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沖縄・台湾侵攻2025 Easy Mode 完全版 Ver2.1  作者: しののめ八雲
緊急展開-自衛隊に託される希望
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目覚めた澤崎

2025年3月31日 11:12 那覇市内


澤崎は目を覚ました。


随分と気分がすっきりしていた。時計を見て驚く。12時間も眠っていた。

スマホを慌てて見る。

SONやNPOの人間からの連絡が山のように入っていたが、李達からの連絡は入っていなかった。

李からの指示で、他の人間からの連絡はマナーモードにして構わないが、自分達からの連絡には必ず気付けるようにしておけと言われていた。

珍しく李達工作員からの連絡が無かったおかげで、疲れ切っていた澤崎は、久々に深く眠ることが出来たのだった。


浜名湖橋爆破事件以降、公安の動きが活発になっており、李達は行方をくらましながら連絡も最低限にしている様子だった。

このまま捕まってくれればと澤崎は考えかけ、いつものように、あの轢き逃げの真相がバレることを恐れた。

今連中が公安に捕まれば自分も道連れだ。もはや重ねた罪は轢き逃げだけでは無い。


あの夜以来、車の運転が苦手になっていた澤崎だったが、先島の各班が求めているドローンや生活物資をワンボックス一杯に調達して、フェリーで運び込むことになっていた。

調達役の李が動けないために、代わりに動いた形だ。

一度先島に向かってしまえば、そこから先に何が起きるか分からない。


怪我人どころか死人も気にならなくなるという李の言葉を思いだす。

(このまま行くところまで。いや。堕ちるところまで堕ちるのだろうか。)


考えることが怖くなった澤崎は、ただ機械的に動き続けた。

那覇市内も流通に混乱が起きており、生活物資はともかく、急遽販売が規制されたこともあってドローンは手に入らなかった。

そして先島のグループからの要求品を半分ほど調達したところで、澤崎はいったん下宿で仮眠を取ったのだった。


中国側はSONやNPOの人間のスマホに、必ず自国製SNSアプリをインストールさせていた。

一見無害に見えるそれは、位置情報と通信記録を常に人民解放軍情報支援部隊のサーバーに送りこみ、情報支援部隊が位置と盗聴した内容を常にチェックして、沖縄の現地工作員に報告する仕組みだった。

当然暗号化されているが、中国本国との間に大量の通信が発生する。


浜名湖橋爆破以来、本州での破壊工作を抑え込まれているにもかかわらず、李は日本の公安など恐れてはいなかった。

だが、那覇上空を米軍のISA=統合情報支援部隊のMC12W偵察機が周回飛行を始めたことで、行動を変えていた。

あの機体には恐るべき通信傍受と解析能力を持った、特殊部隊員が機材と共に乗り込んでいるはずだった。

過去、南米の麻薬王達やサダム・フセイン、それにウサマ・ビン・ラディンの潜伏先や行動予定を割り出し、捕縛や殺害する作戦を成功に導いたのが彼等だった。


MC12Wはこれまで海上で海上民兵の行動を探っていたが、増援か任務変更かで那覇上空にまで現れたようだ。ということは、李のような中国側工作員にとっては最大の脅威の出現を意味していた。

