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沖縄・台湾侵攻2025 Easy Mode 完全版 Ver2.1  作者: しののめ八雲
エピローグ
213/221

恩赦

澤崎拓哉と中村加奈子には恩赦が与えられた。

澤崎の場合「ひき逃げ」の罪は不起訴になっている。皮肉なことだが、中国側が完璧に証拠を隠滅していたために、本人の自白だけでは立件が出来なかったのだ。

被害者の唯一の親族である妻も、侵攻直前に他界しており、この件で澤崎を訴える者は居なかった。


いや、澤崎自身の告白を根拠に起訴する者達が存在したのだが、結局は証拠が無く、澤崎の罪は「外患援助罪」「破壊活動防止法」に対するものに留まった。

それでも澤崎には懲役15年。中村は未成年だったこともあり、懲役8年が求刑された。二人とも控訴はしなかった。

残りのSONメンバー達も、素直に刑に服することを選択した者が多かった。

だが、中にはそんな彼等を「裏切者」と呼んで、最高裁まで裁判を続ける狂信的、あるいは罪を認める勇気の無い者達も居た。あるいは、表面上だけの改心を装った者も。


澤崎は4月2日の攻撃が始まった時、炎に包まれる那覇と、戦場になった先島諸島の有様を映像で見て、涙を流して後悔していたが、今更後悔しても遅すぎた。

結果として、母親を「売国奴の母」にしてしまい、償いきれない罪を背負ってしまったからだ。


一方で、日本人の危機感は未だに薄い。

具体的な破壊活動にまで踏み込まず、罪に問われなかった親中派は、相も変わらず「反省」などせずに「日本の方に問題があった」と主張していた。

さすがにその主張は大半の日本人には受け入れられていないが、どうしても一定数は同調する者達が存在してしまうのも事実だ。

歯がゆいことではあるが、日本では言論の自由が守られている。


ならば、そんな連中と徹底的に戦い、日本をあるべき姿に変えてやる。

教村に語った通り、澤崎は恩赦後、日本社会の批判に耐え、親中派の残党と戦うことこそが、罪滅ぼしになると決意していた。


一方で、中村にとって恩赦は有難迷惑だった。

多くの人が亡くなり、直前まで一緒に行動していた花も無残に亡くなったというのに、自分は生きている。

その現実を、どうしても納得できないでいたからだ。

仲が良いつもりでいたが、ギリギリのところで花が自分を信じてくれなかったことも響いている。


獄中で、ひたすら反省と亡くなった人々への謝罪と冥福を祈る日々を送っていたが、世間に出るにはまだ早すぎると思った。


出所前に、取材に訪れた教村経由で澤崎に相談すると、彼はこう伝えて来た。

「こう考えてはどうかな?世間の僕らを見る目は、厳しい。

それと直接向き合うことは、それはそれで苦しいことだよ。刑務所に居ることは、ある意味世間の批判から守られている。

それに八木さんのお母さんに直接謝罪して、お墓参りさせてもらいたいでしょ?」


その意見を聞いて、中村は考えを変える。

出所した彼女は、家族に迎えられた。両親も、兄弟も暖かく迎えてくれたことが、かえって彼女を苦しめた。

本当に迷惑をかけたと思うし、改めて多くの人々から家族を奪い、暖かい家庭を破壊してしまったことを思い知ったのだ。


実家に帰って数日後、数年ぶりにコンビニを利用し、好きだったパスタを食べてみた。不味かった。罪の意識がそう感じさせているのだ。だが、中村はある意味安心した。


いつまでも実家の厄介になるわけにはいけないから、いずれ働かないといけない。だが、自分を雇ってくれる職場などあるのだろうか?

だが、その前に。


中村は、真紀子の元に訪れて、謝罪したのだった。

花の母は、泣き笑いのような表情で彼女の謝罪を受け入れると、花の墓へと案内してくれた。

(八木家の墓は、元々真紀子の地元にあったが、花が亡くなった時に東京に移していた。)


墓参りの後で、恐縮する中村に真紀子は紅茶とケーキを出した。

「お姉ちゃん、抱っこしてー。」

言われるがままに、じゃれついて来た里奈を中村は抱き抱える。彼女のふわふわした話し方は、刑務所にいる間に「普通」になっていた。

「はいはい。あなたお名前は?」

「里奈ー!」

「里奈ちゃんはいくつ?」

「5つー!」

「あら、里奈ちゃんはお利口さんね!」

そういうと、照れくさくなったのか、里奈は中村の腕から飛び出して、「えへへ!」と言いながら、どこかへ駆け出して行った。

その姿を見送った中村は、

「花さん、妹さんが居られたんですね。」

と尋ねる。

「違うわ。」

「え?」

「あの子はまだ事情が良く分かっていないのだけど・・・。花のせいで家族を失った子なの。罪滅ぼしというわけでもないのだけれど・・色々あって私が引き取って育てているの。」

「そうですか・・。」

中村は事情を察した。


「ねえ、中村さん。あなたと同じように、私も罪の意識と後悔を持ち続けているわ。

何故あなたが生き残って、花は死んだのか?どうしてもそう思ってしまうのも確か。

でも、せっかく生き延びて、反省をしているのだから、花の分も前向きに生きて欲しいって思うわ。」

「それは・・。ありがとうございます。」


真紀子は加奈子に、

「また、来てね。」

と言って、送ってくれた。


真紀子はああ言ってくれたが、今後どうするか。

実家に引きこもって陰鬱にならないよう、人目を気にしながら加奈子は散歩やジョギングをしつつ考えていた。

少し不用意だったかもしれない。

実家の周辺で、彼女の行動を監視していた者達が居たのだから。それに彼女の中の心残りは、真紀子に謝罪したことで大部分無くなってしまっている。


新たにスマホを得た加奈子は、澤崎と連絡をとった。

釈放前に、お互いそうする約束をしていたのだ。

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