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沖縄・台湾侵攻2025 Easy Mode 完全版 Ver2.1  作者: しののめ八雲
エピローグ
214/221

亡霊との対峙

そうしたある日、実家の周辺で相変わらず、今後どうすべきかを考えていた加奈子は、行く手を二人の女性に阻まれた。一人は知っている。田渕だった。

もう一人は知らない。かなり太っている。年齢は自分と同世代か、老けても見える。


「お久しぶりね。中村さん。私を覚えている?」

「ええ、田渕さん。お久しぶりです。あなたも出所したんですか?」


SONほど直接的な行動をとっていなかった田渕のNPOだったが、NPOとしては禁止されている、政治的活動を行ったことで告発されていた。

このため、「外患援助罪」「破壊活動防止法」のいずれも適用されることがなかったのにもかかわらず、彼女は中国への亡命、いや海外逃亡を企てた。

だが、中国の態度はそっけないもので、田渕の目論見は失敗している。


他にも、公金の不正使用や、募金詐欺などの罪で起訴された彼女は初犯にもかかわらず、執行猶予がつかなかったのだ。

だが、獄中で「反省」の意を示したことで、澤崎、加奈子らと前後して恩赦が与えられていた。


「待ち伏せるようなことをしてごめんさない。でも、どうしてもあなたに会いたいという人が居るの。」

「会いたい人?」

「こちら、久米未来さん。亡くなられた、久米和子さんの一人娘さん。」

その素性を聞いた時、加奈子は血の気が引く気がした。


久米の娘は、母のしでかしたことを反省もせずに正当化。それにとどまらず、破壊活動防止法における「調査対象団体」の主要メンバーとして、活動をしていると聞いていた。

勿論、反政府親中派組織だ。


「はじめまして、久米未来です。

中村さん。担当直入に言います。今度こそ沖縄を独立させ、母の仇をうつことを手伝っていただけませんか?

