張って待機していた。

SONのメンバーは、全員がゲストハウスを今朝チェックアウトしている。

石垣島の事件を受け、自分達にも弾圧の手が及ぶのではないかと思ったからだった。

彼等は二人一組のペアになって、島のあちこちに散っている。花は自分で見当をつけた、入江湾近くのゴルフ場で、自衛隊の部隊がやってくるのを待ち構えていた。

テントで長時間過ごすのは、去年の夏の「合宿」で経験済だ。


同学年の中村という、ゆるふわ系の少女と一緒だった。

花はスマホのバッテリーの残りを気にしつつも、石垣島の事件の動画と、独立宣言の動画をSNSで方々に投下していた。

自分でも繰り返し見ている。


小田と青池が亡くなったということは信じられないが、同時に激しい怒りを感じていた。仇をとってやる、とすら思う。

サークルのビジュアル面での広告塔で、何かと周囲にチヤホヤされていた青池に対しては、嫉妬もあったので、内心の一部には「ざまあみろ」という気持ちもあった。

小田に対しては純粋に悼む気持ちしかない。去年の夏に船舶免許を取る話を彼がしていたのを思い出す。それがこんなことになるなんて。


そう思った直後、花は自己嫌悪に陥る。

今までに無かったことだ。

(今、私、青池さんに「ざまあみろ」って思った?私、何てことを思ったんだろ。どうかしてる。。。)

実際、過激な行動の連続と、荒れるネットにどっぷりハマっているせいで、彼女の精神衛生は不健全だった。自分でも東京に居た頃より性格が荒んでいると思う。

気が付けば、常にネットで誰かを罵倒している毎日だ。

それが、見知らぬ人間でなく、身近な仲間にまで及んで花は今更ながらに思い知る。


それでも懸命にSNSへの発信を続ける横で、マイペースに過ごしていた中村が声をあげる。

「あ、グループに澤崎さんの投稿だー。良かったー、無事みたい。今から澤崎さんも記者会見するってー。すごいね。リンクが送られてきたよー。」

「本当!良かった。澤崎さん急に連絡が取れなくなってたから、心配したよ!」

「ねえねえ、花ちゃん。聞いちゃうけど、花ちゃんも他の人みたいに、お母さんと縁切っちゃうのー?皆それが真の親離れみたいに言ってるけど、どうなのかなあ?」

「うーん。中村ちゃん、ふわふわしてるのに、痛いとこ突いてくるなー。

正直、お母さんには言い過ぎたと思ってるんだよね。

まがりなりにも母子家庭で私を育ててくれて、大学行かせてくれたわけだし。

本当は感謝したいんだけど、・・・照れくさくて言えたことがないんだ。

あと、自分でもすぐカッとなるのは、良くないって最近じゃ思ってるし・・。」


それを聞いた中村は、嬉しそうに花の頭を撫でる。

「えらいえらい花ちゃん。大人になりましたねー。

そう思ってるなら、お母さんに早くごめんなさいしよー?お母さんもきっと、水に流してくれるよー?

大事な事は直接、早く言わないとダメだよー?言いそびれたまま、言えずじまいってこともあるんだからー。」

「もう!ふわふわした口調で、重いことを・・。

でもそのためにも、まずは戦争を止めないとね。このまま沖縄が滅茶苦茶になったら、私達、家族と会えなくなるかもしれないし。」

「そっか。そうだね・・。」


2人の会話はそこで中断した。澤崎の記者会見が始まったからだ。


リンクを開いた彼女達に対して、画面の中の澤崎は期待とは正反対の内容を喋り出した。



2025年4月1日 22:00 那覇駐屯地


南西方面統合任務部隊司令部は、陸上自衛隊那覇駐屯地内にある。

元々地下耐爆指揮所が新設されていたが、半年前に2カ所が応急で追加されていた。通信インフラと耐爆性能は劣るが、場所をマメに変更しなくては位置を特定されてしまう。


指令の有坂陸将は、今どちらの指揮所にも入らず、南西方面集団本部の建物に戻って来客対応中だった。


来客は沖縄県知事だ。


本部建物の事務スペースでは、指揮所に収まりきらないスタッフが方々と連絡調整を行っていた。

部隊の展開だけでなく、中国の侵攻が現実味を帯びるに従い「国民保護」任務に伴う連絡調整が急増しているのだ。

指令室に向かおうとした有坂は、そうした臨時事務スペースで知事と出くわした。


知事の用件は、一言で言うなら「自衛隊の行動を即刻中止しろ」だった。

彼は従来からの自分の主張をまったく変えず、県民に避難勧告を出すこともしていない。

各市町村からの悲鳴のような要望、要請も「考えすぎ」「杞憂」「かえって危険」だと無視していた。

そして毎日のように、政府に中国を徒に刺激する行動を中止するように要請しては、却下されると、今度は那覇駐屯地にやって来て、南西方面統合任務部隊司令部に直接乗り込んで、司令にあれこれとクレームを入れる行為を繰り返していた。


司令部のスタッフは、この期に及んで見当外れのクレームを繰り返す知事に、怒りを通り越して呆れ果てていた。

有坂は部内でも紳士的な人物で知られている。本当はそれどころでは無いのだが、知事をぞんざいに扱わず、対応のためにわざわざ立ち入り禁止の指揮所から司令部まで出向いてきたのだ。


