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沖縄・台湾侵攻2025 Easy Mode 完全版 Ver2.1  作者: しののめ八雲
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人生設計

2025年4月1日 04:30 与那国島


与那国島では陸上自衛他の陣地構築が進んでいる。中心に居るのは施設科の隊員達だった。

緊急展開初日に、C2輸送機で空輸されてきた401施設中隊の隊長を務めていたのは、今年45歳になる長谷川一尉。

この1週間というもの、掩体構築作業の指揮監督を不眠不休で執り続けていた彼は、24時間ぶりに仮眠を取ろうとしていた。

天幕に入って簡易ベッドで横になる。自分の人生は、十代の頃に思い描いた人生設計と、随分違うものになってしまったものだと思っていた。

(あの頃は27年も自衛隊に居るなんて、考えもしなかったなあ。しかも退官前に実戦とは。)


27年前、高校を卒業した長谷川青年は、進路を陸上自衛隊に決めた。

国防に燃える気持ちがあったというわけでは無い。当時はいわゆる就職氷河期真っ只中だったのが動機の一つだ。

学力は割とある方だったが、実家は4歳年上の兄の進学に学費を先に投入していた。

長谷川にも学費を出せないわけでは無かったが、彼は進学を選ばなかった。


既に大学の卒業を来年に控えた兄が、就職に苦戦しているのを目の当たりにして、大学を卒業しても未来が約束されるわけでは無いと認識していたし、自分よりは3歳年下の妹に大学に行って欲しかったのだ。

妹が大学を卒業する頃には景気は回復しているかもしれないし、自分が進学しなければ実家も妹の学費を貯めなおす時間が出来る。

兄はバイトと奨学金を活用しており、自分もそうすることも出来た。

兄も自分も頑丈で、部活で鍛え上げた体力と根性があったから、学業とバイトの両立に自信はあった。だが、生まれつき体が弱い方の妹に、それが出来るとは思わなかった。


自分なりに家庭事情を勘案し、長谷川は陸上自衛隊の任期制隊員として、自衛隊で学費を貯めてから大学に行くか、あるいは土木系の資格を出来るだけ取得してから任期を終える計画を立てた。

大学に行かない場合、自衛隊から民間に再就職した上で、さらに実務経験を積んで自衛隊で貯めた軍資金で独立することを狙った。学歴よりも資格を選択したというわけだった。


土木系の仕事として考えた場合、長谷川にとって自衛隊は貯金もしやすく、資格もタダで取らせてもらえる魅力的な職場だったのだ。

そもそも土木系の仕事を志望していたのは、中高の部活仲間の多くが土木関連の仕事に就職していたことの影響だった。


地元の地本(当時は地連)を訪ねてから、入隊まではあっという間だった。教育隊を終えた長谷川は希望通り出身地である関東の施設科部隊に配属された。

そこで彼は先輩に、2任期で貯金を最大1000万、最低700万。1任期目で「大型特殊」「大型特殊自動車免許」「ドーザー免許」「2級土木施工管理技士」を取りたいと話してしまい、そしてその通りに実現してしまった。

2任期目の終わりが見えた頃、貯金は800万、さらに追加で資格を取得した長谷川は、景気は悪いままだったが、民間に再就職しようとしていた。

入手した資格を生かした仕事を民間企業でしてみたいという気持ちが強く、この時点で大学進学は選択から外れていた。

(ちなみに自衛官の待遇問題について、しばしば具体例として挙がる「トイレットペーパーが自腹」問題だが、長谷川は予算に含めることに否定的だった。

結局、金使いの荒い奴は荒いから、トイレットペーパーに予算を付けた程度ではどうにもならないと考えている。

それなら、外部の腕効きのファイナンシャル・プランナーを招いて、財産形成講習でも開催した方が若い隊員のためになると考えていた。)


しかし、部隊は長期的な計画通りに行動し、金使いが荒くなりがちな若い隊員の中にありながら、あらゆる誘惑に負けずに貯金を貯め、資格を短期間に多数取得し、実務の成績も申し分無い長谷川に非常に高い評価を与えていた。手放すつもりは全然無かったのだ。

彼は、ある日、中隊長まで列席した飲み会(中隊長のオゴり)で、中隊長や陸曹長、小隊長、先輩に総力戦で口説かれた。


長谷川士長、民間に就職するつもりだったら陸曹になってみてはどうだ?

部下を持って、マネジメントと書類仕事を経験しておいた方が、就職にはより有利になると思うぞ?

景気も悪いし、まだまだ自衛隊におった方が正解だ。出て行った連中は苦労している(らしい)。

せっかく貯めた金が勿体無いことになるかもしれないぞ?もう少し隊に残って様子を見たらどうだ。それに、辞めるんだったら後輩を育ててからにしてみないか?

さっきも言ったが、下を育てたことがあると言えるのは面接で強いアピールポイントにできるぞ。


結果、長谷川は3期目に突入し、その間に陸曹試験に合格した。

さらにその後、めでたく結婚したが、妻がよりによって安定志向であったため、子供が出来ると自衛隊を辞めるに辞めづらくなってしまった。


そうこうしている内に「資格と腕を兼ね備え、下の面倒見も良い、使える施設科陸曹の見本」としての、長谷川のスキルと評価は成長を続け、昇進も順調。

いつか経営に役立つかもしれないと簿記2級まで取得し、日米共同訓練の役に立つからと英検まで受験しようとしていたら、とうとうB幹部受験を打診されるまでになった。


幹部になると転勤と責任が増え、その割に給与は増えない。

なんのかんのと理由をつけ、曹のままで居た方が自衛隊での居心地は良い。それまでの長谷川ならば、間違いなく幹部への挑戦は断っていただろう。

だが、この頃の長谷川は過酷な災害派遣の現場経験を通して、もはや民間に就職する気持ちが薄らいでいたのだ。

ならば自衛官として、自分に求められること、出来る事を精いっぱい果たしていこうという気持ちになっていたのだった。


長谷川は半分寝ながら妻を思う。全く、安定志向といっても、俺が戦死したら安定もへったくれも無いじゃないか。

でも、自分の実力は発揮できたし、人のためになる仕事はそれなりに出来た。俺は満足だ。ここで死んじまったら迷惑かけるけど、後は頼むな。


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