あなたを『日本のジャンヌダルク』こと八木花さんの親友と見込んでのことです。」

「あなた・・、一体何を言ってるの?田渕さん、反省したんじゃなかったの?」

「あんなの「フリ」に決まってるじゃない。早く釈放されるためよ。恩赦の材料になってくれるなんて、あんな連中もたまには役に立つものね。」

そういって、田渕は日本国民の敬意を集める「存在」を小馬鹿にした。


「冗談じゃないわ!私達のせいで、一体何人の人が亡くなったり、不幸になったと思っているの!」

それを聞いた、未来の表情には哀れみが浮かんだ。

「可哀そうに・・・。刑務所で洗脳されてしまったのね。でも大丈夫。私達と一緒に来てくれれば、真実に目覚めさせてあげる。仕事も紹介できるわ。」

「可哀そう・・・!?仕事を紹介してやる・・!?冗談じゃない!あなた達こそ、自分達の罪と向き合う勇気も無い、臆病者じゃない!」

その後も押し問答が続いたが、周囲に人が現れたところで、田渕と久米は立ち去った。


「後悔するわよ」と言い残して。


身の危険を感じた加奈子は、事情を家族に告げて、実家を出た。

家族に当座の金を借り、格安のアパートに入り、犯罪者の更生支援をする団体に相談し、とにもかくにも職を得たのだった。

澤崎にも事情を説明したが、「無茶をするな」と心配された。

だが、彼女は「大丈夫です。これも自分の責任の取り方の一つです」と返信した。


加奈子の予感通り、しばらくすると、実家の住所が特定され、極右団体や個人活動家からの嫌がらせが始まった。

だが、あらかじめ警察は警戒を強めており、彼等の活動はあっさりと取り締まられたのだった。


だが、久米と田渕にしてみれば、澤崎や中村は「裏切者」で、決して許されるべき存在では無い。

加奈子は自分なりに、身の安全に気を使っていたつもりだが、下宿先を特定されるのは時間の問題だった。

警察は下宿周辺のパトロールを強化していたものの、真紀子の言葉にもかかわらず、未だ罪の意識に苛まれていた加奈子は「殺されるなら、それはそれで良い」と考えていた。


ある日、加奈子は露骨な脅迫を受けた。

WEB上でスラングを混ぜたDMが来たのだ。要約するならば、

「お前の住所は特定できた。今すぐ日本から出ていけ。さもなければ、弱腰の政府に代わってお前を○○する」

それを見た加奈子は矛盾する行動を行った。

澤崎に状況を告げる一方で、警察の警戒範囲の外でこれ見よがしに出歩いたのだ。

こんなしょうもない連中に殺されるとしたら、それは癪だが、道連れにしてやれるし、殺されることで罪滅ぼしになると考えていた。

澤崎は「馬鹿な真似はやめろ」と言ってきたが、加奈子は応えなかった。

結局、彼女は精神的に脆いのかもしれない。


彼女がやって来たのは、よりにもよって、歌舞伎町の目立たない裏通りだった。

こんな所では、だれかがトラブルに巻き込まれても、誰も気づかない。


そして、深夜。

貧相な、あるいは小太りの男性6名に加奈子は取り囲まれた。

「中村加奈子だな?」

「そうよ。女性を待たせるなんて、礼儀知らずね。」

「覚悟は出来ているようだな。ついてこい。」


路地の奥に彼女を連れて行った連中は、鉄パイプ、砂を詰めた靴下、といった物を取り出し、動画の撮影を始めた。さらに実況解説を始める。

「えー、今から売国奴のクソ女に制裁を加えます。」

「・・・。女の子一人に、大の男数人がかりで武器持ってリンチですかあ?」

「黙れ。お前みたいなクズは死刑が当然なのに、ノコノコと出てきやがって。腰抜け政府と天に代わって成敗してやる。」

「そうだ。後悔しながら死んでいけ!」

「言われるまでも無いけど、アナタ達、昔の私達とそっくりね。」

「なんだと!?」

「自分で勝手に正義を決めて、動画なんかに撮っちゃって。そんなことで誰かに認めて欲しいの?」

「お前らみたいな売国奴と一緒にするな!このクソアマ!!俺達は国を守ってるんだよ。」

「それ自衛隊の仕事でしょ?あ、でも。アンタ達の体じゃ自衛隊に入れないか。頭も悪そうだし。今自衛隊すごい人気職種だから、アンタらみたいなクズは絶対合格できないよね。」

「何だと!くぁwせdrftgyふじこlp!!」

加奈子の言葉に激昂した一人が、鉄パイプを加奈子に振り上げた。彼女は覚悟を決めて、きつく目を閉じる。



だが、痛みと衝撃は訪れなかった。かわりに「パシっ」という、乾いた音が響いた。

加奈子が恐る恐る目を開けると、いつの間にか現れた男が、鉄パイプを持った男の手を受け止めている。

「そこまでだ。」


男はもう一人居た。順序良く、加奈子に集団リンチにかけようとした男達の武器を、その手からあっさりとはたき落としていく。

そして次の瞬間には彼等を後ろ手にして、結束バンドで拘束し、足裏にケリを入れて、転倒させて制圧する。

あっという間の早業で5人を制圧してしまった。

「・・・な!?痛って!」

最後に、鉄パイプを受け止めた男が、最後の一人となった相手からあっさり獲物を取り上げ、拘束する。


「もう大丈夫だ。ケガは無いかい?」

「ええ、あなた達は?」

「詳しい身分は明かせない。俺と相棒は君と同じで、八木花さんに借りがあるんだ。俺達もあの日、宮古島に居たんだよ。」

「え・・・。自衛隊の人?」

もう一人の男が口の前に指を立てて、加奈子に沈黙を促す。


拘束された男が喚いた。

「自衛隊員!?何でコイツじゃなくて、俺達をヤるんだよ。この女は敵だぞ!」

「うっるせえなあ。せっかく無傷で押さえてやったのに、ケガしたいのか?

