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沖縄・台湾侵攻2025 Easy Mode 完全版 Ver2.1  作者: しののめ八雲
静かすぎた夏-兆候
26/221

統合幕僚監部 情勢検討会議

2025年1月16日 12:30 東京 防衛省


統合幕僚監部の運用部長は、海上自衛隊所属の小川海将が努めていた。彼は今年で52歳になる。

彼はどちらかと言えば、船に乗っていた方が楽しいと感じる気質だが、一尉の時に選抜されて受験した幕僚過程を一発合格してからは、東京での地上勤務が増えていた。

その当時は妻はともかく、子供達は華やかな関東での暮らしを喜んだ。

念願かなって護衛隊司令や護衛隊群司令を拝命した際には、子供の受験が重なることもあり、単身赴任を選択している。


前年までは呉の幹部候補生学校勤務で、またしても単身赴任を選択していたから、家族を大事にする彼にとっては久しぶりに家族と共に過ごしながらの勤務だった。

とは言え、もはや子供達は成人しており、一人立ちしつつあった。

それでも、金曜日の夜には出来るだけ家族で集合してカレーを食べるのが小川家のルールで、小川海将にはそれだけも十分だった。

海上自衛隊では金曜の昼食にカレーを出すから、昼、夕とカレーの連チャンになるが、構わない。

それに小川が渡り歩いた各部隊の給養員に頼み込んで、教えてもらったレシピをいいとこ取りしたような妻のカレーは、連食が全く気にならない程の味だったのだ。


そんな彼は、先ほど終わった情勢検討会議の結果を思い出していた。


中国の怪しい動きが少しずつ目立ってきおり、本当なら総理も出席しての国家安全保障会議を開きたい状況だった。

だが、内閣のスキャンダルの火消しに総理が追われているため、中々時間が取れないでいたのだ。

このため、せめて制服組だけでも情勢検討会議を開いて、情勢を分析することになった。


会議には防衛大臣も出席していた。彼女自身、芸能界時代の醜聞を捏造されてマスコミに叩かれており、精神的に疲弊していたが(若い頃の親友でもあり、ライバルでもあったアイドルが自殺した件を巡り、その原因が彼女にあるとまことしやかに吹聴された)。


リモートで沖縄から参加している南西防衛集団司令の有坂陸将が報告した。

「那覇でのスクランブルの回数が急増しています。対象はほぼ中国機です。向こうはドローンの割合を増やして、こちらのスクランブル態勢に負荷をかけているように見受けられます。

また、沖縄周辺にこれまで確認していなかった、中国漁船を多数確認しています。」

海上自衛隊のスタッフが後を受ける。

「米軍のデータベース(ただし自衛隊に米側が認めたアクセス権限内の情報に限られる)とも照合すると、これらの漁船の正体は殆どが海上民兵です。

しかもこれまで南沙諸島周辺で活動していた連中です。」


海幕長が発言する。

「米軍の「航行の自由作」戦実施が近い。これへの牽制かな?」

南シナ海で定期的に行われている、米海軍の示威行動のことだ。

情報本部長が答える。

「かもしれませんが、いよいよ侵攻作戦の準備に入った可能性も。」

「何か他に新しい情報があるのか?」

「民間でOSINT活動をしているアカウントをモニターしている班が、中国の奇妙な動向を報告してきています。

例えばかの国のSNSで以下のような投稿があった後、直ぐに削除されたとか。

彼等はそれらを削除前にスクリーンショットで保存し、SNSに投稿しています。」


OSINTとは 「オープンソースインテリジェンス」の略で、一般に入手可能な情報を利用した情報収集活動のことだ。

インターネットに流通する情報の激増に伴い、専門の情報機関ではない、民間ボランティアでもOSINT活動が可能になっている。ただし、その精度は玉石混交だ。


日本の有力なOSINT活動家は独自に危機感を強め、中国側の活動を監視しては発信しており、統幕はその情報を注視していた。


情報本部長はそれらの投稿内容モニターに出す。


・上海市内で防災訓練があり、自分は大規模救護所設置訓練に参加した。本物のモルヒネと輸血用血液が大量にあつめられていた。あんなに大量に見たのは初めてだ。(医療関係者)

・フェリーの予約が急に取り消された。高速フェリーが軒並み故障なんて信じられない。次の便の予約も出来ないらしい。春節前なのに。(上海で働くビジネスマン)

・インド国境に近い和田基地から最新鋭のJ20戦闘機が居なくなり残念。代わりに旧式のJ7戦闘機がやってきた(インド国境地帯で暮らす軍事マニア)


「上から順に解説しますと、救護所の件は、事実上の大規模野戦病院の開設準備に入った可能性があります。

言うまでもありませんが、モルヒネと輸血用血液の準備は開戦直前の重要なシグナルです。

フェリーの件は中国海軍が上陸戦用艦艇の不足を補うために、民間船を徴用した可能性があります。

インド国境からの投稿は、インド正面から1線級の機体を引き上げて、その穴を2線級の機体で穴埋めしたのかもしれません。引き抜かれた機体の行き先は、おそらく東部戦区です。」


それまで発言していなかった防衛大臣が口を開く。

「その・・・。SNSの投稿者達が語尾にいちいち「なのだ」「だお」「ござる」「だぬ」「ラジ」と付けているのは何なんです?