彼等はまず間違いなく、米側の特殊部隊であるDELTAやSEALSと連携していると考えるべきだった。日本の特殊作戦群や公安も支援しているかもしれない。

いかなる形であれ、通信内容を傍受、解析されたらまずいことになりかねない。

証拠になる通信履歴を捉えられたら、いきなり殺害に動くことはないだろうが、身柄の拘束や工作を妨害される可能性が高い。

これから最も大事な任務が控えている中で、それは避けなければならない事態だった。


このため、李達は日本の手先達のアプリの位置暴露・盗聴機能を一時的に停止しつつ、自分達も通信を最低限にしている。

さらに李自身は直属の工作員と共に、通信機材を積んだキャンピングカーで、沖縄本島のセーフハウスを転々とすることでISAの目を逃れて時間を稼ごうとしていたのだ。


李の意図とは裏腹に、日本人の手先達は好き勝手かつ、無駄にスマホで連絡を取り合っていた。

彼等自身は、自分達が中国の工作員と化しているという自覚は全く無かったから、仕方無いのかもしれなかった。

李が一時的に活動を自粛したことで、澤崎は下宿に留まって寝過ごしていることにも気付かれず、久しぶりまとまった睡眠をとることができたのだ。


李達はこれまで巧妙に澤崎を休み無く使って、この地獄から抜け出す方法を考える時間を与えようとしなかった。

下宿には寝に帰るだけ。しかもストレスと悪夢にうなされ、ぐっすり寝たことはあの日以来ほとんど無い。


澤崎は身も心もボロボロだったのだ。

だが、中国の監視下でSONとNPO連中以外の人間との接点を断ち切られている澤崎には、助けを求めるわずかなサインを出す相手も、異常な彼の有様に気付いてくれる人間も存在しなかった。


東京の母との連絡は年に一度だけ、1年の活動に対して中国側からの「ご褒美」として5分のみ許された。まるで囚人と家族の面会だった。


会話の内容は勿論盗聴されている、留年すること、学費と生活費は自分で稼ぐこと、就職の当てはあるので心配ないこと、大学でやることがあること。それだけを機械的かつ一方的に報告するだけだった。

通話中の母の声は澤崎が録音した所で、李が遠隔で削除してしまう。澤崎に里心が芽生えないようにする処置だった。

実家には勿論一度も帰っていない。母親と随分と疎遠になってしまった気がした。


本当は、今すぐにでも実家に帰って、母親に会いたかった。

だが、まがりなりにも人殺しになった今、どうしたらいいのか分からないでいる。

表面上、花や青池、小田達の前で明るく振舞っていたが、澤崎の内実はこのような有様だったのだ。


一度、母親が下宿に押しかけて来たことがあったが、居留守を使った。

扉1枚を隔てて母が居た。「拓哉?居るんでしょ?出てらっしゃい?どんな事情があっても、お母さん聞くから大丈夫よ?」

澤崎は涙を流して、今すぐ飛び出しそうになるのを堪えた。


母が悄然と帰って行ったあと、入れ替わりで李がやってきた。

「いいお母さんだねえ。羨ましいよ。今更自首なんかして、お母さんに迷惑かけられんよなあ?息子が飲酒運転で轢き逃げしたなんて知ったら、お母さんどうなるかな?寝込むかなあ?鬱になるかなあ?それとも親子の縁を切っちゃうかな?あんないい人だもん、いきなり自殺しちゃうかもよ?」


澤崎は浜名湖橋の事件以来、李達の動きに隙があるのに気づいていた。

おかげで半日も李が自分を放置した結果、偶然だが電話で起こされることも無く、久しぶりに十分眠れたわけだった。今までの李にはあり得ない。

気の毒なほど李の顔色を伺って生きている澤崎は、バレないうちに下宿を出て先島に向かおうとした。物資が半分しか集まっていないことへの言い訳を考えながら、下宿を出ようとした時、郵便受けにチラシ類と一緒に手紙が入っているのに気づいた。