いいか、お前らのやったことは、武器準備集合罪と暴行未遂、それと外患援助罪の現行犯だ。

長いぞ。タイミングも悪い。恩赦の直後だからな。せいぜい裁判頑張れよ。」

「ちょっと待てよ!なんで国を守った俺達が外患援助罪なんだよ!だいたいコイツが外患誘致罪にならないのがおかしいだろ!」

「日本は法治国家だ。

裁判所が決めても無いのに、勝手に売国奴認定して、私刑を実行したらもはや法治国家では無い。

それに、恩赦されたばかりのこのコをお前らが虐殺なんかしてみろ。

中国どころか世界中から非難の対象になるだろうが。どこが、民主主義で、法治国家で、言論の自由で、人権の尊重だってな。

まあ、その程度のことが分かんないから、こんなことが出来るんだろうけどよ。」

「違う!俺達は間違ってない!」

「それにな、お前らはあの久米和子の娘の計画に乗せられてたんだぜ?

ネット右翼を煽動して、連中にとっての裏切り者を始末させて、日本の立場を悪くするっていう、セーっコい計画にな。」

なおも男達は喚いたが、駆け付けた警察に連行されていった。


そこへ、加奈子が知っている人間が駆けつけてきた。

「澤崎さん・・!?」

「おーう。澤崎君久しぶりだ!元気そうで良かった!釈放おめでとう!大丈夫。彼女は無事だよ。」

「石橋さん、白神さん、ありがとうございます!」

「田渕と久米の馬鹿娘が、暴行を教唆した証拠も押さえた。他の件と併せて、公安に情報引き渡して、家宅捜索だな。」


加奈子が自暴自棄とも言える行動を起こしたことを案じた澤崎は、李の件の時に、特殊作戦群から渡されていたプロトコルを使用して、石橋と白神に助けを求めたのだ。

特殊作戦群は、サイバー作戦群と公安と連携し、久米達の行動をモニターして泳がせると、実行犯の動きを探知。

逮捕そのものは警察の担当だが、加奈子の安全を確保しつつ、実行現場を押さえる難しい役目は、石橋と白神のバディが志願したのだった。

ちなみに、この任務のために、二人は以前から真紀子と交わしていた、ある約束を急遽キャンセルせざるを得なかった。


緊張の糸が切れた加奈子は、澤崎に抱き着いて泣き出していた。


パトカーに澤崎と加奈子を誘導しながら、石橋が謝罪する。

「危ない目に遭わせて済まない。だけど、この方が確実に今後の安全を確保できると思ってね。

それにしても、見かけによらず無茶するんだね。SONの女子は、こういう子ばっかりなのかい?」


事情聴取のために移動するパトカーの車内で、澤崎は加奈子を咎め、説得した。


「中村ちゃん。だめだよ。今、二人が説明していたように、あんなクズ共に殺されてやることは、決して償いにはならないんだ。

今回助かったのも、きっと八木さん、小田君、青池が守ってくれたからだよ。

自分を許せないと思うんだったら、僕が立ち上げる政党の活動に協力して欲しい。SONの改心したメンバーを集めてるんだ。」

「済みません・・。」

加奈子は澤崎の提案を受け入れた。


こうして、SONの生き残りは大きく2分された。

決して非を認めず、久米未来のグループ等に参加する者。

後に与党に合流することになる、澤崎の政党に参加する者。

かつての仲間達は、事実上の敵味方に分かれて激しく敵対することになる。

だが、その境遇は年を追うにつれ、落差が極端になっていく。

日本社会において、どちらが受け入れられていくかは、諭を待たないだろう。


習志野に引き上げる石橋と白神は、この一件を振り返っていた。

「手前勝手な正義に陥るか。耳が痛い。お互い気を付けないとな。相棒。」

「そうだな。」

洋の内外を問わず、特殊部隊員の正義感が暴走する事例は意外に多い。

二人は自戒を新たにした。

実際彼等は、政府まで巻き込んで、法的根拠も無いままに武器を使用して李を処刑したのだから。


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