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沖縄・台湾侵攻2025 Easy Mode 完全版 Ver2.1  作者: しののめ八雲
緊急展開-自衛隊に託される希望
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テロ攻撃断章

2025年3月27日 18:52 静岡県



当然のことではあるが、中国側は自衛隊と米軍の移動と展開が始まったのを把握していながら、指を咥えて見ていたわけでは無い。


公式にはまだ台湾と沖縄への侵攻の意図は明らかにしていないから、日本国内に潜伏している工作員が、日米両軍の移動を妨害するための破壊活動を開始していた。


静岡県で農業会社を経営する小林良は32歳。

彼は血相を変えて、自宅から会社に戻ってきた所だった。


事の経緯はこうだった。


彼は大学卒業後に、大手の広告代理店に就職した後、30歳で独立して農業会社を立ち上げた。

目算は彼なりにあったが、現実は厳しかった。

代理店時代は好成績を上げていたが、その実態は会社の看板があってこそだったのだ。部下や後輩を遠慮なく踏み台に出来る性格のおかげでもあった。

小林自身の商才は、まったく大したことは無かったのだが、彼自身は自分の実力を過大に評価していたのだ。


結果、設立2年で会社は早々と経営危機に陥っている。

会社の立ち上げメンバーは、小林が大学生だった頃の後輩達が主だった。

わざわざ元居た会社を辞めて、小林の下に集まってくれた彼等だったが、かつての面倒見の良い、頼りになる先輩のメッキは剥がれ落ち、無能で我儘、おまけに頑固な地金が露わとなって、今やとっくに見限り会社を去っている。


無農薬野菜を売りにしておきながら、平気で農薬も化学肥料も使わされたし、経営が傾いてからは八つ当たり、つまりはパワハラの連続だった。

おまけに表向き休みはバッチリ与えられていたが、「自習」名目で何かとコキ使われ、実態としては休みが与えられないなど、まともで無いどころか常軌を逸していた。

小林は後輩達から訴えられないだけ幸運だっただろう。

とどのつまり、小林は典型的なブラック企業の経営者でしかなかったのだ。


小林はあきらめずに、中国人の技能実習生を採用して人員を補充した。

経費を圧縮するため、彼等の待遇は酷いものだった。

だが、実習生は実によく働いた。それどころか小林の会社に、千載一遇のチャンスをもたらしたのだ。


実習生の一人がツテを使って、中国の外国産高級食材を扱うデパートとの契約をもたらしたのだ。

既に数回野菜を輸出している。

この売掛金が入ってくれば、会社はようやく軌道に乗り出すだろう。


この日、これまでで最大量の発注を受けた小林は、実習生に指示して自社の4トントラック一杯に野菜を積み込ませると、先方が指定してきた成田発の貨物便に間に合うように、出発させたつもりだった。ドライバーは中国人技能実習生のリーダー格である李だった。今回の案件を紹介したのも彼だ。

小林自身は17時に定時退社している。


自宅に戻ってきた小林は、中国人技能実習生グループからの新着メッセージが入っているのに気づき、確認した。

内容を確認した彼は目を剥いた。

メッセージには、今までお世話になったが、もうあなたの下で働けない。我々は退職する。

トラックは事業所に戻しておいた。

取引先に迷惑をかけたくないなら、社長自身でトラックを成田まで運転して行って下さい。と、あった。


「あいつら!これから優遇してやろうと思ってたのに!」

余裕をもって出発させたはずが、今から事業所を出発するとしたら、ギリギリになるだろう。


事業所に戻った小林は、本当にトラックが戻してあって、放置されているのを見た。

事実上小林一人の会社となったが、新たな社員を補充するにも、唯一の大口取引先を失うわけにはいけない。

彼は経営者たるもの、現場がどんなに悲鳴を上げていようが、現場に出てはいけないという妙な信念を持っていた。

だが、代わりのドライバーを手配する時間は無い。

悔しいが、自分が運転するしかなかった。

とにかくこの案件を繋いでいけば、会社を立て直せるからだ。

トラックの積み荷を確認する。段ボール詰めの野菜が積みっぱなしになっていた。

運転しながら、万一成田への到着が遅れても、ギリギリまで待ってもらえるよう交渉するため、空港のグランドスタッフに連絡をしようとする。


小林の運転するトラックが大急ぎで出発すると、事業所に退職したはずの李達が入ってきた。


「さよなら社長。お世話になりました。今までのご指導、ご鞭撻に感謝致します。

全く、こんな会社と社長がそこら中に存在するんだからな。

我々が手を下すまでも無いよ。どのみち日本経済に未来は無い。日本の労働者階級には心底同情する。これじゃ地主と小作人の関係に逆戻りじゃないか。いつか我々が必ずや解放してさしあげるとしよう。」

