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沖縄・台湾侵攻2025 Easy Mode 完全版 Ver2.1  作者: しののめ八雲
静かすぎた夏-兆候
30/221

新司令官

2025年2月14日 9:00 北京


中国国家主席は憮然としていた。

首相、外相と手分けして行った外交が殆ど期待外れに終わったからだ。

今、彼の執務室には自身と首相、外相他数名の側近と秘書官だけが居り、1か月近い外交の成果、その振り返りを行っていた。空気は重苦しい。


そもそもが難しい交渉ではあった。

まだ侵攻の意図を漏らすわけにはいかなかったから、表向きの理由は中国国産旅客機C919のトップセールスということにして、侵攻開始の暁には中国に協力するように各国に働きかけた。


世界に米国を恨んでいる国々は多い。中国に覇権が移るのなら、今まで金をばら撒いてきた国も含め、中国に乗って利益を得ようとする国々は多いはずだった。

こういった国々をまとめあげ、侵攻開始後に米国が企むであろう中国への制裁発動を妨害。

作戦が成功するまでの間、疑似的なブロック経済圏を作り上げておき、制裁が効果を発揮する前に台湾と沖縄の一部を占領してしまう目論見だった。


だが、その期待は見事に裏切られた。

ロシアが約束より早く攻勢をかけて失敗し、戦争そのものの敗北が必至であるという現実は、冷戦終結後の平和から目覚めた欧米に監視された世界において、力による現状変更を行うことの難しさを各国に認識させていたのだ。


今更ロシアの真似をしようなどという無茶の巻き添えで、欧米に制裁されるのはごめん被る。協力するとすれば、それは中国が本当にアメリカに勝利できることを証明してから、というわけだった。

確かに世界にアメリカを嫌っている国、恨んでいる国は山ほど存在していた。

だが、だからといって中国が信用されているわけでも、新たな覇権国家として期待されているわけでも無かったのだ。

今までの経済協力には感謝はするが、だからといって中国と心中する義理までは各国には無い。


最も欧米を憎んでいるはずのイランですら協力に消極的だった。

侵攻開始後も中国への原油輸出を確約させ、もし米第5艦隊やイギリス艦隊が中東の海域で中国船を拿捕するような動きを見せた時は、これを妨害することを要請するつもりだった。

国家主席みずから交渉に臨んだが、開口一番にイラン首脳は事実上のロシア敗北を受け、アメリカと関係改善を模索すると言い出した。

これでは本当の目的を口にしたところで計画がアメリカに漏れるだけだ。話にならなかった。


それどころか、中国が艦艇を売り込むことで、アラブ諸国に連合海軍を編成させて米英の艦艇をアラビア海で牽制する構想も頓挫しそうだった。


交渉はただのトップセールスに終わった。C919の売り込みには成功したが。


国家主席がイラン、インドの次に訪問したのは、韓国とフィリピンだった。


侵攻の際に米軍の基地使用を認めないように仕向けるつもりだった。

かつては台湾進攻作戦を考える場合、沖縄が自衛隊によって完璧なまでに防御された米軍の聖域となっており、現代的な要塞として致命的な障害となっていた。

だが、いまや十分に配備された弾道ミサイルと巡航ミサイルにより、沖縄を含めた在日米軍基地はかつて程、安全な米軍の策源地ではなくなっている。

アメリカも遅まきながらこの現実を理解しており、台湾有事の際に新たな聖域として、韓国とフィリピンを利用する魂胆だった。

さすがに日本に加えて、この2か国までは攻撃できないから、外交によって米軍に協力させないことを狙ったのだ。


だが、結果から言うと、2か国とも最初から米軍に協力するの一択だった。

万一台湾が陥落するような事態になれば、次に戦場になるのは自分達の国かもしれないことを、両国の首脳は理解していた。

会談の序盤で手応えが得られず、やはり進攻計画を匂わすような交渉は中止するしかなかった。

結局、会談は中国にとっては当たり障りの無い貿易の話に終始した。

両国にはC919すら売れなかった。


他の国々との交渉も似たような展開だ。

開始早々、相手の好意的な反応が期待できないことが分かったため、殆どの国でC919のセールスの交渉だけで終わった。

欧米のメディアが、本当に中国首脳の目的がC919のトップセールスだったと勘違いするほどだ。

実際、中国は手土産としていくつかの国にはライセンス生産や、工場建設を認めていたが、そこまでしても本当に望んでいる対価を得ることは出来なかった。

中国は欧州諸国はウクライナでは結束していたが、台湾絡みでは他人事という態度になると期待していた。

だが、彼等はかつての中国による経済協力の恩義も忘れ、いかなる形であれ力による現状変更には同意しないと中国に自制を求める国ばかりだった。


外相が訪問したロシアと北朝鮮両国の協力の意思を確認できたのが、殆ど唯一の成果だ。


このままだと侵攻を開始した場合に、ロシアがウクライナに侵攻した時と同様、国際的に孤立してしまい時間の経過は中国にとって不利となる。


つまりは軍部に大見得切って約束した、中国に有利な国際政治環境の実現は失敗に終わったのだ。

長征計画統合司令部は、中国首脳が計画への国際的な支持をある程度取り付ける前提で、孫上将のプランより短期化されたとはいえ、まだ比較的長期間の作戦計画を立てている。

その前提が崩れた以上、長征計画はより短期的なものに修正されねばならなかった。

(国家主席は若い頃に政治士官として陸軍に勤務した経験から、軍の作戦への一定の理解があった。)



だが、その原因は中国首脳による外交の失敗にあるという事実は、彼等の面子が認めない。

政治が失敗したのでは無く、軍部の計画に問題があったことにする必要があった。

勝利は軍部に政治が指導を行ったことにより、もたらされねばならないのだ。


国家主席は口を開いた。

「・・・劉上将を呼びたまえ。その後は張少将だ。」



5時間後、張少将は急に中央軍事委員会に呼び出された。

何事かと思う。対日工作は順調だった。間もなく1年かけて組織した、沖縄の親中派組織が県内で情報支援部隊の指揮の下、米軍、自衛隊、警察とトラブルを発生させる。

これを理由として沖縄の独立運動を加速させ、侵攻開始直前に親中派は日本に独立を宣言し、自衛隊と米軍の即時退去と、そして中国軍の進駐を求める段取りだった。

何か問題があったか、誰かが裏切っただろうか?


会議室の外で小一時間待たされると、劉上将が副官と副司令官を伴って出てきた。


劉上将はいかにも海軍士官、といった端正な容姿と雰囲気を纏っているが、内実は逆で自身の栄達と海軍の勢力拡大ばかり考えている強欲な人物だった。

その彼が悄然と油汗を浮かべながら力無く歩いている。

張の前を通り過ぎる時に一瞬睨みつけてくると、そのまま立ち去っていった。

敬礼で見送る。彼を始め、軍の高官に嫌われることには慣れていたから、今更気にもならなかったが様子がおかしかった。

(何があった?)


さらに1時間後、今度は張自身が青ざめた表情で会議室から退室してきた。


彼は中将に昇進の上、解任された劉上将に代わって統合司令官に任命されることを、国家主席から直々に告げられたのだ。

彼は思った。

とんでもないことになった。お父さん。足元をすくわれないように気を付けてはいたけど、これは斜め上の事態だよ。

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