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沖縄・台湾侵攻2025 Easy Mode 完全版 Ver2.1  作者: しののめ八雲
緊急展開-自衛隊に託される希望
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緊急展開 全般状況

米本土からは、C17、C5といった大型輸送機、E3早期警戒管制機、空中給油機が次々離陸を開始していた。

輸送機の積み荷は、陸軍のパトリオット地対空ミサイル。

最新装備であるNMESIS対艦ミサイルや、単発式の地上発射式トマホーク巡航ミサイルを装備した新鋭部隊である、ハワイの第3海兵沿岸連隊。

やはり最新鋭兵器の中距離ミサイルLRHW「ダークイーグル」、海兵隊の物より大型の地上発射式トマホーク「タイフォン」、そしてHIMARSを装備する陸軍の新鋭部隊「マルチ・ドメイン・タスクフォース」。

海軍艦艇用と米軍機用の補充用各種ミサイル、精密誘導爆弾。

それらを運ぶ輸送車両と彼等を動かす補給物資と人員だ。


輸送にもっとも手間がかかる、肝心の燃料と弾薬の大半は、米軍の戦略拠点である日本の各地に大量に備蓄してある上に、去年から前もって追加されている。


もとから強固に防衛されていた沖縄に加え、佐世保、横須賀、岩国、横田といった米軍の重要拠点には、パトリオットミサイル部隊が1個大隊以上、緊急空輸で増強されつつあり、中国および北朝鮮からの弾道ミサイル、巡航ミサイル攻撃に備えを固めつつあった。

これらのアセットを狙った、ゲリラ・コマンドによる襲撃を想定し、護衛として米陸軍の歩兵部隊や特殊部隊も送り込まれる。


輸送機群は日本に着陸して積荷を卸すと、帰路では米軍家族をはじめ、本国への避難を希望する米国人を乗せていった。


展開を開始しているのは米軍だけでは無かった。


石垣島、宮古島、与那国島、奄美大島へ、陸上自衛隊の即応機動連隊を中心とした部隊の海上輸送が始まっている。

陸上自衛隊各部隊は駐屯地から出発したが、見送りに駆けつける人々、逆に自衛隊の出動に反対する人々が押しかけたために警察が整理に当たっていた。


各隊員の体感でいえば、本番とはいえ普段の演習に出発する時と意外な程変わりはない。

ただ、出発前に「遺書を書くこと」「家族と連絡をとること」を推奨されたことを除けば。

そして、実弾をたっぷり支給されたことを除けば。


輸送される部隊について欲を言えば、在北海道の陸上自衛隊の中でも最も重装備の第7師団も輸送したかったが、自衛隊の限られた輸送能力では既に限界だった。


5年前と比較して3倍近くに引き上げられた海上輸送力については、あらかじめ調整を進めていたおかげで、主力である6隻のPFI船をほぼ即日投入可能だった。

しかしこれでも十分とは言えなかった。

例えば、あらかじめ支援部隊を含めた諸兵科連合編成である、1個即応機動連隊を輸送するにしても、長期間に渡って完全な戦闘力を持続的に発揮させるためには、自前の戦力ではまだ足りないのだ。

さらに上級部隊の師団や方面隊から直接支援隊や、通信隊をさらに増強する必要があったし、陣地構築のために施設科の増援も必要だった。


即応機動連隊は、従来の普通科連隊と比較しても重装備化されていたから、支援部隊とともに多数の車両、装甲戦闘車両を保有しており、これらを維持するための整備補給担当である支援隊の規模も、必然的に膨らんだ。

1個即応機動連隊だけでも、各種車両を300~400台必要としていたのだ。それが複数となる。


これらの部隊を、離島で1か月程度持久させるのだから、そのための物資もまた膨大な量だ。

陸上自衛隊は弾薬、燃料の備蓄を全て吐き出したに等しく、各地の燃料、弾薬支所は空と言って良かった。

さらにIT化された部隊では、待機しているだけで莫大な電力を消費する。そのための発電機用の燃料も必要になるのだ。

それだけの物資を輸送しようとすると、2万トン近い「はくおう」クラスのPFI船でも一度に運べる部隊には限りがあった。

この問題を解決するため、先島諸島や沖縄の駐屯地の物資の備蓄を、(橋本三佐が上空から目撃したように)前もって進めてはいたが、十分と言えるだけの量を搬入する前に今回の事態を迎えてしまったのだ。


ともかくも、ありったけの輸送力をかき集めても、先島諸島の防御態勢を何とか整えるのが精いっぱいというのが現実だったから、輸送に時間のかかる多数の戦車を装備した第7師団については、戦闘力の高さは認められながらも、優先順位を低めざるを得なかった。