李がハリウッド映画の米国人俳優のように、大げさに首をすくめて両手を上げて見せると、部下達は声を上げて笑い出した。


小林の運転するトラックは、東名高速を東に向かって走っていた。

積み荷は、野菜と(小林は気づいていなかったが)、李達が少しずつ製作してきた肥料爆弾の全て。

野菜はトラックの後部にわずかにあるだけ。そこから奥は殆どが肥料爆弾だった。

李達は勿論、中国の工作員だ。李も偽名。そのあたりは沖縄の李と同じだった。

小林の会社にやってきたのは、肥料爆弾の材料を調達しやすいのと、小規模で経営が傾いていたこと、自社のトラックを持っていたことが、彼等に都合がよかったからだ。


警察はテロ攻撃や、自衛隊の展開に対する過激な反対運動への警戒を強め、緊急に全国規模での検問を開始していた。

だが、その計画は急がれていたものの、高速道路の出入り口での入念な検問を開始した時には、小林は東名に乗り入れており、李の自動車爆弾は彼を乗せたまま高速道路に進入することが出来た。

トラックに装着された中国製ドライブレコーダーは、事業所の事務所に入った李達がGPSの位置情報と共にリモートでモニターしていた。


トラックは浜名湖SAを超えた。検問で入るまでは大変だったが、高速に入れば空いていた。

ラジオによれば検問は今やより厳重になって、渋滞はますます酷くなったらしい。

小林はなんとか間に合いそうだと思い、自分の会社の未来を夢見た。

自分の妄想が形になったのだろうか?浜名湖橋の真ん中にさしかかった所で、小林は光に包まれるのを感じた。


李はトラックを起爆した。


空中に放りあげられた小林は、不幸にもそこで意識を失わなかった。

反対車線に叩きつけられ、対向車が目の前に迫っても、それでも意識を失わなかった。

最後まで突然の恐怖を味わうハメになったのだ。


浜名湖SAに待機させていた部下が、浜名湖橋が破壊される様子を動画で送ってきた。


画像を見つめる李の体に、任務をやり遂げた安堵と達成感がかけ巡る。

数台の民間車両が巻き添えになったようだった。

無用の殺生をしたことについて罪悪感が沸き起こる。

小林のような人間はともかく、見ず知らずの、恐らく大した罪を行っていない民間人を殺した。

それは、李が幼いころ喜んで見ていた抗日ドラマの敵役たる、日本鬼子と同じでは無いか?

そのような意識も急激に沸き起こる。だが、祖国への忠誠心と軍人としての義務感。なにより、部下に対する責任感が無意識に罪悪感を押さえつける。

何よりも李の頭にあったのは、事を起こした以上、いかに自分と部下を日本各地に設けられたセーフハウスに逃げ込ませるかだった。

余計なことを考えるのは当座の身の安全を確保した後にしなくては。


「よし。撤収だ。証拠品の準備は?」

「大急ぎでしたが、ある程度のモノは用意できました。」

事務所のパソコンは全て初期化され、偽造した小林の日記がいくらかプリントアウトして残されていた。

部下がプリントしたての日記の断片を李に渡す。

渡された日記を李は、日本語として不自然な部分が無いかチェックする。


「まあ、こんなもんだな。貴様、帰国したら小説家になれるんじゃないか?」


それを読む限り、小林は会社の苦しい経営を通して、日本の農業政策に懐疑と強い不満を覚え、いつしか日本という国への復讐として、破滅的なテロを企んでいた。

李達従業員は、小林の個人的なテロ行為に巻き込まれることが無いように、数日前に会社都合で解雇されたことになっていた。

あくまで小林個人が企んだことであり、中国人従業員は無関係と結ばれていた。


李はこんな話が日本の警察に最後まで通用するとは思わない。

しかし、これから日本全土を大混乱が覆うのであれば、ある程度の時間は稼げるだろうと期待した。

何もなければ即座に関連を疑われたであろう、姿を消した中国人技能実習生の集団が、潜伏するまでの時間を稼げれば良いのだ。


彼らはこれから分散して、大阪西成の中国人コミュニティや、北海道で中国人が買い取った山奥の土地に、それぞれ設けられたセーフハウスに潜伏することになっていた。


さらにその後、無事祖国に帰国できるかどうかは、今後の状況次第なので心細くはある。

もしかしたら、別任務を与えられ、引き続き日本での活動が続くかもしれない。

(張少将の後任は追加の任務を指示してくるだろうか?)


だが、何と言っても自分達の最重要任務は既に終わり、これから始まる一大事をネットを通して見物しているだけで良いのだ。


「こういう立場を、日本では勝ち組と言うのだったか?いや高見の見物だったか?」

「しかし、馬鹿な奴でしたね。」

「まったくだ、日本の経営者は日経新聞くらい読むものだと聞いていたが、全く勉強してなかったな。国際情勢にも疎い。本気で我が国との商売が、今まで通り続けられると思ってやがったな。アレは。おかげで御しやすかったがね。」

「戦争になって、取引がご破算になるかもしれないとは、まるで考えていなかったですな。あのアホは。まったく、おかげで助かりましたよ。」


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