臨時事務スペース近辺で有坂に会った知事は、応接室への案内を無視し、その場でいつもの抗議を始めた。

今日は「石垣港で二人の若者が亡くなる事態となったのは、君達自衛隊の行動に責任がある」とまで言って来たのだ。

言われた有坂は平然と聞き流して知事を宥めていたが、傍で有坂と知事の会話聞いていた、第1ヘリ団からの連絡要員である木村二尉は、血の気が引くほどの怒りを覚えた。


その時、事務スペースのテレビが臨時ニュースを流す。

事態急変かと全員がモニターに注目したが、そうではなかった。澤崎拓哉と名乗る若い男の緊急記者会見だった。


その会見を眺めていた沖縄県知事は、ワナワナと震え出した。


会見の内容は以下の通りだった。

・自分は沖縄の大学でサークル活動を主催していたが、このサークル「SON」は中国の情報機関にコントロールされており、サークルメンバーは無自覚に中国の工作活動に従事している。

・その一環で今朝、サークルに所属する2名が謀殺された。あれは中国による自作自演で、止めることが出来なかった自分も、二人の死に責任がある。二人とその家族には謝罪の言葉も見つからない。もっと早く自首して、このように真実を公表するべきだった。

・そのほかの「いんでぺんでんと・おきなわ」他、当初は環境保護等の活動をしていたNPOが、沖縄独立を主張し始めたのは、全て中国の陰謀で、今の彼等は中国の攻撃を手伝わされている。

・自分が知る限りでは、中国は本当に攻撃してくる。中国の情報機関は宮古島、石垣島、与那国島にサークルのメンバーを派遣するように指示してきた。ということは、この島には攻撃が予想される。

・サークル、NPOのメンバーに告げる。あなたがたは中国に騙されている。自分の身を守るためにも、家族のためにも、無自覚に沖縄の人々を危険にさらさないためにも、いますぐ警察に出頭して欲しい。特にサークルメンバーには今まで騙して来たことを謝罪する。

・李と名乗る者を含め、大学と県内に留学生を名乗るスパイが多数存在する。

・沖縄県知事へ、あなたの認識は事情を知っている自分からすれば、完全に誤っている。今からでも遅くないから政府と自衛隊に協力して、県民に避難を呼びかけて欲しい。謝れなんて言わないから。

・今更自分が記者会見を開いたのは、数年前に中国に罠にはめられ、ひき逃げ事件を起こしてしまい、弱みを握られていたからだ。

こんなことになるまで、自首せずにいて国民の皆様と、自分が轢いてしまった方と、そのご家族には本当に申し訳ない。

・自分が言えることでは無いが、沖縄の自衛隊員、警察官、海上保安官の方達へ、どうか沖縄の人々を中国の攻撃から守って下さい。


会見が終わると、沖縄県知事は震える声で

「嘘だ。こんな会見は出鱈目だ。彼はいったい何を言ってるんだ・・。」と繰り返し、司令部から出て行った。

取り巻いていた県の職員は、ここぞとばかりに歩きながら、知事に考えを変えるように説得している。


木村二尉は、上官の江間二佐に話かけた。

「何というか。ここまでになっても知事は認識を変えないんですね。」

「君は若いからピンとこないかもしれんが、あのくらいの歳になると、誰が見ても間違っていて、自分でも間違っていると分かっていることでも、認めるのが難しくなるものだよ。

それまでの人生経験が邪魔をする。

それまで成功してきた人間は特にそうだ。破滅するまで過ちを認めないことだって珍しくない。良く覚えておけよ。」

「そんなものですか?」

「これが歳喰うと頭が固くなる、という話の具体例さ。

大半は中年以上の男が素直に間違ってました、済みません、と、一言いうだけで事態は改善する。夫婦喧嘩、家族喧嘩の原因は大抵そうだ。

だが、これがなかなか難しい。私だってカミさんにはさっさと謝れば良いものを、ケンカを引っ張ってしまうからね。」

それを聞いた木村二尉は、(そういえば、江間二佐も、有坂陸将も恐妻家だったな。二人とも「嫁さんという本物の暴君に比べれば、知事のクレームなんてかわいいモン」とか言ってたっけ)と妙なことを思い出した。


江間二佐はさらに続けた。

「後は、そうだな。例えばだ。木村二尉。君は防大の校友会はサッカー部だったな?」

「はい。そうです。」

「あまり無いとは思うが、ゲーム中に対戦相手がルールを曲解し、反則を繰り返したとする。君はどうする?」

「審判にクレームを入れます。」

「審判も同様にルールを誤解していたら?」

「そうですね。ベンチに居る仲間に、ルールブックか、無ければネットで根拠となるルールを探してもらいます。見つかり次第、タイムをかけて審判に示します。」

「なるほど。それで、相手と審判が間違いを認めて、謝罪して来たとしよう。君はどうする?」

「は・・・?次から気を付けてくれと言って、ゲームを再開します。」


「そうだ。私だってそれで済ますだろう。

だが、「ある種」の人間は、それでは済まさないのだ。

非を認めたら、相手チームが解散するまで、さらなる追い込みをかけたり、特権的な立場を得ようとする。酷い場合は、最初から反則というものが無くても、最初から相手チームを解散させることが目的で、隙を狙っては批判材料を探している。

そもそも建設的にプレーを楽しもう、という姿勢では最初からないのだ。」

「はあ・・・。」

「そして、彼等は周囲全てが自分達と同じように考えている、と思い込んでいる。

したがって、「誤りを認める」ということは自殺行為になるので、決してしてはいけないことなのだ。彼等の中では。」

「そんなものですか?」

「うん、君はまだそういうタイプに出くわしたことが無いんだろう。この手の人間に「とりあえず謝って済ます」というのは逆効果になる。気を付けろよ。」


木村は上官の話を聞いて、沖縄県知事はどっちだろうと思った。最悪、江間二佐の例え話双方に該当するかもしれない。

(ちなみに江間は「ある種」の人間、と発言する直前まで、「程度の低い」人間と言いかけ、言葉を選んでいた。そのまま発言しては、沖縄県民が「程度の低い」人間を知事に選んだというということになり、失言になってしまうからだ。)


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