戦車を移動させるにも、長距離移動は単独ではできない。

大型の特大型運搬車を手配しながらの輸送になるし、その数も十分では無い。一刻を争う現状では移動に手間がかかりすぎるのだ。


であるならば、自力で高速道路を高速移動して、沖縄に近い港まで移動することの出来る即応機動連隊の輸送が、もっとも効率が良いと判断され、優先されるのは当然だった。

元より即応機動連隊はこのような状況下での、高い戦略機動性を期待されている部隊なのだ。


例外は第7高射特科連隊で、ウクライナでの戦訓から、主要装備の87式自走高射機関砲がドローン迎撃に有効であろうとされ、先島諸島へ分散配備されることになっていた。

そのために北海道の第7高射特科連隊は規模を縮小され、第7師団の装備する87式の大半は、九州に昨年急遽編成された、西部方面高射特科連隊へと移管がなされていた。



輸送計画の変更があったのは、空自のパトリオットと、陸自の03式対空誘導弾部隊、それにイージス艦だった。

当初の計画だと、これらのアセットは可能な限り、沖縄に追加投入されるはずだった。

だが、北が本州のどこを狙って弾道ミサイルや、巡航ミサイルを撃ち込んで来るか分からない状態では、本州から動かすことが難しくなってしまった。


結局パトリオットについては4個高射隊の増援が限界だった。

03式部隊も、81式短距離地対空誘導弾装備の部隊と共に、多数が日本海沿岸に展開することになったから、沖縄に追加で送ることの出来る高射隊は限られていた。

人口密集地帯を守るための苦渋の決断だ。

この時点で、北朝鮮は十分以上に「長征作戦」の支援を果たしたと言っていい。

代わりに12式地対艦誘導弾の部隊を、本州から追加で先島諸島に送りこむことになった。


航空自衛隊は、既に通常のアラート待機に加えて、CAP(戦闘空中哨戒)を開始している。

沖縄に部隊を集中したいところだったが、やはり北からの巡航ミサイル攻撃を警戒し、各基地から動いていない。

もっとも開戦と同時に沖縄は、中国からの弾道ミサイル攻撃を集中的に受けるだろうから、空自部隊は分散していた方が良いとの判断もあった。

これに加えて、反撃の主力となる対艦ミサイル装備可能な戦闘機、F2やF35を装備した一部の飛行隊は、事前の協定に基づいて中国の弾道ミサイル攻撃の及ばない、オーストラリアへの退避を開始していた。


CAP任務のF15改とF2は、AAM4Bを、F35はAIM120Cといったレーダー誘導式の空対空ミサイルの実弾をフル装備していた。

それらに加えて、短射程の赤外線誘導方式のAIM9XやAAM5も装備している。

退役が始まった近代化改修がされていないF15(俗に言うF15Pre-MSIP)は、やや旧式化したミサイルのAIM7と、AAM5を装備していた。

ウクライナの戦訓から、巡航ミサイルを追尾することが出来れば、AAM4BやAIM120Cを装備出来ないF15でも、迎撃が可能と期待されている。

だが、戦闘機によるパトロールであるCAPの継続は、戦闘機部隊の機体と人員に大きな負担を強いるから、いつまでも続けられるものではない。


海上自衛隊イージス艦は2隻が日本海に、以前から展常時開済だった。

北朝鮮による弾道弾を含めたミサイル発射が、不定期にかつ、常態化してしまったことで、2隻のイージス艦が常に拘束されてしまっているのが現実だったのだ。

さらにイージス艦は保有する8隻中、3隻がドック入りしたままで直ぐに動かせない。

日本のイージス艦は段階的に改修されて、その全てがBMD(弾道ミサイル防衛)対応艦となっていた。さらに弾道弾迎撃ミサイルである、SM3を追加で搭載しており、1隻あたりの搭載数はかつて8発程度だったものが、20発を搭載している。

さらにウクライナ戦争以来、ドック入りの際はSM3をいったん降ろして、稼働中の艦に引き渡す措置がとられていた。

このため、日本海に展開している2隻と沖縄に移動中1隻のイージス艦については、1隻あたり40発ものSM3を搭載していた。ただし、その分SM6、2といった対空ミサイルの搭載数は少なくなる。


残りのうち5隻のうち1隻は既に、沖縄周辺に展開しつつあった。

イージス艦以外の稼働艦は沖縄への輸送の護衛に回っていたし、最大の護衛艦「かが」に至っては、艦載機を最低限の哨戒ヘリコプターSH60L/Kに絞り、陸自部隊の輸送に従事している。

唯一、機動的に動けるイージス艦を含む護衛隊は、アメリカの要請で「アメリカ」ESG(遠征打撃群)を援護するため、フィリピン近海に向かっていた。

強襲揚陸艦「アメリカ」は、2隻のアーレイ・バーク級駆逐艦を伴って、南沙諸島周辺で「航行の自由」作戦を実施していたが、状況の緊迫化により孤立しつつあったのだ。


つまり現状では、中国の侵攻がせまっていることが分かっていながら、北の攻撃に備えて、海空自衛隊は各地に分散を強いられている状態だった。

これでは、中国の攻撃初動においての劣勢は避けられない。


敵が先島諸島や尖閣に上陸を図った場合、意図を把握してこちらが体制を整える前に、無理に上陸部隊の海上撃破を狙えば、かえって損害が増えて不利になるかもしれなかった。

予防攻撃を行おうにも、未だ完全に中国の攻撃意図に政治は確信を持てないでいた。

むしろ、かえって先制攻撃の根拠を与えかねない。結局、不利を承知で中国の先制攻撃をなんとか凌ぐという前提で、自衛隊は展開していたのが現実だった。

分かっていても先制されるのではあれば、いったん戦力を分散退避しておいた方が賢明、という判断になっている。


それでも防衛省は総理を動かして、アメリカに支援の強化を求め、アメリカは本土と沖縄に追加のパトリオット、同じく迎撃ミサイルTHAADを展開させることを約束していた。