母からの手紙だった。


基本的に郵便受けの中身は監視の一環で、李達が全て回収している。

年に一度の留年報告以外は着信拒否している澤崎に、母は手紙を何回も出して来ていたが、容赦なく李は検閲、破棄した上、要約した内容を口頭で伝えて来た。

母の手書きの字を見ることすら許されなかったのだ。


思わず周囲を見回し、素早く手紙を背負っていたバックパックにしまい込むと、500メートル程ダッシュした。そこにあったコンビニのトイレに駆け込む。

息を整える間もなく、夢中で封筒を破り、手紙を手にした。

懐かしい母の字が目に飛び込んで来た。

監視を緩めた李に感謝したくなる。いや、そもそも奴等のせいで、こんな目にあっているのに。何を考えているんだ自分は。


だが、手紙を読んだ澤崎は内容に衝撃を覚えた。


戦争になるかもしれないから、思い残すことが無いように、最後に会いに行く。4月2日に東京を出発するとあった。


澤崎はあの夜のように震えだした手で手紙をしまうと、頭を抱えて便器に座り込んだ。

中国の作戦計画を澤崎は知らない。だが、4月2日頃に沖縄に来てしまったら、危険極まりないことは分かる。


このままだと母が攻撃に巻き込まれて死ぬ。自分のせいで。

どうしたらいい?今はたまたま李達の監視が緩んでいるが、母に事情を説明して、東京に居させることは出来るだろうか?


しばらく考えた澤崎は覚悟を決めた。簡単なことだ。そもそも人を殺した罪から逃げようとしたことに間違いがある。


やるなら今しかない。逃げよう。逃げて母を助け、今度こそ自分を罠に嵌めた中国を裏切ってやる。奴らを止めてやる。

李がスマホのアプリで、常に自分の居場所と全ての通信を把握しているのは分かっていたから、スマホで母親に連絡するのは危険すぎた。

澤崎はコンビニを出てタクシーを拾うと、近場の公衆電話に向かわせた。


公衆電話から母のスマホに祈るような気持ちで電話をかける。


永遠にも感じた5コールで母は出た。

「ごめん母さん。俺だよ。公衆電話からなんだ。今から言うことを良く聞いて。その前にまだ東京?良かった。

いいかい?絶対に沖縄に来ちゃダメだよ。その代わり、今から俺が東京に帰る。本当だよ。だからお願いだから、そのまま東京に居て。今から飛行機に乗る。もう半日もしないうちに会えるから。羽田で待ってて。じゃあ、後でね。切るから。今までごめんよ。」

電話の向こうで母が泣き出すのが分かった。


充分寝たせいか、覚悟を決めたせいか、ずいぶんと気分がすっきりしてクリアに考えることが出来ている。最初からこうするべきだったと思う。


待たせていたタクシーに乗った澤崎は那覇空港に向かった。

降りる時に澤崎は、自分のスマホとサークルスマホを二つとも電源を切り、タクシーの座席の間に滑り込ませて放置した。


澤崎は幸運だった。

沖縄方面の自主避難に必要とされる、輸送手段確保に政府は動いていたが、フェリーはそう簡単に動かせなかった。

距離も離れているし、本土での便との調整も必要で、急に沖縄に行けと言われても難しい。


これに対して、旅客機のフライトプラン変更はまだ容易に出来た。

そこで国内のエアラインに対して、運用コストを国が全額負担することを急遽政府が決定したため、ほぼ24時間体制で、沖縄と本土間の臨時便が大量運航していたのだ。

(沖縄県知事は相変わらず「県民の不安を無用に煽り、県内の経済運営を混乱させるもの」として反対していた。)

エアライン各社にとって空席がどれだけあろうと、飛ばせば飛ばすだけ利益が出る仕組みとなっている。

本土に避難しようとする人間は急速に増加していたが、希望者に対して便数は、この時点では十分に確保されていた。

このため、澤崎が割り込める余地は充分にあったのだ。


いつ、裏切りに気付いた李やその手下が自分の目の前に現れ、自分を抹殺しようとするか分からない、という恐怖の数時間をやり過ごし、澤崎は那覇を飛び立った。


そして無事に羽田に到着した澤崎は、母親と数年ぶりに再会した。だが、彼にはやることがあった。彼は短い時間、母との再会を喜ぶと、母にこれから警察に自首するから一緒に来て欲しいと告げた。


母は全てを察したように、何も聞かずに澤崎と一緒に東京空港警察署に向かった。


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