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沖縄・台湾侵攻2025 Easy Mode 完全版 Ver2.1  作者: しののめ八雲
カウントダウン
56/221

猿芝居

夜勤明けの残業でへとへとになった真紀子が、ようやく眠りに落ちる頃、中国本土では人民解放軍ロケット軍に所属する弾道旅団群が、発射体制に移行しつつあった。


人民解放軍は、ウクライナ戦争初期におけるロシア軍の失敗を詳細に分析していた。

最大の失敗の一つは、貴重な弾道ミサイル、巡航ミサイルを初期段階で集中運用せず、しかも無闇に民間目標にまで使用範囲を広げ、目標の選定も作戦の経過と共に、いい加減なものになったことにあった。

民間施設が目標にされたのは、ウクライナ国民の戦意を挫くという理屈があったのだろうが、かえってウクライナ国民の怒りと団結を呼び起こし、西側諸国の支援を強化するきっかけを作っただけだった。


ロシアが期待した、国民の戦意を挫くような民間への無差別攻撃は、それこそアメリカやイギリスが、かつて日本やドイツに対して行ったような規模。

すなわち一晩で1都市を灰塵に帰して、10万人単位の民間人を引き裂き、圧し潰し、焼き殺し、地下壕で窒息させ、蒸し焼きにしたような、無慈悲な規模で行えば達成できたかもしれなかったが、それほどミサイルの数は無かった。

このため、開戦から半年で3000発ものミサイルを投入したにもかかわらず、中途半端な運用に終始し、ウクライナの受けた損害は彼等の許容範囲に収まっていた。


備蓄していたミサイルを使い果たした後は、電子部品の調達に苦労して新規生産が思うようにすすまず、なんとか生産した巡航ミサイルは生産したそばから投入され、ウクライナの民間インフラを痛撃した。

しかし、それも2022年後半からは、西側からウクライナに対空ミサイルが提供されるようになったことで、戦略的な意味のある攻撃では殆どが迎撃され、イラン製自爆ドローン共々、殆ど戦果をあげられなくなった。

いまでは無差別攻撃すら滅多に成功しなくなっている。


中途半端に民間目標を攻撃せずに、政治および軍事目標に使用を限定して、初期段階で集中投入すべきだったのだ。


人民解放軍はロシアの踏んだ轍を踏まぬよう、ミサイルを開戦初期段階で最重要の軍事目標への集中投入という方針を固めていた。

実に保有する弾道弾の7割を開戦と同時に投入してしまう計画だ。戦果確認の後、開戦から24時間以内に残り2割を投入し、最後の1割を予備として残す方針だった。


だがミサイルを運用する、当の中国人民解放軍ロケット軍には独自の目論見があった。


彼等は保有するミサイルを打ち尽くせば、新たなミサイルを再生産する10数年の間、彼等の持つ抑止力は失われるだけでなく、その間に新たな戦争が起こった場合に役割を果たすことが出来なくなると考えていた。


それでは、台湾・沖縄後のロケット軍の立ち位置が危うくなってしまう。

かといって今回の戦争において、初期段階におけるロケット軍の活躍が戦局を決定的なものにしなければ、そもそもの存在意義に疑義を呈されるだろう。

隙あらば自走式短距離弾道ミサイル部隊を、陸軍に編入しようとする策謀にも警戒していた。

自分達を下部組織のように見たがる航天軍への反感もある。航天軍のロケット開発技術が無ければ、ロケット軍は装備を得ることが出来ないからだ。

特に航天軍はこの戦争の後、ロケット軍が戦力を回復する間に宇宙開発を活発化させることで、党と人民の支持を受けるだろう。

共産党は最大の保険として、ロケット軍の運用する核弾頭を最重視していたが、ロケット軍自身はそれだけで人民解放軍内部での立ち位置が確保されるとは考えていない。


本音は他の軍と中央軍事員会にはとても口に出来ないが、戦力は出し惜しみつつも、4軍の中でも最大の功績を挙げることを狙うこと。その点の思考に最大の努力を向けていたのだ。

張中将を始め、上海統合司令部の面々はロケット軍の本音に気付いていない振りをしながら、できるだけ沖縄と台湾に弾道弾を撃ち込ませようとした。

いや、張に関しては調整に苦労した風を装いつつ、最初から決めていた落しどころに落としていた。

各軍の留飲を下げるため、喧々諤々の議論をやりたいだけやらせてから、軌道修正して仲裁に入ったのだ。


お互いに頭に血が昇って、引くに引けなくなった高級指揮官達には、張が良いタイミングで「決め」を行ってくれたように見えたが、本人にしてみれば茶番にして無駄な手順でしかなった。

作戦が始まったら、こんな面倒な手順を踏んでいる暇は無くなる。そういう意味においてだけは、張はさっさと作戦が始まって欲しかった。


ロケット軍司令部としては、200発ある大陸間弾道弾=ICBMの使用は論外だった。これを撃つ時は、アメリカとの全面対決に陥った時だ。

500発ある中距離弾道弾=IRBMも、大量破壊兵器弾頭を中心に、インド、韓国、ベトナムを始めとした隣国、東南アジア諸国、そしてロシアへの抑止力の維持、あるいはハワイまで攻撃する事態を考慮に入れれば、温存しておく必要がある。

特に米軍基地の存在する韓国とフィリピンは、強く牽制しておく必要があった。


残るは輸送起立発射機=TELの車両数にして750両。再装填分も含めて3000発にもなる、準中距離弾道弾=MRBM、短距離弾道弾=SRBM、それに地上発射巡航ミサイル=GLCMと、対艦弾道ミサイル=ASBMだった。

これについてもロケット軍は、ベトナム、韓国他の諸国への抑止として、500発の温存が必要と主張した。さすがに他の軍から抗議が出たが、張が最終的に中央軍事委員会に最終判断を仰いだことによりTEL700両と、ミサイル2700発が投入されることが決まった。

残されるのはMRBM用のTEL50両と、化学弾頭、核弾頭を中心とした300発だった。


沖縄にはMRBM750発が250両のTELから3波にわたって発射されることになった。

台湾にはSRBM、GLCMを中心に、1850発だった。

これには、爆撃機、艦艇から発射される巡航ミサイル、対艦弾道弾は含まれていない。


第1撃として、SRBM、GLCMは500発を台湾に指向する。

250発のMRBMは沖縄に集中投入する。これにはDF17極超音速滑空体弾頭が含まれる。

このうち150発が嘉手納、100発が那覇に向けられる計画だ。

これにより在沖縄の日米迎撃機が使用する滑走路と、付帯設備、それに日米の軍用機を壊滅させることを狙っていた。


与那国、宮古、石垣、奄美には例外的に、台湾に割り当てた発射機から、15発ずつSRBMが撃ち込まれることになっていた。


花たちを含めた現地協力者と現地の工作員、それに直前に進入する特殊部隊からの情報によってターゲッティングされるであろう、対空ミサイル、対艦ミサイル、移動式レーダー、電子戦装置、通信施設、司令部といった重要目標を破壊してしまうためだ。

彼等は頻繁に位置を変更していたから、衛星からの観測だけではターゲッティングが難しい。


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