虎の子の新型弾道ミサイルである、LRHW「ダークイーグル」の増援すらも空輸していたのだ。

もっともアメリカは日本に言われるまでもなく、展開を開始していたのだが。


だが、戦闘機部隊の増援は、やはり中国の弾道ミサイル攻撃を警戒して、アラスカ、グアム、ハワイの基地での待機にとどまっており、日本国内の米軍基地には展開していない。

ただし、元から日本国内に居た、那覇のF22と岩国のF35、三沢のF35(F16CJから改編された)の各戦闘機部隊が後退することは無かった。


一方で米軍はフィリピンにも空軍部隊を展開させていた。

反米感情の強い政治家が多いフィリピン側だが、日本の働きかけもあり、有事には米軍の作戦を許可することで、秘密交渉が決着済だったのだ。(この点は日本の中国に対する外交上の勝利と言えた。この分野でのフットワークの軽さは、日本国首相の強みだった。)


米海軍の方は、アメリカESGが南沙諸島から退避しつつ、原潜部隊は事前に西太平洋への展開を開始していたのだが、さらにそのスピードを速めていた。

退役を先延ばしした空母ニミッツは真珠湾を出航。

アメリカに西海岸で偽装の不具合に悩んでいたはずの、フォード級空母2番艦「ケネディ」は、しれっと何事の無かったように日本に向かって行った。

世界に散らばる空母、強襲揚陸艦群も西太平洋に向かっている。本土近海で練成中の空母は訓練を切り上げ、ドックに入っていた艦は急遽計画を切り上げつつあった。


そして最も活発だったのは、在韓米軍基地の烏山、群山基地への増援だった。

表向き、北朝鮮の軍事行動への警戒として、F22、F35を装備した戦闘航空団が増援でアラスカや、ハワイを経由して送りこまれている。

在日米軍基地は、中国側のスタンドオフ兵器の攻撃を受けるだろうが、在韓米軍基地なら安全というわけだった。

今のところ、北朝鮮は韓国への攻撃にまでは言及していない。


中国は外交ルートを通じて韓国を露骨に脅していたし、韓国国内の世論には日本とアメリカの戦争に韓国が巻き込まれるとして、米軍の動きに反発するものがあった。

だが、韓国政府は米軍の動きを黙認していた。

本当に台湾有事が発生した場合、韓国国内の基地から米軍機が出撃することになるが、今のところは中国は韓国までは攻撃しないだろうと韓国政府は判断していた。


そして、韓国は米軍の動きを止めることはできない。

万一、基地使用を認めなかった場合、日米との関係は致命的に悪化することになるからだ。

この後、仮に半島有事が起きた時、今度は日本が米軍に対して在日米軍基地から半島への出撃を認めない、ということになりかねない。

だいいち台湾と沖縄が陥落するようなことになれば、韓国はその後で、日本以上に不利な立場に追い込まれてしまう。

現実的な判断に基づき、韓国は国内世論と中国に適当な言い訳を繰り返し、米軍の動きを認めていたのだ。

無論、万一、北と中国の攻撃が韓国に及ぶことを考慮し、警戒態勢を高めている。


今の日本には北との外交のチャンネルは殆ど無く、国連で北の代表を捕まえて交渉の機会を持とうと外務省は動いたものの、結果は厳しかった。

肝心の朝鮮学校生徒殺害事件の捜査が難航しており、犯人逮捕の目途が立たないので時間を与えて欲しいと説明したものの、向こうは相変わらず「1週間以上待てない。」と繰り返すだけだった。


実際の戦いが始まる前のこれから1週間で、実質的に沖縄、そして日本の命運は決すると言っても良かった。

陸上自衛隊の主力は、小川海将とスタッフの緻密な計画に従い移動を本格化させている。


後は、これまでの大規模な転地演習他の訓練を通じて得てきた、部隊の長距離移動展開のノウハウを発揮するだけだ。

彼等の計画によれば、1週間で、与那国、石垣、宮古、奄美の各島にはそれぞれ1〜2個連隊相当の陸自部隊を輸送して、物資を集積すると共に、可能な限りの陣地構築を行うことになっていた。

沖縄本島には、空挺団、中央即応連隊、特殊作戦群、水陸機動団といった精鋭部隊が反撃と沖縄本島の守備を固めるために集結する。

それらが完了したのち、徳之島、多良間といった、離島にも増強中隊規模の部隊を展開させる計画だった。

陸自部隊とは別に、先島諸島には米海兵隊沿岸連隊も展開する。



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