彼等の情報は本当に信じていい代物なのですか?」

「ええ。一種の照れ隠しみたいなものです。

彼等は深刻な話題に触れる際、わざと茶化した言い回しを好むのです。

それとアメリカの衛星情報ですが、東部戦区管内の空軍、旧海軍航空隊基地、さらには民間空港にまで拡張工事が行われているようです。」

「中国全土から集めた最新鋭の軍用機。その置き場所を作っているということですか?」

「ご明察の通りです。我々はそう判断しています。

それとこの動画をご覧下さい。中国軍の大連軍港のドックの衛星写真。そのコマ撮り動画です。

両方とも、同じ052D型駆逐艦のドック整備の様子を撮っています。

最初の動画は去年入っていた艦。次は現在入っている艦。違いが分かりますか?」

「何だか、今年の動画は去年の物に比べて、動きというものが少ないように見えますね。」

「その通りです。おそらくドック入りは米軍偵察衛星の目をごまかすための偽装で、実際には定期整備をせずに、直ぐに出航出来る体制にしていると思われます。

他の例も見てみましょう。ちなみにこの動画も民間アカウントです。」

「以前の会議で防衛研究所の室長が仰っていた、艦艇のうち3分の1をドック入りさせるローテーション。あれをいよいよ崩して、全ての船を使えるようにしてきたということですね?」

「その通りです。また、AIS(船舶自動識別装置)の情報を去年と比較すると、中国に向かうタンカーが倍増しています。

海上交通路が長期に渡って戦場になる場合に備え、石油の備蓄を始めた可能性があります。

中国がここまで偽装に努力するのは、やはり奇襲によって米軍が本格的に介入する前に、台湾を攻略したいからでしょう。」


「あなた方の分析通りですと、情勢は深刻なものになりつつあるようです。

ということは、米軍が航行の自由作戦を実施するのは危険ではないですか?」


今度は統幕長が大臣に答える。

「そうなのですが、アメリカはアメリカで現在所謂「チャイナゲート事件」の対応に追われています。

政府が混乱していることも多少関係あるかもしれませんが、軍は予定通りです。

空母「ジョージ・ワシントン」は例年通りドックに入りました。

我々の掴んだ情報すら、じつは行動の自由作戦を中止させて、米軍を後退させるための偽情報の可能性もあります。

同様の事情は尖閣諸島にも言えます。あそこに張り付いている、海保や海自の船を安易に退避させれば、中国の公船に尖閣を抑えられかねません。」

「そうですか。ギリギリまで厳しい判断の連続ということになりそうですね。怪しいと思っているのに、私達は気づいていない振りを続けるなんて・・・。」

「全く。仰る通りです。それと、中国の上陸用艦艇の集まり具合を見ると、上海にかなりの数が集結しつつあります。

北から台湾北部に向かうつもりかもしれませんが・・。」


「行き先は台湾でなく、その手前。尖閣諸島どころではなく、沖縄かもしれない。そういうことですね?」


会議は、日米の集めた情報を収集した結果、台湾、沖縄への侵攻の可能性が高まっていると結論していた。

しかし、その時期がいつになるか、侵攻の規模がどの程度か、そもそも本当に侵攻があるのかまでは、はっきりと結論出来なかった。

それでも念のため、海自艦艇のドック入り整備、及び空自戦闘機の重整備であるIRAN整備の前倒しと、春の人事異動を最小限にすることを決めることは出来た。


あからさまに過ぎる警戒は、相手に先制予防攻撃の口実を与えかねないという問題もある。


このため、侵攻の可能性がいよいよ現実となった場合に備え、諸条件を勘案した上での南西方面への緊急展開計画の策定しておくことが、運用部長である小川海将に指示されたというわけだった。

計画そのものは以前から存在している。だが、情勢の変化を受けた上で細部を再検討し、より実践的な計画に煮詰める必要があるのだ。

しかも、統合司令官からは緊急展開に許される時間がどの程度になるか、ケース分けで計画を準備するように指示された。

つまり完全に後手に回って、侵攻が始まってから増援を送る場合。後手に回ったにしても、1日程度は時間がある場合から、最大1か月前には準備が始められる場合まで様々だった。


小川はざっと、必要な人員とスケジュールを頭の中で描くと、会議室の外で個人のスマホで妻に電話を入れた。

「母さん?今いいかい?ごめん、急に忙しくなっちゃってね。そうなんだ。悪いけど2週間くらい家に帰れないから。済まないね。」

妻の返事は、いつも通り「はいはい。家庭円満の秘訣は亭主元気で留守がいい!ですよ。ウチのことは任せておいて頂戴。着替えを取りにくる時は、前もって連絡頂戴ね。お弁当作るから。」と、いうものだった。


出張や艦艇勤務に単身赴任が多かったが、かえって夫婦間はいつまでたっても新婚のような初々しさが続いて円満この上なかった。


その後、子供達の最近の様子を妻に確認した(直接連絡するとウザがられる)。彼の中での最優先の調整事項を完了させた小川運用部長は、さっそく仕事にかかった。

まずは陸海空の各幕僚長にかけあって、必要な人員を差し出してもらうための交渉から始める。


同じ頃、同じ東京の真紀子の自宅では、彼女が悲壮な決意を固めていた。親子喧嘩覚悟で花にSONを辞めるように説得するため、意を決して、電話をかけようとしている。



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